中国では景気後退の影響により政府機関の資金繰りが悪化しています。当局は民間から資金を徴収することに没頭し、司法権を濫用する罰金経済が大きな社会問題となっています。司法プロセスが不透明で、恣意的な法執行が多発するなか、民営企業はさらなる苦難に直面しています。

警察が警察を逮捕

 11月20日、浙江省検察院が公表したある事件は、インターネット上で多くの注目を集めました。事件概要によると、他の省から来た警察官2名が捜査を名目に江蘇省内で企業家を拘束し、連れ去りました。その後、警察車両が浙江省内を通ったときに企業家は車から飛び降りて、現地の警察に通報したとのことです。この事件を受け、浙江省警察は事件に関わった他の省の警察官2名を職権乱用の罪で逮捕しました。2人にはそれぞれ懲役7カ月と8カ月の刑が言い渡されました。

 司法当局が管轄権を超えて民営企業から違法に資金を収奪するこのような行為は、「遠洋漁業」と呼ばれています。捜査はあくまで口実であり、実態は公権力を乱用した強奪です。「遠洋漁業」のターゲットにされた企業は収益などが奪われ、経営危機に陥ることもあります。当局が財政補填のために行っている行為が、かえって中国経済をさらに悪化させているのです。

 40万人以上のフォロワーを持つ法律系インフルエンサーはこの事件について、「本物の警察が身代金産業に参入した。これこそが現代中国の最大の悲劇だ」と評価しました。

 米国在住の中国企業家、胡力任氏はラジオフリーアジアの取材に対し、「中国の企業家は誰一人として安心することができない」と語りました。さらに胡氏は、「中国当局は民営企業を保護すると宣伝しているが、実態はその真逆だ」と指摘しました。

 中国国内で事業を営む別の企業家は取材に対し、「政府の検査や『遠洋漁業』といった手法は、中国ではもはや暗黙の了解となり、企業家たちもそれに慣れ切ってしまっている」と語りました。また、「当局は捜査活動を行わなければ収益を得る手段がない」と現状を明かしました。

 このように、中国の経済的な逆風の中で民営企業は困難な状況に置かれ、経営者たちは身の安全さえ確保できないと感じています。政府の表向きの政策と実態の乖離により、民営企業は政府への不信感をますます募らせています。

地方政府による「遠洋漁業」

 「遠洋漁業」では、企業経営者への罰金、預金口座の凍結などが行われるほか、企業家や従業員の逮捕を伴うこともしばしばあります。経済の低迷と不動産市場の崩壊に伴い、中国各地の地方政府はこぞって「遠洋漁業」を行い、他の地方から資金を巻き上げようとしているのです。

 2024年4月15日に発表された広東省政府の内部資料によると、広東省のインターネット企業はしばしば他の地域の政府による利益追求型の法執行のターゲットにされており、企業の存続が危ぶまれるケースもあるとのことです。特に深センや広州、東莞などの珠江デルタ地域の都市は、こうした異地執行の多発地帯となっており、広州市だけでも2023年以降、約1万社の企業が被害を受けたとのことです。その多くは民営企業であり、当局の行為は金銭目的であることが明白とのことです。

 一つの例として、河南省焦作市と商丘市の公安局は、1,600人以上の警察官を動員して広州市に入り、健康食品などを手がける壱健康社の捜査を行いました。捜査当局は同社の64の銀行口座を次々と凍結し、合計7.58億元(約150億円)もの資金を差し押さえました。同社によれば、数百名の従業員が警察の取り調べを受け、数十人が拘束されました。被害総額は数億元に及び、企業は破産寸前に追い込まれているとのことです。

 アメリカのメディア関係者で、中国で長年企業経営を行ってきた王安娜氏は取材に対し、「中国の中小規模の民営企業は、派出所や消防局、税務局など、あらゆる政府機関から搾取を受けている」と語りました。さらに王安娜氏は、「遠洋漁業」はあくまで政府が資金を徴収する一つの手口に過ぎず、程度の差こそあるものの、中国の政府部門は基本的に利益追求型であると指摘しました。そして、「民営企業家たちの日課は、当局の検査や様々な名目の罰金に対応することだ」と述べました。

「遠洋漁業」の長い歴史

 「遠洋漁業」という言葉は2024年に注目されるようになったものの、この手法自体は以前から存在していました。

 弁護士の游飛翥(ゆうひしょ)氏は、このような事件を複数件担当してきました。游弁護士によると、彼が2019年に担当した事件は、今回の浙江省で起きた「遠洋漁業」事件と非常によく似ています。当時、重慶の企業家は江西省の警察に連行されました。警察車両のなかで、企業家は「不法経営罪」で起訴されたと告げられます。同時に、2,000万元(約4億円)を支払えば身柄の拘束を解くと言われましたが、企業家は支払いを拒否しました。

 警察側は、被告人らがオンラインで販売していた書籍は内容に問題があると主張しました。そして、江西省の住民もその書籍を購入したため、江西省の警察は事件について管轄権を持つのだと述べました。游弁護士はこのような言い分に猛反論しました。「もしこの理屈が通るなら、中国からアメリカに問題のある商品が輸出された場合、アメリカの司法当局は中国で法執行できることになってしまう。全く馬鹿げている」と指摘しました。

 残念なことに、この事件では起訴された7人の被告は全員有罪判決を受けました。一番刑が重い人には、懲役4年半と450万元(9300万円)の罰金が言い渡されました。

蔓延る権力濫用

 2021年3月、浙江省義烏市警察は、全国の警察機関に公開書簡を送りました。書簡では、オンライン詐欺に関連する犯罪で義烏市の中小事業者の銀行口座がしばしばマネーロンダリングに悪用され、無差別に凍結されている問題が指摘されました。書簡によれば、多くの場合、詐欺とは関係のない資金まで凍結され、一度凍結されてしまうと解除までに何年もかかってしまうとのことです。中小規模の事業者は資金が乏しく、このような乱雑な法執行は賄賂や不正の温床となっています。

 アメリカ在住の王安娜氏は、「地方政府は国営企業や外資系企業には手を出せないため、民営企業だけが犠牲になっている」と語りました。さらに、消防や税務局が私腹を肥やすのは日常茶飯事だと指摘しました。

 王氏によると、消防署は消防検査の際に、防火基準に適合する商品の購入を強制することがあります。しかし、消防署がいう適合商品は、実は消防署の官僚らが運営する企業の製品を指しているとのことです。「中国の企業家はこのような赤裸々な権力濫用に毎日直面している」と王氏は嘆いています。

 2024年に「遠洋漁業」が注目された背景について、王氏は、「沿岸での収奪に限界がきたのではないか」と分析しています。その判断の根拠に、陝西省咸陽市の公安局が発表した通告があります。通告では、中小企業内部の「犯罪行為」の情報提供を求めています。王氏は「大企業が搾取され尽くした後、今度は中小企業を狙う段階に入ったのではないか」と述べています。

(つづく)

(翻訳・唐木 衛)