近年、中国経済は深刻な下振れに直面しており、多くの工場や企業が倒産し、失業率が急増しています。経済環境の悪化が続く中、多くの企業が資金繰りに行き詰まり、通常の運営が難しくなっているだけでなく、取引先への支払いや、従業員への賃金も滞納しています。このような社会的背景の中で、中国では企業経営者や個人が、さまざまな手段を用いて、未払い金を回収しようとする動きが広がっています。

 経済状況の変化に伴い、債権回収の難易度も大幅に上がっています。多くの企業主や個人事業主は、本来の業務に集中することができず、債権回収に専念せざるを得ない状況に追い込まれています。このような状況下で、「催収トレーニング講座」が登場し、債権者が効果的な回収方法を求めるための、新たな選択肢となっています。関係者によりますと、この講座に参加するのは市場で長年活動してきた経営者で、参加者の年齢は40代から50代が中心だそうです。彼らは新しい技術や方法を学び、回収成功率を高めることで、自社の存続を図りたいと考えているのです。

 『時代週報』が11月30日に報じたところによりますと、これまで債権回収の主な手段は、電話での督促や、SMSの通知、弁護士からの通知書送付、裁判所への提訴などでした。しかし、経済状況の悪化が進むにつれて、これらの方法の効果は次第に低下してきています。債務者は「資金繰りが厳しい」や、「帳簿を確認中」などの理由を挙げて、支払いを先延ばしし、時には支払いを拒否することもあります。

 上海の建設会社を経営する陳立雄さんは、こうした問題を実感しています。彼はあるプロジェクトで利益を得るどころか、約300万元もの負債を抱えることになりました。「接待を通じて関係を改善し、支払いを促そうとしたが、うまくいきませんでした」と陳さんは語っています。このような「接待による回収」と呼ばれる非効率な方法は、従来の回収手段の限界を、如実に示しているのです。

 こうした状況の中で、一部の債権者は催収トレーニング講座に参加しています。これらの講座では、心理学やゲーム理論を活用した、実践的なスキルを学び、回収成功率を向上させることを目指しています。受講料は5000元から1万元程度で、講座は3日間にわたって行われます。1日目は基礎理論の講義、2日目は具体的な手法の教授、3日目はケーススタディを中心とした、実践的な内容で構成されています。

 講座の内容は一見充実しているように見えますが、参加者の多くはその効果に疑念を抱いています。講座で教えられる「5ステップ回収法」には、相手の言葉から経済状況を判断する方法、資金繰りが悪化した際の「作業停止」のタイミング、さらには「有力者」を利用して、心理的な圧力をかける方法などが含まれています。しかし、これらの手法は、実際には理想論に過ぎない場合が多いと指摘されています。

 重慶の企業家、呂勝財さんも同様の問題を抱えています。彼は2018年から2020年にかけて、複数の大規模な都市建設プロジェクトを手がけましたが、代金の回収率は非常に低かったです。講座で提案された「資金繰りが悪化した時点で、作業を停止する」という手法について、呂さんは「勝手に作業を停止すれば、取引関係が破綻し、業界内で悪評が立つ可能性が高い」と懸念を示しています。

 講座の3日目に行われる「実践」とされる内容は、実際には講座のアシスタント(催収会社の営業担当者)との面談を通じて、代理回収契約を結ぶというものでした。この契約に基づく催収サービスの料金は、回収額や案件の難易度に応じて、回収金額の7%から30%が設定されており、多くの参加者がコストとリスクを天秤にかけて、参加をためらっています。

 近年、催収業界は合法化が進む中で、多様な手法を採用するようになっています。例えば、インターネット上で世論を形成する方法や、知人関係を利用する方法、さらには法律手段を用いる方法があります。温州の催収業者である徐華さんは、「世界信用組織」の名前を利用して、債務者に心理的圧力を与え、妥協を引き出しているそうです。ただし、こうした「信用組織」は、実際には信頼性に欠ける場合が多く、催収業者が交渉力を強化するための手段に過ぎません。

 一方で、催収業界には「中間業者による二重取り」といった問題も存在します。一部の催収会社は、債権者から高額な手数料を取るだけでなく、債務者と交渉して支払いを遅延させることで、追加利益を得るケースもあり、債権者の信頼をさらに損なう結果となっています。

 催収トレーニング講座への期待が裏切られた結果、多くの債権者は新たな方法を模索しています。陳さんはかつて行っていた部品やレアアース、プラスチック原料、新エネルギー材料の販売業務を再開し、自己救済を図っています。一方、呂さんは代理回収契約を結び、成功率が低いと知りつつも「一か八か」の賭けに出ています。
債権回収の過程で、債権者は経済的な負担だけでなく、家庭内のトラブルや心理的なプレッシャーにも直面しています。呂さんは「数百万元もの未回収金は、私の生活を完全に狂わせました」と語り、外部の力を借りて問題解決を図ろうとしています。しかし、複雑な三者間の債務関係や、人事異動といった客観的な要因が、回収をさらに困難にしているのです。

 経済紛争の専門弁護士である田峰さんは、中国の地域ごとに、回収方法に違いがあることを指摘しています。例えば、南部の一部地域ではSNSを通じた、世論形成が盛んであり、こうした手法は債務者に大きな精神的圧力を与える効果があるそうです。しかし、これらの方法には法律リスクや社会的な論争が伴い、その効果は一様ではないのです。

 債権回収の複雑さは、現在の経済環境の厳しさを反映しているだけでなく、経済下振れの中で、中国の商業信用システムがいかに脆弱であるかを、浮き彫りにしています。

(翻訳・吉原木子)