最近、中国のソーシャルメディア上で「新型貧困者(層)」という新しい言葉が登場しました。「新型貧困者」とは、従来の貧困層とは異なり、一見すると中流階級や安定した生活を送っているように見える人々が、経済的な理由や社会的な変化によって突然貧困状態に陥る人々を指します。例えば、失業、住宅ローンの負担、教育費の増加などが要因となり、経済的に追い詰められるケースが挙げられます。この現象は、特に経済の不安定化や格差の拡大が進む現代社会で注目されています。
「新型貧困者」の人々は、数百万元の住宅に住んでいても毎月1万元の住宅ローンが支払えず、または数十万元の車を所有していても500元のガソリン代が負担できない人たちを指します。彼らの日常生活は、高額な住宅ローンの支払いによって圧迫され、ほぼ全収入を住宅ローンや車のローンの支払いに充てざるを得ない状況です。
不動産価格の暴落、大幅な資産減価に直面
近年、中国の不動産市場は低迷しており、一線都市の不動産価格はほぼ30%下落しています。他の都市では下落幅がさらに大きく、一部の地域では50%以上下落しています。このような状況下、高値で不動産物件を購入した人々は、資産価値の大幅な下落という苦境に直面しています。
中国経済の継続的な悪化や不動産価格の暴落とともに、「新型貧困者」は中国の主要都市で拡大しており、特に北京、上海、広州、深センなどの一線都市で顕著です。
「新型貧困者」の共通する特徴は次の通りです。
第一に、都市部に住宅や車を所有しています。
第二に、貯蓄がほとんどないか、あってもわずかしかない状態です。住宅や車以外の資産は持っていません。
第三に、数百万元、あるいは数千万元規模の借金を抱えている状態です。毎月の収入の減少により収支が赤字になっています。
都市で家と車を持ちながら「貧困」とは?
多くの人は疑問を抱くかもしれません。都市部で家を買う余裕があり、車も所有しているのに、なぜ貧困とみなされるのでしょうか?これは、多くの人々が家や車を購入する際に分割払いを選択しているためです。巨額の住宅や車のローンを背負い、返済期限が数十年に及ぶことも珍しくありません。また、近年の中国経済の低迷により、多くの人々が失業し、収入が不安定になっています。このような状況下、住宅ローンや車のローン返済が重荷となり、生活費を削減し生活水準を大幅に引き下げざるを得ないのです。
彼らは娯楽のための支出もできず、病気になることさえ恐れています。こうして都市部での生活を続ける中で、彼らは「新型貧困者」と呼ばれるようになっています。
借金のプレッシャーに苦しむ日常
「新型貧困者」は、毎日仕事に追われながらも、生活に対する強い不安を感じています。なぜなら、いったん職を失い、月々の返済ができなくなると、住宅や車が銀行に差し押さえられてしまい、頭金や数年間の返済が無駄になるからです。
これらの「新型貧困者」は、リスクに耐える能力が農民よりも低いと言われています。なぜなら、彼らは土地を持たないため、自分で作物を栽培して自給自足することができず、都市生活での衣食住などすべてにお金が必要だからです。住宅ローン以外にも、生活費や水道光熱費、交通費、さらには社会的な付き合いの費用もかかります。彼らは毎朝目覚めると、あらゆる返済と支出に直面しなければならず、毎日疲弊しながら生きているのです。
家を売却して賃貸住宅への転換
「新型貧困者」の厳しい状況から抜け出すため、一部の中年層は家を売却し、代わりに賃貸に切り替えることを選んでいます。これにより巨額の住宅ローンから解放されることが期待されています。このような「家を売却して賃貸に切り替わる」現象は、注目を集めています。
中国の不動産業界の総合調査プラットフォーム「貝殻研究院」のデータによると、北京と上海の中年層の賃貸者割合は、それぞれ45%と40%に達しています。また、30歳以上の年齢層を含めると、若年層と中年層の賃貸者は全体の55%以上を占めています。中年層の賃貸者増加のほとんどは、家族単位となっています。
中国のメディア関係者、龍氏は、「賃貸であれ、購入であれ、現在、外国資本が撤退し、多くの人が失業すると、まず直面するのが住宅ローンのプレッシャーである。もし住宅ローンが返済できなければ、家は銀行に差し押さえられてしまう。このような事例は中国では非常に一般的なことである」と語りました。
金融業界の職員も「新型貧困者」の影響を受ける
一部の人々は、「新型貧困者」として毎日生活に追われることに耐えきれず、極端な行動に走ることもあります。
例えば、2024年11月6日午後4時ごろ、中国交通銀行の重慶支店のクレジットカードセンターに勤める7年目の男性職員が、銀行から解雇通知を受けたことに絶望し、職場で首を吊ろうとする事件が発生しました。幸いにも、間一髪で同僚に止められました。止められた彼は大声で「自分が受けた不公正な扱い」を訴えました。
同銀行の内部職員によると、2023年以降、重慶支店では給与削減が進み、管理職が職員に辞職を迫っていたといいます。契約期間が満了した職員との契約更新をせず、年配の職員には勤務年数を放棄させた上で、銀行との業務委託契約を結ばせることが強要されています。また、従業員の月給が3000元(約65000円)に引き下げられ、職務や給与が固定され、契約は一度に2年間のみ締結されるようになりました。多くのベテラン職員は、やむを得ず給与引き下げに同意するか退職するかの選択を迫られています。
交通銀行の職員が解雇されたことで自殺未遂になったニュースは、社会的に関心を呼び起こしました。「銀行がそんな厳しい状況に陥っているのか?」と驚く声や、「この事件だけで、中国銀行業界が未曾有の危機に直面している現実を浮き彫りにしている」との意見が多く見られました。
経済的重圧がもたらす悲劇
重慶市のその職員は同僚に助けられましたが、上海市では不幸にも命を失った事例がありました。
2024年7月4日、上海市の陸家嘴(りっかし)金融センター近くで、若い女性が高層ビルから飛び降り自殺した事件が発生しました。複数のメディアの報道によると、この女性は中国国際金融股份有限公司(CCIC、中金公司)の職員でした。彼女が命を絶った背景には、同社による大幅な給与削減があったと報じられています。
中金公司は中国最大の国内投資銀行であり、中国国内で最も高収入が得られる金融企業の一つです。同社に就職することは多くの名門大学卒業生にとって夢とされています。
この命を絶った女性は名門大学を卒業し、高給のポジションに就いていました。報道によると、彼女は約数千万元(約2億円)の家を購入し、毎月5万元(約100万円)の住宅ローンを30年間支払わなければならないとのことです。ネット情報によると、2022年時点で中金公司の平均月収が10万元(約210万円)だったものが、2024年には3.5万元(約74万円)までに減少したため、住宅ローン返済が困難となり、最終的には追い詰められた結果だったとみられています。
このような事例は、中国の経済状況と社会構造が個人の生活に与える重大な影響を物語っています。「新型貧困者」の拡大は、中国経済が直面するさらなる課題を象徴していると言えるでしょう。
(翻訳・藍彧)