米国のメディアは最近、中国の銀行が3年ぶりに、新たな住宅ローン金利を引き上げたと報じました。この動きは、不動産市場が低迷し、経済成長が鈍化している中で、特に注目を集めています。シンガポールの調査会社、Data Motion International Trading Pte.によると、2023年11月、中国の42主要都市における、初回住宅ローンの平均金利は、過去最低の3.05%から3.08%に上昇しました。これは2021年10月以来初めての金利引き上げです。
専門家は、この措置が規制当局の指導によるものだと考えています。その目的は、将来のさらなる大幅な利下げに備え、調整の余地を確保することにあると指摘されています。しかし、この動きは不動産市場の回復や、住宅需要を直接的に抑制する可能性があります。香頌キャピタルの沈萌取締役は、「現在の市場環境では、金利引き上げは理にかなわないが、来年の政策調整を見据えた準備かもしれない」と述べています。
現在、中国の銀行業界はかつてない利益圧力に直面しています。純金利差(銀行の収益性を測る重要な指標)は1.53%まで縮小しており、国際的な警戒ラインとされる1.8%を、大きく下回っています。この純金利差の縮小は、中国人民銀行がさらなる利下げを、行う余地を制限する要因にもなっています。こうした背景の中、銀行は収益性の低下に対応するため、さまざまな対策を講じる必要に迫られています。
銀行間の価格競争を緩和するため、中国人民銀行は地方規制当局を通じて、金利調整を指導しています。この「市場金利設定自律」と呼ばれる制度は、過度な競争が銀行の利益を、さらに圧迫する事態を防ぐことを目的としています。しかし、この調整が経済成長を促進する効果は、非常に限定的であり、特に不動産市場が低迷している現状では、その効果はほとんど期待できないとされています。
中国の銀行業界は長年、不動産市場と密接に結びついてきました。不動産バブルの崩壊に伴い、銀行業界のリスクが徐々に顕在化しています。不良債権の急増は、銀行システム全体で共通の課題となっています。データによると、2023年9月末時点で、中国商業銀行の不良債権総額は、過去最高の3.4兆元に達し、年初から大幅に増加しました。
例えば、中国交通銀行では、不動産関連の企業向け融資の不良債権比率が、1年間で2.8%から4.99%に急上昇しました。また、中国工商銀行では、個人向け住宅ローンの不良債権が9.6%増加し、総額278億元に達しました。地方商業銀行の状況はさらに深刻で、重慶銀行では不動産ローンの不良債権比率が、2016年の0.2%から、2023年6月には7.14%に上昇しています。
地方銀行の不良債権問題は特に、経済成長が鈍化している地域で顕著です。例えば吉林省を拠点とする、九台農村商業銀行では、2023年の不動産不良債権が、37%増加しました。一方、貴州銀行では、不良債権が約50%増加しています。これらのデータは、地方銀行の資産品質が急速に悪化していることを示しており、中国銀行システムに潜在的なシステムリスクが、存在することを明らかにしています。
不動産市場の低迷は、競売物件市場の滞留を直接引き起こしています。財新週刊によると、2022年に中国で新規登録された競売物件は、39.56万件、2023年には53.36万件に増加し、前年比で20%以上の増加を記録しました。さらに2024年前10カ月では、54.6万件に達し、前年比で63.07%増加しています。しかし、登録件数が増加しているにもかかわらず、成約率は2022年の25.44%から、2024年には23.85%に低下しました。また、平均成約割引率も、2022年の81.56%から、2024年には77.32%に下がっています。
競売物件市場の滞留現象は、さらなる金融危機の兆候と見なされています。1990年代初頭に日本で不動産バブルが崩壊した際に生じた、「失われた20年」が教訓となっています。住宅ローンを返済できない購入者が増えると、銀行は多額の不良資産を抱え込み、最終的にはシステムリスクに発展する可能性があります。
中国の経済学者、程暁農氏は、不動産バブルの膨張と崩壊が、銀行システムに与える影響は明白であると指摘しています。また、中国の銀行業界には、政府主導という構造的な問題も存在しています。ほとんどの銀行は中央政府や地方政府によって管理され、事実上「政府のATM」として機能しています。
大型銀行は、中国工商銀行や中国農業銀行が、長期的に大企業へ資金を供給し続けており、地方商業銀行は、地方政府の資金需要を支えています。地方政府は都市建設資金調達プラットフォームを利用し、新たな借金で、古い借金を返済する手法を繰り返しています。このような負債の連鎖は、最終的に銀行システムに、深刻なリスクを集中させる結果を招いています。
現在、中国地方政府の債務総額は、GDPの85%に達しており、そのうち都市建設資金調達、プラットフォームの未返済債務は65兆元に上ります。こうした状況下で、不良債権が増加し、金融リスクは避けられない状態に陥っています。資産減損引当金では対応しきれず、システムリスクの可能性がますます高まっています。
経済の低迷と不動産市場の崩壊という二重の打撃を受け、中国の銀行業界はリスクの増大に直面しています。人民銀行は準備金率の引き下げや、預金金利の削減を通じて、圧力を緩和しようとしていますが、これらの措置は根本的な解決には至っていません。地方政府の高水準な債務や、不動産市場の低迷が続く中で、銀行システムの脆弱性はますます明らかになっています。
住民の預金が大量に転用される現状では、社会的信頼も徐々に失われつつあります。住民の預金は本来、銀行の安定した運営を支える基盤であるべきですが、現状では地方政府や、国有企業の財政赤字を埋めるための手段に変わっています。銀行がこの圧力に耐えられなくなると、住民の預金は単なる数字上の幻となり、銀行システムそのものが、中国政権を揺るがす最後の要因になる可能性があります。
(翻訳・吉原木子)