中国の就職市場は悪化の一途をたどっており、名門大学「211工程」の卒業生ですら月給わずか800元(約1.7万円)の職に就く厳しい現状に直面しています。来年の大学卒業生は過去最多の1222万人に達する見込みで、これに伴い失業率のさらなる上昇が予想されています。低賃金や就職難に対する不満が広がる中、大学生たちは配達員や警備員といった低スキル職への転向を余儀なくされ、多くの若者が大学進学を断念するか、海外留学を選択するようになっています。このような状況は、中国経済の低迷と就職市場の深刻な危機を浮き彫りにしています。

上海の難関大学卒業生も直面する低賃金の現実

 上海市で行われた難関大学の合同就職説明会では、ある上場企業が学部生のインターン職に月給800元(約1.7万円)の最低月給を提示し、世論を騒がせています。この給与水準は上海市の最低賃金基準を大幅に下回るものです。別のIT企業は学部生に月給2000元〜2499元(約4.3万〜5.3万円)を提示していましたが、消費水準が極めて高く、賃貸住宅の家賃だけで1000元(約2.1万円)近くかかる上海において、生活を営むのは極めて困難です。

 このような低い給与水準に対して、大学生らは不満の声を上げています。「十数年間も勉強してきたのに、何の意味があったのか。中学卒業後に配達員や建設現場の仕事をしたほうが数倍も高い収入が得られるのでは?」といった言葉が聞かれています。

 このような「異常現象」は、現在の大学生の就職状況が非常に厳しいことを物語っています。上海の難関大学の卒業生がこのような境遇に陥っていることを考えれば、他の大学の卒業生らはさらに厳しい状況に直面しているものと予想されます。

博士卒でも低賃金

 浙江省のある採用イベントでは、1つの大学が文系、理系、医学系の博士号保有者を合計50名募集していました。「優れた教育能力」と「非常に高い研究能力」が条件とされましたが、驚くべきことに、提示された年収はわずか8万元(約170万円)でした。

 このニュースがネット上で拡散されると、多くの議論が巻き起こりました。あるネットユーザーは、「この年収を見た瞬間、心が冷え切った。博士号を取るため一生懸命頑張ったのに、この給料なら配達の仕事をした方がマシだ」とコメントしました。また、別のユーザーは、「私の地元では専門学校の卒業生が企業に入社すると初年度で6万元〜7万元(13万円から15万円)稼ぐ。博士卒で年収8万元なんて悲しすぎる。勉強を頑張った意味がないのではないか」と嘆きました。

 これは個別の事案かもしれませんが、最近の就職イベントでは、企業が非常に低い給与を提示することが増えています。

 例えば、江西省唯一の難関大学である南昌大学で行われた採用イベントでは、ファーウェイやテンセント、BYDなどの大手企業がほとんど参加しませんでした。中小企業が目立ち、提示された給与はかなり低いものでした。例えば、深圳のある企業が募集していた職種は、アシスタントエンジニアや人事スタッフ、営業マンなど基礎的な職種で、月給は4000〜7000元(約8.5万〜15万円)程度でした。

 忘れてはいけないのが、南昌大学は江西省における最も優れた大学であるということです。さらに、就職先も深圳という大きな商業都市であることです。にもかかわらず、最高月給は7000元だけだったのです。

大卒生の就職、一層厳しく

 中国教育部の推計によると、2025年には中国の大学卒業生の数が1222万人に達し、今年より43万人増加すると予想されています。そのため、来年の大学卒業生はさらに大きなプレッシャーに直面すると見込まれています。

 中国経済の悪化が続くなか、多くの卒業生は「卒業即失業」という厳しい現実に直面しています。昨年、中国政府は一時的に若年失業率の公表を中止しましたが、今年は修正されたデータを発表し続けています。それでも、青年失業率は依然として上昇を続けています。

 中国の求人情報サイト「智聯招聘(ちれんしょうへい)」が発表した2024年度の新卒就職率は過去最低の68%にとどまりました。すなわち、約3分の1の卒業生が失業のリスクに直面しています。

 最近、中国当局は鄭州で行われた「夜間集団サイクリング」について神経を尖らせており、取り締まりを行っています。大学生が就職難に遭い、将来への見通しが立たないなか、大規模な集会が抗議活動に発展することを当局は懸念しているとの指摘もなされています。

大学進学を放棄する学生も

 就職率の低下が続く中、大学進学を諦める学生が増えていることが明らかになりました。

 今年10月、 「広東省で1477人の新入生が入学を放棄」 というニュースが世間の注目を集めました。問題の発端となった広東白雲学院は、その後の声明で、 「新学期の新入生のうち1477人が登校しなかった。全体の入学率は89.08%だった」と認めました。

 さらに学校側は、 「広東省全体の大学新入生の入学状況と比較すると、我が校の入学率は『正常な範囲内』にある」 と説明しています。この発言は、広東省内の多くの大学で多くの新入生が入学を放棄している可能性があることを示唆しています。

14時間、15時間労働も

 ラジオフリーアジアによると、2023年に広西医科大学薬学部を卒業したマットさん(Matt)がインタビューに応じ、同級生らの厳しい就職状況について語りました。

 マットさんは、 「私の代の就職状況は非常に悪く、学位証が発行された時点で、まだ約半数の同級生が仕事を見つけられていなかった」 と述べています。

 また、自身のインターン経験について、深センの研究機関で 「1日14〜15時間働いても月給はわずか5000元(約10万7000円)だった」 と当時の厳しい労働環境を明かしました。

 マットさんはまた、大学卒業した2023年6月にクラスのグループチャットで紹介されていた求人情報を紹介しました。広西省にある製薬会社がインターン生を募集する内容でしたが、 「月給は2800元(約6万円)で、そこから食費として140元(約3000円)が差し引かれる上、男性のみが対象」 という条件でした。

 マットさんは、翌年卒業する後輩たちの就職状況についても悲観的な見方を示しました。「全体的に状況は良くない。仕事自体は見つかるかもしれないが、月給は3000〜4000元(約6万4000〜8万6000円)程度だ」 と語りました。

配達員や警備員が活路

 上海出身の許さんは現在、アメリカ・ミネソタ州の大学に通っています。もし中国国内の大学に進学していた場合、2026年に学士課程を修了する予定だといいます。しかし、彼の家族は海外留学を選択しました。この決断について許さんは「非常に良い選択だった」と語ります。

 許さんによると、中国国内の高校の同級生たちは、「学歴の価値が低くなっている。大学院に進学するか、海外留学を選ぶしかない」と考えていました。

 さらに許さんは、中国国内で大学を卒業しても、就職は極めて困難だろうと語りました。そして、「仕事が見つからなければ、デリバリー配達員や警備員をするしかない」と述べました。

 中国当局の公式統計によると、今年7月から9月にかけて、都市部に住む16〜24歳の若者の失業率は、それぞれ17.1%、18.8%、17.6%と高い水準で推移していました。また、ここ数年では大学卒業生がデリバリー配達員や警備員として働く状況がしばしば報じられており、若者たちの厳しい就職環境が浮き彫りになっています。

(翻訳・唐木 衛)