中国の経済不況が深刻化する中、大手企業によるリストラや減給が相次ぎ、賃金未払いを巡る労働者の抗議活動が頻発しています。上海では数百人の労働者が道路を遮断して抗議し、警察による弾圧を受けました。一方、自動車メーカー「哪吒汽車(ネタ、NETA)」では大規模なリストラや工場閉鎖が報じられ、負債問題が深刻化しています。また、飲食チェーン「SIMPLY THAI(シンプリー・タイ、天泰餐廰)」でも賃金未払いと社会保険料滞納が従業員の不満を招いており、複数店舗の営業停止が続いています。
哪吒汽車の工場閉鎖、大規模リストラと減給
哪吒汽車は、上海に拠点を置く自動車メーカー合衆新能源汽車(ホゾンオート)が展開する電動自動車(EV)ブランドです。
中国の自動車業界に関する報道を行うメディア「象視汽車」11月21日の記事によると、かつて新興EVメーカーの中で販売台数トップを誇った哪吒汽車は、大規模なリストラや減給、3つの主要工場が稼働停止状態となっている疑いがあるほか、多くのサプライヤーから公に債務を請求されるなど、深刻な経営難に陥っています。
10月には、哪吒汽車がサプライヤーへの代金支払いを滞納しているとあるネットユーザーが暴露し、その後の公開情報で事実であることが確認されました。
11月8日には、国有資本を背景に持つ「エフォート・インテリジェント・イクイップメント(埃夫特智能装備股分有限公司)」が公告を発表し、哪吒汽車を相手取り、約4819.54万元(約10億円)の契約未払い金の支払いと、延滞による損害賠償を求めて裁判所に提訴したと明らかにしました。エフォートは産業用ロボットを製造する老舗企業です。
11月14日には、東風グループ傘下の自動車部品サプライヤー、東風電子科技股份有限公司(東風電子)が、哪吒汽車の運営主体であるホゾンオートに対し、未払い金1273.03万元(約2.5億円)の支払いを求めて仲裁申請を行ったことを公表しました。東風電子は、自動車部品の研究開発、製造、販売を主な事業とする上場企業です。
また、哪吒汽車の複数の工場が稼働停止しているとの報道もあります。同社は国内に3つの生産拠点を持ち、浙江省桐郷市(とうきょうし)、江西省宜春市(ぎしゅんし)、広西省南寧市(なんねいし)にそれぞれ工場を構えています。そのうち、南寧市の工場は今年上半期にはすでに稼働停止状態にあったとのことです。
中国の情報技術分野の新聞「IT時報」の記者が最近、浙江省桐郷市にある哪吒汽車の工場を現地調査したところ、この工場も約1か月前から稼働を停止していることが分かりました。
ある自動車業界の関係者は、「現在の状況では、車を1台売るごとに赤字が拡大する」と語り、この問題は哪吒汽車を含む国内の多くの新興EVメーカーが直面している共通課題であると指摘しています。また、「どの企業がより強い実力を持ち、この競争に耐え抜けるかが鍵だ」と述べました。
上記の見解は、哪吒汽車内部の関係者によっても裏付けられています。哪吒汽車は2021年から2023年まで3年連続で赤字を出しており、累計損失は184億元(約3900億円)に達しています。この継続的な赤字に対応するため、減給やリストラを通じた企業構造の調整を進めています。11月7日には哪吒汽車が大規模なリストラを開始し、市場ではリストラ率が最大で70%に達する可能性があるとの噂も広がっています。また、減給については、減給幅が5%から30%に及ぶ計画が実施されています。
富途控股、大規模なリストラを実施
中国メディア「界面新聞」の11月21日の報道によると、最近、富途控股(フートゥー・ホールディングス)が大規模なリストラを行うとの情報がネット上で拡散されています。富途控股はアメリカ・ナスダックに上場している証券会社です。
SNSでは、富途控股が年末にかけて従業員の40%から60%をリストラするとの情報が投稿され、話題となっています。
また、21日付の「新浪財経」の報道によると、このリストラ報道を受けて、同日富途控股の株価が3.2%以上下落しました。
有名飲食チェーンの従業員、賃金未払いを訴える
中国上海を拠点とするニュースメディア「上観新聞」の11月21日の報道によると、最近、上海の有名飲食チェーン「SIMPLY THAI」の従業員と名乗る人々が、賃金の未払いと社会保険料の滞納についてSNSに投稿しています。
「SIMPLY THAI」は、上海市内で10店舗以上を展開していた有名な飲食チェーンで、江蘇省南京市、浙江省杭州市、江蘇省蘇州市にも店舗を構えていました。
最近、「SIMPLY THAI」の複数店舗が営業を停止しているが、チャージ済みのプリペイドカードの残高が使えなくなるのではないかと懸念する声が多く寄せられています。
最近、SNSに「SIMPLY THAI」の従業員や元従業員を名乗るネットユーザーが、「SIMPLY THAI」の経営者が2カ月間にわたり賃金を支払っておらず、姿を現さないと訴える投稿を行っています。また、「SIMPLY THAI」の経営者がすでに逃げたという投稿も見られます。
元従業員と名乗る人物がコメント欄で次のように書き込んでいます。「実際は経営者が資産を移転している。経営者の甥がダミー会社を設立し、スタッフに新しい契約書に署名するよう求めた。未払いの2カ月分の賃金は売上目標を達成されないと支払われない。新しい契約書に署名しない場合は、退職したと見なされ、その2カ月分の賃金も支払われない」
11月19日、あるメディアの記者が「SIMPLY THAI」との契約を最近解消した元従業員数名に取材しました。彼らは記者に対し、現在「SIMPLY THAI」の多くの店舗が営業を停止しており、「ほとんどの店舗は不動産管理費の滞納が原因で閉店を余儀なくされた」と語りました。
また、ある元従業員は「昨年から『SIMPLY THAI』が従業員の社会保険料の支払いを停止している。これまでに11カ月分の社会保険料が未払いとなっている」と述べています。
上海数百人の労働者、道路遮断抗議デモ
11月21日、上海汽車集団(上汽集団)のサプライヤーである上海国利汽車真皮飾件有限公司の労働者数百人が、賃金未払いと事実上のリストラに抗議し、道路交通を遮断する集団行動を行いました。しかし、その直後、警察による暴力的な鎮圧を受けました。
上海国利汽車真皮飾件有限公司は1996年に設立され、本社は上海市閔行区(びんこうく)にあります。同社は自動車、高速鉄道、航空分野の高級レザーインテリアや関連部品の研究開発、製造、販売を手掛けており、2023年末時点で従業員数は2646人に達していました。
中国の企業情報サイト「天眼査(ティエンイェンチャー)」のデータによると、2024年11月11日時点で上海国利汽車真皮飾件有限公司の負債総額は2600万元(約5.2億円)に上っています。この巨額の負債により、同社は従業員への給与を支払うことができず、21日に労働者による道路遮断抗議につながりました。
情報筋によると、この事件の根本的な原因は、現在の自動車業界における激しい競争にあると指摘されています。また、同社と上汽集団の間で大きな意見の相違が生じたことが影響している可能性があるとも報じられています。
(翻訳・藍彧)