車両検査(車検)は、すべての車の所有者にとって、避けて通れないプロセスです。車にとって、定期的な車検は法律で定められているだけでなく、安全を確保するために、非常に重要なものです。自動車は現代人の生活に欠かせない交通手段であり、万が一事故が発生すれば、本人だけでなく、他人にも大きな被害を与える可能性があります。しかし、中国では車検が消費者にとって、常に頭痛の種となっています。現在の車検制度では、特に排気ガス検査が問題視されています。検査の際には車両を始動させ、動力や排ガスを測定しますが、多くの検査場では、アクセルを全開にしたまま、長時間操作を続けることがあり、これが車両に不必要な負担をかけるだけでなく、元々問題のなかった車が検査後に、故障するという事態を引き起こすこともあります。最近導入された車検の新しい規則により、車の所有者たちの不満はさらに高まっています。

 新しい規則によると、これまで義務付けられていた「60万キロ走行で強制廃車」の規定が撤廃されました。これにより、検査に合格すれば、理論上は無期限で車を使用できることになりました。しかし、期待とは裏腹に、この一見すると好ましい改革には新たな問題が伴っています。それは、新たに導入された「OBD検査」という項目が、ガソリン車に対する車検の難易度を大幅に引き上げたことです。

 OBDとは「車載式故障診断装置」(On-Board Diagnostics)の略で、エンジンや車両の各機能の動作状況を、リアルタイムで監視するシステムです。車検時にこのシステムを接続することで、エンジンの故障、安全エアバッグ、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)、ESP(車両安定性制御システム)など、さまざまなデータを読み取ることができます。これまで隠れていた不具合は、計器類には表示されないことが多かったのですが、OBDを使用することで、ほぼすべてが検出可能になります。1つでも問題が見つかれば、車検に合格できず、さらに厳しいのは、OBD検査で3回連続不合格となった場合、車両が強制廃車されるという点です。

 あるネットユーザーが動画で自身の車検体験を共有しました。彼の車は2012年モデルで、車体の状態も比較的新しく、走行距離は5万キロ未満でした。車検を確実に通すため、事前に修理工場で車両を徹底的に点検し、必要な部品を交換するなど、万全の準備を整えました。しかし車検場では、OBD検査で複数の環境基準に不適合と判定され、修理工場に戻るよう指示されました。修理工場に戻って再検査したところ、車両やコンピューターに問題はないとの結果でしたが、車検場に再び戻っても結果は同じで、不合格となりました。車検場のスタッフは、メーカー指定の整備工場に行くよう勧めましたが、そこでの検査後も問題は見つからず、証明書を発行してもらったものの、それでも車検に合格できませんでした。最終的に、このネットユーザーは、愛車を廃車にする決断を迫られ、「10年以上乗った車ではあるが、廃車基準には達していない。それでも車検を通過できない以上、廃車せざるを得なかった」と語りました。

 また、別の車の所有者は、車検で不合格となった後、指定された修理工場での修理が義務付けられ、それ以外の工場での修理では、再検査を受ける資格がないことを指摘しました。この所有者によると、排ガス基準に不適合とされた場合、一般の修理工場では、300元(約6000円)で三元触媒コンバーターを交換するだけで済むところ、指定工場ではスパークプラグやスロットルボディの交換も必要とされ、合計1500元(約3万円)以上の費用がかかったといいます。別の2018年モデルのシビックの所有者も、OBD検査で不合格となり、指定工場で修理を受けた結果、12800元(約25万円)を費やしたにもかかわらず、再び検査を通過できなかったと訴えています。

 今回新たに追加されたOBD検査は、ガソリン車の所有者にとって、「ダモクレスの剣」となりつつあります。指定工場での高額な修理費用を負担するだけでなく、多額の費用を支払っても車検に合格できないケースも珍しくありません。これに対し、多くの人々が「ガソリン車を無理やり、廃車にさせようとしているのではないか」と疑問を投げかけています。車検基準がますます厳しくなる中で、古いガソリン車がOBD検査に通らず、廃車を余儀なくされる事態は今後も増えていくでしょう。せっかくお金を貯めて購入した車が、使用して10年にも満たないうちに廃車を強いられる現状は、多くの所有者にとって耐え難いものです。一部のネットユーザーは「最低基準で車を作っておきながら、最高基準で検査を行う。食品安全にもこの基準を適用してほしい」「健康診断で何も問題がないのに、顔にニキビがあるからといって、治療を3回受けたが、あまり効果がなくて、結局、火葬場送りにされるようなものだ」と皮肉を込めてコメントしています。また、「明らかにこれは新エネルギー車の販売不振を解消するため、ガソリン車を強制的に買い替えさせようとしている」と指摘する声もあります。

(翻訳・吉原木子)