中国最大手の人材会社「智聯招聘(ジーレンジャオピン)」が発表したデータによると、2024年の中国における大学卒業生の就職率はわずか55.5%であり、数百万人の大卒者が仕事を見つけられない状況に陥っています。このような背景から、近年、「有料自習室」が爆発的に増えており、注目を集めています。失業中の若者たちは現実のプレッシャーから逃れるために自習室に身を隠し、「努力しているふり」をすることで、心の不安を軽減しようとしています。調査報告によると、2022年には有料自習室の利用者規模がすでに755万人に達し、2025年には1000万人を突破する見込みです。
自習室が現実逃避の場に
新華社通信傘下の「半月談」誌の報道によると、同誌記者が山西省太原市と大同市で約20カ所の有料自習室を訪れたところ、利用者の多くが公務員試験や大学院入試を目指している若者たちであることが分かりました。これらの自習室はプレッシャー回避の場となっており、多くの若者はそこで「勉強しているふり」をしています。
こうした自習室は「席貸し」モデルで運営されており、時間ごと、日ごと、月ごと、年ごとで座席を貸し出しています。席の月額料金は約500元(約1万円)で、これは失業中の若者にとっては半月分の生活費に相当します。料金が高いにもかかわらず、席の需要は非常に高く、常に満席状態です。
報道によると、こうした自習室は家族の目を逃れるための「ネットカフェ」のように使われることが多く、真剣に勉強している時間はごくわずかであると報じられています。
大同市出身の小達さん(仮名)は、2022年に大学を卒業して以来、有料自習室で大学院入試のための勉強を続けています。彼は次のように語ります。「これまでに3回受験したが合格できず、毎日、自習室と家の往復だけで、社会との接点を失い始めている。本当に現実の世界で生きているのだろうかと時々疑問に思うこともある。自習室は現実逃避の場になっている」
別の若者は次のように述べています。「自習室でスマートフォンをいじる人もいて、『10分だけ』と自分を慰めるつもりが、気がつけば1時間が経っていた。手に本を持っていても、実際には何も頭に入らなかった。
高失業率の中で生まれた「爛尾娃(ランウェイワー)」
中国の若者の失業率が上昇し続ける中、数百万人もの大学卒業生が就職困難に陥り、悲惨な状況に陥る事がSNS上で流行語となり、「爛尾娃(ランウェイワー)」という新しい社会集団が形成されつつあります。
「爛尾娃」とは、中国で生まれたネットスラングで、高学歴でありながら就職に失敗し、人生の目標を見失った若者を指す言葉です。この用語は、未完成物件である「爛尾楼(ランウェイロー)」に由来し、親から大きな期待をかけられ、教育に多くの資金を投入されたものの、最終的に目的を達成できず「未完成」のまま社会に取り残された若者たちの現状を描いています。
「爛尾娃」という言葉は、多くの大学卒業生が職を得られない現状を反映しており、この現象は中国の厳しい就職市場だけでなく、社会全体における中国共産党体制への問題提起にもつながっています。この言葉は今やSNS上で流行語となり、注目を集めています。
ミシガン大学の周雲准教授はロイター通信の取材に対し、「多くの中国の大学卒業生にとって、大学で学ぶことでより良い就職機会や社会での出世、より明るい未来を得ることがますます難しくなっている」と語りました。
長年にわたる苦学の末、「爛尾娃」は、自分たちの学歴が不況の環境下では就職に結びつかないことを痛感しています。そのため、一部の失業中の若者は実家に戻り、「専業子女」として生活するようになっています。「専業子女」とは、フルタイムで家に留まり、親の世話をする代わりに、親の年金や貯蓄を給料として受け取り生活する息子や娘を指す言葉です。また、博士号や修士号を持つ若者も、この状況を免れることはできません。一方、一部の若者は高収入への期待を諦め、わずかに稼げる仕事でも良いと考えるようになっています。
北京の人材市場に「爛尾娃」たちの姿
北京郊外の馬駒橋(マージューチャオ)人材市場は、技術的なスキルを必要としない単純労働の職を提供する場で、出稼ぎ労働者(農民工)の街として知られています。これまでの求職者は主に中年の農民工が中心でしたが、最近では大卒者や高学歴を持つ若者たちの姿が目立つようになっています。
河北省保定市出身の29歳の鄭さんは次のように語ります。「最近、私より若い人を多く見かける。スマートフォンをいじっている人たちは間違いなく若い初心者だ」2年前まで、彼は北京の半導体工場で月給6500元(約13万円)を稼いでいましたが、今では毎日早朝から街頭へと向かい、新たな仕事を探す日々を送っています。
韓国の「朝鮮日報」の報道によると、中国の経済危機によって最も大きな犠牲を強いられているのは「00後(リンリンホウ、2000年以降に生まれた20代)」ではないでしょうか。
同紙の記者が次のように伝えました。北京郊外の馬駒橋人材市場から大通り沿いに500メートル歩いていくと、日雇い労働者たちの宿泊所がある「日貰村」が見えてきます。4人部屋で1泊わずか20元(約410円)です。就職難の中国で、最近この場所で暮らす若者たちがいます。今月初めに訪れたある宿泊所の庭には、洗濯物を干すロープに「青年奮闘」と書かれたTシャツが掛かっていました。希望の痕跡を見つけたような気がして宿泊所のオーナーに「若者たちにはまだ闘志が残っているようですね」と話しかけました。すると、返ってきたのは『蜜雪氷城(ミーシュエ、激安タピオカミルクティーのチェーン店)」のアルバイトの制服ですよ」という答えでした。
社会的悲観論が高まる 原因は中国体制そのもの?
中国社会全体で悲観的な感情が高まっており、多くの人が自分の経済状況に不満を感じ、それを中国の社会制度そのもののせいだと考えるようになっていると、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルがある社会調査を引用して報じました。
この調査は、スタンフォード大学の経済学者スコット・ロゼル氏とハーバード大学の社会学者マーティン・キング・ホワイト氏が共同で行ったものです。その結果によると、経済成長の鈍化や企業の縮小、失業者の増加に伴い、多くの中国の回答者は「機会が平等に提供されない不公平な体制」が、個人の発展を阻害する主な原因であると考えていることが明らかになりました。また、多くの人々は、中国の体制そのものが変革しない限り、どれだけ努力しても現状から抜け出すことはできないと考えています。
アメリカに住む経済評論家の王剣氏は、高学歴の若者にとって、教育への多額の先行投資が卒業後の報酬に見合わない場合、その落差は若者の中国共産党政権に対する信頼を大きく損なうと述べています。一方、中国当局も認識しているように、若者や農民工といった「退路のない社会集団」が、いずれ政権を揺るがす主力になる可能性があると指摘しました。「多くの若者がこれまでの十数年の努力はすべて無駄になったと感じている。こうした感覚は人々に怒りを抱かせている。この怒りは社会の火山のようで、まだ噴火していないものの、絶えず揺れ続けており、その揺れの背後には蓄積された社会的な不満がある」
経済の低迷が続く中で、このような状況は長期化する可能性が高いです。不満を抱える中国人にとって、どこかでその怒りを発散させる出口を探すことは避けられないでしょう。
(翻訳・藍彧)