中国の中間層が直面している苦境が、国内経済全体に深刻な影響を及ぼしています。失業の増加や高額な住宅ローンの重圧、消費の停滞などの問題により、かつて経済成長を支えていた中間層が急速に縮小しています。専門家は、これらの要因が総需要の減少を引き起こし、経済の長期的な低迷を招いていると警鐘を鳴らしています。
中国経済学者「中間層の消失は重大な問題」
中国を拠点とする証券会社「東北証券(ノースイースト・セキュリティーズ)」のチーフエコノミスト・傅鵬(フーポン)氏は、人口構造の高齢化と中間層の崩壊が進むことにより、中国経済の見通しは楽観的ではないと語っています。「今年の大問題は中間層の没落だ。今年に限らず、過去2年間、低所得層は安売りアプリである『拼多多(ピンドゥオドゥオ)』で買い物をしていたが、現在では中間層もそこで買い物をするようになった。この変化が経済に与える影響は非常に大きい」
傅鵬氏によると、近年のデータや調査から、中国経済の衰退がすでに明らかになっていると指摘しています。最初に生活の重圧を感じたのは、タクシー運転手や配達員などの低所得層であり、その影響が徐々に中間層へと広がっています。今年、中間層の急速な縮小が特に顕著な問題となっています。
傅鵬氏は、「今年突如現れた2000万人のネットタクシー運転手の多くは、もともと中間層の出身者である。中間層の縮小が総需要の継続的な減少を招いた」と分析しています。また、2019年以降、中国全体の需要は一貫して減少しており、この傾向は新型コロナウイルスの流行や外需の崩壊以前から始まっていたと強調しました。これは、中国の有効需要が初めてマイナスに転じ、中間層の消費意欲が著しく低下していることを示唆しています。
消費の落ち込みと中間層の消失
今年初め、「ピアノの販売量が激減」というニュースが中国国内のSNSで話題になりました。中間層の消失が現実の問題として注目されるきっかけとなりました。ピアノ産業の現状について、あるブロガーは次のように投稿していました。「ピアノ工場の経営者が『ピアノ産業は完全に崩壊している。昨年は全国の半数以上のピアノ工場が倒産した。かつて5万から6万元(約100万〜120万円)の価格だったピアノが、今年では5000元(約10万円)でも売れない状況である。韓国製のピアノは1万元(約20万円)で4台買える一方、日本製のピアノは同じ価格で2台手に入る。ヤマハやカワイといったブランドも値下がりしているが、購入者は現れていない』と語った」
ある楽器協会の副事務局長は、2023年にはピアノの販売量が急激に落ち込み、ピアノを学ぶ人も、購入する人も、一夜にしていなくなるようだと語りました。
中国のメディアの報道によると、ピアノが売れなくなった主な原因の一つは、2022年以降の中国経済の低迷により、中間層およびそれ以下の階層で消費の落ち込みが進行し、高級品や嗜好品の購入が激減していることだとされています。過去、中間層は自分の社会的地位への不安から、富裕層の消費習慣を模倣することを好み、多くの場合ピアノを購入していました。しかし現在、中間層は失業、給与減額、ローン返済不能といった危機に直面し、不安感が無限に増大しています。その結果、比較的費用がかかり、「無駄な贅沢品」とされる楽器であるピアノの購入を放棄するのは当然の流れとなっています。
中間層の苦境と生活水準の低下
375万人のフォロワーを持つ経済ブロガーの謝公信(シャーコウシン)氏は、中間層の多くが25歳から40歳までの高学歴・高収入層であると分析しています。これらの人々は製造業、教育業界、インターネット産業などの高収益産業に従事しており、高度な技術者や中間・上級管理職として活躍してきました。彼らは年間で数十万元(約200万円〜1000万円)を稼いでいます。彼らはまた、中国の消費を支える主要な層であり、政府のニュースで消費を刺激するためのターゲットとして挙げられる主要なグループでもあります。
