中国の地下鉄業界は、深刻な財務問題に直面しています。地下鉄や鉄道運営企業29社が最近公表した2023年度の財務報告によれば、政府補助金を差し引いた後、いずれの企業も赤字を計上し、その累積負債総額は4.3兆元(約90兆円)に達しました。業界関係者は、拡大を続ける鉄道交通建設と地方政府の財政圧力との間で、矛盾がますます顕著になっていると指摘しています。

業界全体で赤字、補助金も意味なし

 2024年末までに、中国の鉄道総延長は1万キロメートルを超え、世界有数の規模に達しました。しかし、その経済的成果は芳しくありません。財務報告によれば、北京地下鉄や深圳地下鉄といった代表的な鉄道会社でさえ、政府補助金なしでは収益を維持できないことが明らかになっています。

 たとえば、比較的経営状態が良いとされる北京地下鉄は、2023年の親会社株主に帰属する純利益が24億元だったものの、政府補助は253.4億元でした。この補助金を差し引くと、実質的な赤字は229.4億元(約4,800億円)に達します。深圳地下鉄も業界トップクラスの収益規模と利益率を誇るものの、補助金を除くと2023年は1.8億元(約38億円)の赤字を計上しました。

 中国では、地下鉄事業が公共サービスの要(かなめ)として長く位置づけられてきましたが、その背後では深刻な財政負担が積み重なっています。

 2020年に発表されたデータでは、22都市の中で、政府補助金を除いた利益額が黒字だったのは、深圳や武漢など7都市だけでした。残りの15都市はいずれも赤字に陥っていました。

 翌年2021年に公表されたデータでは、24都市の中、深圳や武漢など5都市を除けば、他は赤字でした。

 さらに2022年の発表では、32都市のうち、補助金を差し引いてなお黒字を保てたのは、武漢、深圳、済南、上海、常州の5都市だけで、残りの27都市が赤字でした。

 2023年にデータが開示された29の都市では、すべての地下鉄事業が赤字に陥っていることがわかりました。データによれば、29社の鉄道会社は合わせて約1,000億元(約2.1兆円)の政府補助を受けていましたが、それでも赤字を解消することはできなかったのです。

TODモデルの衰退

 これまで深圳市と武漢市では、公共交通を基盤に置き、自動車に依存しないTOD(公共交通指向型開発)モデルに基づいて都市開発を行いました。その結果、都市の収益力を際立たせることができ、

 深圳を訪れたことのある人なら誰でも、深圳地下鉄が地下商業や地上の不動産開発を特徴としていることを知っています。武漢地下鉄も同様の手法を踏襲しています。しかし、不動産市場の低迷が影響し、2023年にはこのモデルが挫折を経験します。深圳地下鉄の不動産関連収入は前年同期比で8.3%減少し、武漢地下鉄の収入は驚くべきことに97.1%もの下落となりました。

 TODモデルとは,地下鉄駅周辺に職場や商業施設、文化施設、教育機関、住宅などを一体化した複合区域を形成する手法です。つまり、地下鉄と商業を結びつけ、人々が移動する際に消費欲求を満たし、経済発展を促すことを狙いとしています。深圳地下鉄は、中国本土で最も早くTODモデルを参考に発展させた事例で、2008年には早くも141万平方メートルの土地を購入し、不動産販売収入で地下鉄開発を補うモデルを開始しました。しかし、現在の中国のマクロ経済環境と不動産市場の変化によって、このモデルは深刻な試練に直面しているのです。

債務激増で地方財政にリスク

 2023年末時点で、北京地下鉄の総負債額は5,742.2億元(約12兆円)、深圳地下鉄は3,962.1億元(約8.3兆円)、広州地下鉄は2,598.9億元(約5.4兆円)に達しています。これらの巨額な債務は莫大な利息負担を生み出しており、北京地下鉄の親会社である「北京市基礎施設投資有限公司」は2023年に131億元(約2,800億円)の利息を支払い、成都・深圳・重慶の地下鉄運営会社も年40億~72億元(約840億~1,500億円)の利息支出を強いられています。

 地下鉄網は都市の交通効率を高め、市民生活を便利にしたものの、その経済的利益はコストに見合っていません。この傾向は、地方債務リスクに対する懸念を呼び起こしています。専門家は、中国経済のマクロ環境が近年大きく変化し、地方財政問題が深刻化していると指摘しています。不動産市場の低迷や地方政府の財政難が続く中、インフラ拡張と債務管理のバランスを適切に取れなければ、地方財政への圧力はさらに高まる可能性があると懸念されています。

地下鉄投資、持続可能性に疑問

 深刻な赤字が続いているにもかかわらず、多くの都市で地下鉄建設が続けられています。12月上旬には、蘇州軌道交通7号線、成都地下鉄8号線の第2期、西安地下鉄8号線など、新たな路線が相次いで開通しました。さらに、合肥市、北京市、天津市、武漢市などでも、年末までに新路線の開通を計画しています。

 新たな地下鉄建設計画も続々と審査段階に入っています。たとえば成都市は鉄道の総延長を199.8キロメートル追加する案をまとめました。また、広州市は8本の新たな線路を追加し、175.5キロメートル分の鉄道を建設する予定で、総投資額は3.7兆円に上ります。とはいえ、地方政府の債務問題が顕著な状況下で、国家による軌道交通建設への厳しい審査をクリアしなければなりません。

 近年、中国政府は地下鉄建設に対する審査規制を強化しており、たとえばハルビンは債務率が基準を超えたため、地下鉄2期建設計画が却下されています。また、黒龍江、吉林を含む12の省・市では、新たな軌道交通プロジェクトの建設が禁じられています。多くの都市が策定した新計画も、こうした厳格な審査を通過しなければならず、今後は経済的により発達し、財政力が強い都市でなければ承認を得ることは難しいとみられています。

 米国在住の学者、唐茂琴氏は「地方政府はインフラ整備によって雇用を生み出し、GDPを押し上げたいのだろう。かつて多くの道路や橋梁で、建てては壊し、壊しては建て直すといった無駄な動きが見られた」と述べています。彼女は、多くの二線、三線都市では人口が減少しているため、鉄道施設の拡張には疑問が残ると指摘しました。さらに、一部の地方政府はインフラ整備によって経済を刺激し、業績を残そうとしているものの、こうした「メンツ重視」のプロジェクトは長期的な経済コストを無視するものであり、大きなリスクをはらんでいると指摘します。

(翻訳・唐木 衛)