近年、中国経済の成長が鈍化する中、多くの企業が経営難に直面し、従業員への賃金未払いが深刻化しています。この影響で、労使間のトラブルが頻発し、正当な給与を求める労働者たちが声を上げても解決されない状況が続いています。その結果、一部の労働者はやむを得ず過激な手段に訴え、抗議活動として放火のような極端な行動を取るケースも見られるようになりました。このような行為は社会的に大きな注目を集めていますが、中国政府の対応は抗議活動を抑え込むことに重きを置いており、拘留などの強硬策が取られることが少なくありません。
たとえば、浙江省永康市(えいこうし)にある中希科技(ちゅうきかぎ)という企業では、従業員数名を解雇した際に法定の補償を支払わなかったことで労働問題が発生しました。解雇された従業員たちは正当な補償を求めて抗議しましたが、企業側は従業員の訴えを封じ込めるためのさまざまな手段を講じました。それに対し、従業員たちは妥協せず、12月19日の夜、会社の建物に火をつけるという行動に出ました。同様の事件は遼寧省大連市でも発生しており、大連湾付近の工場では給与未払いに抗議した労働者が暴力的に追い払われました。これに激怒した労働者たちは最終的に工場で放火する形で報復しました。また、12月21日には江蘇省太倉市(たいそうし)の工場で火災が発生し、現場から黒煙が空高く立ち上る様子が目撃されました。関係者によれば、この工場では長年労働問題が解決されず、従業員たちはあらゆる手段で助けを求めたものの状況が改善されなかったため、最終的にこのような形で抗議せざるを得なかったといいます。
専門家によれば、賃金未払い問題をきっかけにした抗議活動は中国全土で広がりつつあり、労働者たちは互いの手段を模倣して行動をエスカレートさせています。ストライキや集団抗議だけでなく、放火といった過激な手段に訴えるケースが増えており、このような動きが適切に収束しなければ、全国的な混乱に発展し、社会の安定が脅かされる危険性があると指摘されています。
こうした状況の中で、一部の労働者は未払いの給与を回収することに成功しましたが、その代償は非常に大きなものでした。多くの労働者が「悪意のある抗議活動」と見なされ、警察に拘留されています。あるネットユーザーは、企業から30万元以上の給与を未払いにされ、抗議を通じてようやく給与を取り戻したものの、「社会秩序を乱した」として警察に15日間拘留されたと語っています。また、数万元の給与を取り戻した別の労働者も同様に6日間の拘留処分を受けたと述べています。さらに、未払い額が170万元に達するケースでは、「これを取り戻すには何日拘留されればいいのだろう」と皮肉を込めた投稿も見られます。
中国政府は賃金未払い問題に対して「ゼロトレランス」を掲げていますが、実際の対応は矛盾に満ちています。新華社通信によると、12月20日、中国国務院雇用促進・労働保護作業指導グループが賃金未払い問題の解消に向けた会議を開催し、特に地方政府や国有企業が関与するプロジェクトの未払い問題を重点的に整備することを強調しました。さらに、中国最高人民法院は建設業界を中心に、地方政府や国有企業プロジェクトに関連する未払い案件を集中的に処理するよう指示しました。
しかし、アメリカ在住の元中国人権弁護士である陳建剛(ちん・けんこう)氏は、中国共産党(以下「中共」)によるこれらの発表は、労働者の権益を守るものではなく、社会的不満を沈静化し政権の安定を維持するためのパフォーマンスに過ぎないと指摘しています。彼は、中国が法治国家であれば、賃金未払い問題は法律を通じて迅速に解決されるべきだと述べています。現在のような広範な労働問題や過激な抗議行動が発生している背景には、中共の体制に起因する不公平さがあると分析しています。
陳氏はさらに、中共がある問題を大々的に宣伝する場合、それはその問題がすでに政権の安定を脅かすレベルに達していることを示していると指摘しています。政府が行う行動の目的は、問題の根本解決ではなく、政権維持と統治の安定にあるとしています。
中国政府のこうした姿勢は、農民工(居住地域の郷鎮企業や都市・町部に出て就労する農村戸籍者を指す)の代理を務めた弁護士への対応にも反映されています。「新京報」によれば、山東省泰安市の弁護士である高丙芳(こうへいほう)氏は、農民工75人の代理人として未払い賃金の支払いを求めた結果、「虚偽訴訟罪」に問われ、懲役4年の判決を受けました。この事件は、ある建設プロジェクトで発生した未払い問題に端を発しています。プロジェクト完了後、施工主の建設会社が大半の工事費を未払いにしたことで、下請け業者が自費で労働者の給与を支払いました。その後、労働者たちは高氏を代理人として雇い、法的手段を講じました。しかし、当局はこの訴訟を「虚偽訴訟」と見なし、高氏に責任を追及したのです。高氏は法廷で無罪を主張し、自分は下請け業者による立て替え払いの事実を知らなかったと説明しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。
この事件について、アメリカ在住の法学者滕彪(とうひゅう)氏は、高氏の有罪判決は中国の法治環境が大きく後退している現状を象徴していると指摘しました。滕氏は、中共が弁護士を「国家の敵」と見なし、裁判所が弾圧の道具として利用されていると批判しています。
また、農民工への賃金未払い問題は、企業の違法行為だけでなく、地方政府や国有企業プロジェクトの未払いが連鎖している点にも問題があります。「中国労工観察」の創設者である李強氏は、建設業界の経営者たちも地方政府や国有企業からの工事費未払いに悩まされており、この連鎖が最終的に最も弱い立場の労働者にしわ寄せされると指摘しています。
(翻訳・吉原木子)