日本の代表的な伝統文様の一つに、「青海波(せいがいは)」があります。
扇のような波が重なって描かれる青海波文様は、穏やかな波がどこまでも続く「無限の海の広がり」を表現し、「平穏な暮らしが永遠に続くよう」という願いが込められていると言われています。
この縁起の良い美しい波模様は、古くから人々に愛されてきました。
一、名前の由来
青海波柄の原形は遠くカスピ海周辺の古代ペルシャのササン朝(226〜651)に発祥し、シルクロードを経て日本に伝わったとされています。
名前の由来は、飛鳥時代に大陸から日本に伝わった雅楽の『青海波』まで遡ると言われています。
『青海波』は、雅楽の演目の一つで、舞楽としても管弦としても演奏されます。
舞楽『青海波』は二人で舞う平舞で、穏やかな動きで、寄る波、引き波を袖の振りで表現し、静かで直線的な足の運びと、ゆっくりとしたステップが特徴です。舞人は蒼い海の波の衣装を着て舞っていたので、その波模様は「青海波」と名付けられたそうです。
二、『源氏物語』に登場する「青海波」の舞
舞楽『青海波』は、紫式部作『源氏物語』の紅葉賀(もみじのが)の巻にも登場しています。
朱雀院で一の院の50歳の祝いに紅葉賀が行われ、光源氏と頭中将が二人で青海波の舞を披露しました。源氏の舞の美しさに、帝を始め人々は感激の涙を流したという記述があります。
日本の雅楽は、約1000年も前の平安時代から、演奏のみならず、舞やその装束に至るまで、ほぼ変わらぬ様式で残っていると言われています。
『源氏物語』の舞楽「青海波」に興味のある方は、下のリンクをクリックしてご覧ください。
雅楽 『「源氏物語」のうたまい』付録DVDより「青海波」(YouTubeリンク):
https://youtu.be/nQCOk-BghUc?si=TkZq5wX1vTBqDsiq
三、青海波文様を広めた塗師 青海勘七
青海波文様は古代から用いられていましたが、広く流行したのは、時代が大きく下がった江戸時代頃だと言われています。
江戸中期の塗師の勘七は、絞漆を薄く塗り、生乾きの間に鋸歯状の篦(へら)や刷毛(はけ)で波文を描く手法を考案し、漆器や刀装具に塗装しました。
それがきっかけとなり、青海波の図案は着物や陶器にも広く応用されるようになりました。 巧みに青海波の図案を描くことから、青海が勘七の姓にもなったとのことです。
青海波文様は、扇状の波が一つ一つ整然と並べられ、無限に広がってゆく波の力と永続性を表現しています。その繊細かつ緻密な図案は、日本独自の美意識を反映しているように思え、エネルギーをも感じさせてくれます。
今年も残りわずかとなりました。
お正月に縁起の良い吉祥柄の青海波を取り上げ、未来永劫、平和で穏やかな暮らしが続きますようにと願いつつ、2024年に別れを告げ、2025年を迎えたいと思います。
(文・一心)