11月14日、中国のSNS「抖音(Douyin、TikTokの中国版)」上で刑務所職員の採用に関する解説動画が複数投稿されました。刑務所が6万人〜8万人の職員を急遽募集しており、採用条件は非常に緩いとのことです。公式発表はまだ確認されていませんが、中国共産党による法執行がさらに厳しくなるのではないかとの憶測や、「国が養ってくれるなら楽だ」といったブラックジョークが見られました。

刑務所が職員急募か

 11月14日に「抖音(Douyin)」で拡散された動画によれば、中国の刑務所は大規模な採用を行うとのことです。ある動画では「国営企業就職専門家」と名乗る人物が、「突然のことだが、刑務所が8万人の増員を行うぞ」と告知しました。さらに、大学卒であれば月給1万2000元(約24万円)からスタートし、専攻内容や幹部とのコネクションも不要とのことでした。

 そして、「今回の募集は急遽行われるものであり、応募条件は非常に緩い。大学卒であれば基本的に誰でも採用される」と述べました。職種は主に一般事務で、全国各地から応募可能とのことです。さらに、正式な公務員枠として採用されるため、安定した雇用が保障され、福利厚生も充実しているとのことです。

 国営企業や公務員就職を取り扱う別のアカウントは、「11月13日に緊急告知があり、刑務所が6万人を採用するそうだ。大卒のみならず、専門卒も応募可能だ」と紹介しました。このアカウントも、専攻分野や地域に関係なく募集することができると述べました。さらに、「急な発表であるため、応募条件が大幅に緩和された。2024年度卒業の学生なら基本的に応募すればそのまま採用される」と強調しました。このアカウントによると、専門卒で月給8000元(約16万円)、学部卒で月給1万元(約20万円)以上とのことです。

 さらに今年5月21日には、中国の刑務所が女子大学生を対象に全国的な採用を開始したとの情報もありました。女子大学生であれば、専門や出身校に関係なく応募できるとのことです。就職支援アカウントによると、今回の募集元は女子刑務所であり、4000人のポストが空いているとのことです。職種は刑務官と行政一般職で、データ管理や統計といった一般事務も募集があります。応募者の採用率は80%に達していたとのことです。

急募の背景にあるもの

 刑務所が急遽大量採用を行うとの情報が拡散されましたが、これは何を意味しているのでしょうか。一部では、今回の出来事そのものが、中国が直面している深刻な社会問題を反映しているとの指摘があります。

 まず第一に、社会不安の高まりが挙げられます。11月11日、広東省珠海市の体育センターで暴走車両が通行人を次々とはねる事件が発生しました。現地メディアの報道によると、この事件で35人が死亡し、43人が負傷しました。ネット上の情報によると、犠牲者の多くは中国の退職した官僚だったとのことです。

 事件を受けて、習近平は地方政府や関係機関に対し、「リスクの原因を根本から徹底的に排除し、トラブルを速やかに解消するべき」との緊急指示を出しました。これを受けて、全国各地では「問題を抱えた市民」の調査が始まったとの情報が、米政府系メディア「ラジオ・フリー・アジア」によって伝えられました。

 調査の対象となったのは、「八失人員」や「三低三少」と呼ばれる人々です。「八失人員」とは、投資に失敗した人、生活の楽しみを失った人、恋愛に失敗した人、人間関係に失敗した人、精神状態がよくない人、精神的な病を抱えた人、そして保護者を失った若者のことです。「三低三少」とは、経済的な収入が低い人、権利や地位が低い人、社会的な名声が低い人、社会との関わりが少ない人、機会に恵まれない人、そして悩みを打ち明ける機会が少ない人を指します。「ラジオ・フリー・アジア」が入手した中国共産党の下級幹部らの通信記録には、このような人々が今後の潜在的なリスク要因になる可能性があるとして、内偵するよう求める内容が含まれていました。

 第二に、中国の留置所が過密状態となっていることが挙げられます。

 米政府系メディア「ボイスオブアメリカ」の報道によると、中国各地の留置所は既に収容人数の限界を超えており、一部では拡張計画も進められているとのことです。今年上半期だけでも、中国では36.7万人が逮捕され、76.1万人が起訴されています。これらの数字は、前年同期比でそれぞれ18.5%と6.8%増加しています。中国最高人民法院のデータによると、各レベルの下級裁判所が上半期に下した判決の数は前年同期比8.47%増加しました。5年以上の実刑判決が言い渡される件数は減っているものの、3年以下の実刑判決の言い渡し件数は増加傾向にあり、比率としては87.04%となっています。

 中国・四川省で刑事事件を担当する王瑞弁護士は「ラジオフリーアジア」の取材に対し、「留置所はすでに満員で、複数の留置所では拡張計画が進んでいる」と述べました。王瑞弁護士によると、収容者の居住環境は極めて劣悪で、収容人数12人の部屋に20人以上が詰め込まれ、場合によっては地面で寝る人もいるそうです。

 もう一人の中国人弁護士は、「以前なら見逃されていた行為でも、今では厳しく摘発されている」と指摘しました。例えば、小規模なビジネスをする場合でも、書類が不完全な場合には違法経営とみなされる可能性があります。また、企業が資金繰りに失敗して支払いが滞ると、詐欺罪や契約詐欺罪に問われることもあります。最近では、山に野菜を採りに行ったり、川で小魚を取ったりするだけで罪に問われるケースもあり、「軽微な罪でも重い判決が下される傾向が強まっている」とのことです。

 法執行の厳しさは地方政府の財政状況と関係しているとの指摘もあります。ある中国ウォッチャーは、中国経済が減速するなか、財政難に陥った地方政府は罰金を主要な財源としていると指摘しました。中には、巨額の罰金を住民から巻き上げるため、本来拘束すべきでない無実の人を留置所で監禁することもあります。さらに、留置所で罰金を拒否すれば、裁判所がより重い判決を下します。一度判決が下れば、政府は「合法的」な手段で被告人の全財産を没収することが可能になります。

底辺層に活路はないのか

 刑務所職員の大規模募集の情報が拡散されると、中国のネットユーザーからは不安や皮肉を交えた声が数多く寄せられています。

 あるユーザーは「6万人の職員が必要ということは、一体どれだけの人を収容するつもりなのか。考えるだけで恐ろしい」とコメントしました。また、「これからは慎重に行動しないと、すぐに逮捕されるかもしれない」「刑務所職員を6万人も募集するなら、収容者は60万人以上になるのでは」との懸念も上がっています。

 一方で、刑務所に収容される可能性のある人々について、皮肉交じりの投稿も見られました。「仕事がない人たちを閉じ込めるのではないか」「結婚も出産もしない人たちも対象になるかな」「夜間に自転車に乗るだけで逮捕された人もいるかもしれない」「むしろ早く捕まえてほしい。国が養ってくれるなら楽だ」といった投稿が寄せられました。

 さらに、「この2年間で多くの人が逮捕され、刑務所や拘置所はすでに満杯だ」「刑務施設用の標識が大量発注されている理由がやっと分かった」との書き込みもありました。また、「社会底辺層の人々はもう行き場がない、活路はないのか」と嘆く声もありました。

(翻訳・唐木 衛)