中国南部広東省広州市では、地下鉄に乗る前の安全検査が12月8日から突然厳しくなりました。同じ省内の珠海市で11月に発生した無差別殺傷事件を受け、当局が警戒を強化したためとみられます。この影響で、通勤時に長時間待たされる事態が発生し、市民の不満が高まりました。その結果、この措置は翌日の9日に撤回された模様です。
「空港レベル」の安全検査
広州市の地下鉄運営は8日の夜、新たに「空港レベル」の安全検査を導入すると発表しました。この新制度では、すべての乗客が金属探知ゲートの通過や持ち物のX線検査に加え、係員による金属探知機を用いたチェックを受ける必要がありました。また、大容量モバイルバッテリーなど一部の持ち物が制限されるようになりました。しかし、この突然の新規則導入は翌日9日の朝の通勤ラッシュ時、多くの市民に混乱をもたらし、強い不満の声が噴出しました。
地下鉄での安全検査は中国では一般的です。ただし、通常は大きめの荷物を検査機に通す程度で、係員が乗客の通行を妨げないよう配慮しながら運用することが多いです。しかし、今回の広州市でのように係員が細かくチェックを行う方法は、市民の怒りを招く結果となりました。
厳格な安全検査と長蛇の列
9日の朝、広州市内の多くの地下鉄駅で安全検査待ちの乗客が長蛇の列を作りました。一部の駅では列が100メートル以上に達し、電車の車内に入るまで30分以上かかった乗客もいました。
このニュースは中国国内のSNSでも瞬く間に拡散され、市民の間で強い不満が広がりました。
あるネットユーザーは次のように語っています。「地下鉄の安全検査はまるで空港のようで、一人ずつ受けなければならない。モバイルバッテリーの検査は飛行機に乗る時と同じくらい厳しい。持ち物はすべて検査機を通し、さらに金属探知機を1人1人通過させられる。服やズボンのポケットに入っている物もすべて出して、検査員に見せなければならない。以前は1分で済んだ検査が、今では朝の通勤ラッシュ時に30分以上もかかっており、大量の人が混雑している」
ネット上には、地下鉄駅の入口で多くの乗客が長蛇の列を作る様子を映した動画が投稿されました。また、多くのネットユーザーが次のようにコメントしています。「私の家の鍵は飛行機に乗る時はバッグから出す必要がないが、広州地下鉄では出さなければならない」
「広州市の安全検査は非常に厳しい。何か分からない物が検出されれば、それが尖った物かどうかに関係なく全て取り出して検査される。私は箱に入れていたミラネーゼの時計バンドまで取り出すよう指示された」
ある乗客は次のようにも述べています。「検査員は検査機を通した荷物も入念にチェックし、飲料や小型のハンドサニタイザーのような物品についても、バッグを開けて確認するよう求めた」
別の乗客は、「バッグやポケットに入っているティッシュペーパーまでも取り出して検査するよう言われた。空の弁当箱ですら別途スキャンしなければならなかった」として、これまでにない厳しさを訴えました。また、「未開封のミネラルウォーターを持っていただけで、検査員から蓋を開けて一口飲むように求められた」と語り、この対応に非常に困惑し不満を感じたとのことです。
報道によると、広州市の天河客運駅や広州南駅、三元里駅といった利用客の多い駅では、安全検査口に数百メートルに及ぶ長蛇の列ができており、利用客が少ないとされる小規模な駅でも同様の状況が見られたということです。
また、ネットユーザーの中には次のような批判もあります。「ここまでくると病的である。あと少しで乗客をベルトコンベアーに寝かせてX線検査をする勢いである」「10分の地下鉄に乗るために1時間安全検査で待つのは妥当であるか」「知らなければ飛行機に乗る準備をしていると思うだろう」「広州地下鉄の安全検査はあまりにも過剰である。1人ずつ進むし、荷物があるかどうかに関係なく全員列に並ばされる」
市民の間で安全検査の有効性に疑問の声
新浪微博(シナウェイボー)では、通勤乗客が地下鉄の効率低下に不満を表明し、安全検査のために長蛇の列ができる現象が本来の目的に反していると指摘しています。
あるネットユーザーは次のように疑問を投げかけています。「管理者に聞きたい。混雑が原因で人々を避難させられなくなる安全上のリスクについて考えたことがあるのか」
「群集事故やドミノ倒しが発生したらどうするのか?」
また、広州地下鉄が前日の深夜に突然通知を出したため、多くの市民が事前に出行計画を調整することができず、不満が一層高まる結果となりました。
12月8日、深セン市地下鉄3号線で7日に爆発事故が発生したとの噂が広がり、これが広州市各地で安全検査の厳格化を引き起こしたとされています。多くの地下鉄入口で長蛇の列ができ、特に朝の通勤ラッシュ時に市民の間で強い不満が噴出しました。
12月9日、広州市内の地下鉄駅で安全検査待ちに耐えられなくなった市民が集団で突破する様子が撮影されました。この状況で現場の検査員や警備員は全く対処できなかったといいます。同日の夜には、広州市地下鉄は高規格の安全検査を一時的に停止せざるを得なくなりました。
各界からのコメント
広州市の法曹界の陳氏は、ラジオ・フリー・アジアのインタビューで次のように述べました。「中国社会は悪循環に陥っている。経済がますます悪化し、集団事件や抗議デモ事件が増加し、さらに増える傾向にある。これを受けて、中国当局は安全検査の範囲を広げ、厳格さを高めようとしている。しかし、これらは全て抑圧的な手段である。このような考え方は他の分野にも表れており、過剰な管理がかえって抗議デモの原因となる」
北京の法曹界の呉氏は、ラジオ・フリー・アジアに対して次のように述べました。「社会的緊張はますます高まっており、地方政府は過敏に反応し、集団での抗議活動の発生を恐れている。これは最近の国際的な安全情勢に関連している可能性もある。より透明性のあるコミュニケーションや効率的な実施方法が欠如している場合、同様の措置は国民の交通管理への信頼を損なう可能性がある」
中国の元メディア関係者、趙蘭健(ちょう・らんけん)氏は、中国全土が大規模な動乱時代に突入しており、抗議活動の頻発はまだ始まったばかりだと分析しています。「抗議活動が増え、中国の主要都市では社会不安の波が広がっている。経済の低迷が進む中で、中国全体がいつ爆発してもおかしくない火薬庫のような状況に陥っている。世界で最も治安維持費を費やす国である中国は、歯牙まで武装した猛獣のようになり、いつ国民に牙を剥いても不思議ではない。官民の対立や社会の分断は今の中国では避けられない現実である」
(翻訳・藍彧)