謝氏は中間層の現況を次のように述べています。「年収が10万元から50万元(約200万〜1000万円)もあるのに、どうしてお金がないのかと不思議に思う人もいるかもしれない。しかし、収入だけを見るのではなく、支出の現状にも目を向ける必要がある。現在、ネット上で広く話題となっている『中間層の自滅三点セット』は、中間層がなぜお金を使いたがらないのかをよく説明している。自滅三点セットは、第一に、高額な住宅ローンを抱えた不動産を所有していることである。例えば、月収が2万元(約40万円)でありながら、住宅ローンが1万2000元(約24万円)に上る場合である。第二に、働かずに家で子どもの世話をしている専業主婦の妻を養わなければならないことである。第三に、国際学校に通う子どもを抱えていることである。この三つの固定費を合わせると、中間層の収入の90%が一気に消えることになる」
「彼らの月収は確かに2万元から3万元(約40万〜60万円)に達しているが、日常生活を維持するために使えるお金はせいぜい数千元(約1〜5万円)にすぎない。もし家に高齢の両親がいて介護が必要な場合や、現在の社会で広がる35歳という就職年齢の上限を考慮すれば、これらの未知のリスクが中間層の消費をさらに控えさせている」
「高負債と高支出が中国の中間層を本当に追い詰めている。会社で長時間の『996(朝9時から夜9時まで週6日勤務)』に耐え、自分の体を酷使し、上司にさまざまな理不尽な要求をされても、彼らは本当に辞職する勇気を持てない。なぜなら、収入を失えば、毎晩目を閉じたときに頭をよぎるのは、数万元もの住宅ローンの支払いや子どもの学費といった高額な出費への不安だからである。それはあまりにも恐ろしい現実である」
「近年、不動産業、教育業、ゲーム業界などの調整により失業した人々も、かつては中間層に属していた。彼らは全盛期には月収が3万〜4万元(約60万〜80万円)に達し、同世代の中で誇らしい存在だった。当時の彼らは未来に大きな希望を抱いていた」
「昨日まで詩的で優雅な生活を送っていた中間層が、政府のたった一つの政策によってその所属する業界が一気に寒冬期を迎えることになった。このような大きな落差のある変動は、彼らの人生設計を破壊し、優雅な中間階級から貧困層へと転落させた」
「かつての中間層はスターバックスのコーヒーを飲み、高級通販サイトである天猫(テンマオ)や京東(ジンドン)で買い物をしていたが、現在では安売りアプリ『拼多多(ピンドゥオドゥオ)』での購入にも抵抗がなくなった。現在では路上で安価なスナックを食べる姿も見られるようになっている。5.9元(約120円)のファンデーションが1日に5万個も売れ、かつて大人気だったピアノが全く売れなくなったとき、それが中間階級の消えている兆候であることを示している」
経済政策と中間層の課題
2020年の中国全国人民代表大会(全国両会)の記者会見で、当時の李克強総理は「中国には月収1000元(約2万円)以下の人が6億人いる」と発言し、中国国内で大きな議論を引き起こしました。この発言は、現在でも中国の所得格差問題を象徴するものとして語られています。
これについて、謝氏次のように述べています。「この6億人の月収が1000元以下の人々に、一体どこに消費を刺激する余地があるのだろうか。だからこそ、政府は中間層をターゲットにせざるを得ないのである。減税、金利の引き下げ、クーポン配布など、結局は中間層にお金を使わせようとする施策である。そうしなければ経済は成長せず、内需も活性化しないからである。しかし、多くの中間層は苦しさを訴えたくてもできない状態にある。本当にお金があるなら、消費を刺激する必要はない。お金を使うことは、世界で最も刺激を必要としない行為だからである。今のように消費が縮小し、生活が切り詰められている原因は、手元にお金がないからにほかならない。結局のところ、貧しいからである」
(翻訳・藍彧)