中国経済は高成長期を経て、現在は成長の鈍化に直面しています。以前は「高ければ高いほど良い」という価値観が主流であり、富裕層のみならず中間層もステータスの一環として高額な消費を楽しんでいました。
しかし、経済の成長が鈍化し、物価上昇が続く中で、消費者の購買行動には顕著な変化が見られるようになってきました。
最近、中国で急速に広がりを見せている「窮鬼套餐(貧乏人セット)」と呼ばれる激安メニューが人気を集め、価格帯は9.9元(約200円)以下が中心となっているが、名前から受ける印象とは異なり、多くの中国人にとっては親しみやすく、気軽に楽しめるメニューとして定着しています。
「貧乏人セット」流行中、若者の新しい消費トレンド
「貧乏人セット」の始まりは、2019年に登場したマクドナルドの「1+1セット」でした。中国市場において「1+1随心配(自由に組み合わせ)」セットを提供していました。13.9元(約300円)という非常に手頃な価格で、ハンバーガーとドリンク、またはデザートを自由に組み合わせることができるセットです。運が良ければ、ドリンクやポテトの無料クーポンがもらえることもあります。コストパフォーマンスが高く、若者に非常に人気のあるセットです。
洋食ファストフードでは、マクドナルド以外にもバーガーキング、ケンタッキー、ディコスなどがあり、さらに低価格のローカルブランドのタスティンやウォレスなども加わっています。10元(約200円)でハンバーガー、13元(約280円)でハンバーガー・サイドメニュー・ドリンクの3点セットが楽しめます。
究極の「貧乏人セット」として中国で展開する石焼ビビンバチェーン「米村拌飯(ミーツゥンビビンバ)」で、3元(約65円)の白ご飯食べ放題が定番です。店内で無料提供されるキムチ、漬物、わかめスープを使えば、おなかを満たすことができます。
朝食にも「貧乏人セット」があります。朝、中華ファストフード「南城香(ナンチャンシャン)」で3元のドリンクビュッフェを注文すると、牛乳、お粥、豆乳が食べ放題で、2.5元(約54円)の肉まんや2.8元(約60円)の揚げパンを加えると、5元(約110円)で満腹になれます。
デリバリーの安い食事も注目を集めている
出前アプリ中国大手の「美団(メイトゥアン)」が2022年に開始した新サービス「拼好飯(ピンハオファン)」はフードデリバリーを割安に利用できる共同購入サービスとして、節約志向の消費者を惹きつけています。ピンハオファンは、直訳すると「おいしいご飯をみんなで一緒に」という意味で、低価格、送料無料、パッケージ無料などを実現する共同購入サービスです。近隣の2~4人と一緒に注文することでお得な価格で食事が楽しめます。
注文アプリを開くと、まず飲食店が提供する対象メニューの一覧が表示されます。料理を選んで注文ボタンを押すと、同じメニューを注文したい他の利用者の募集が始まります。マッチングは10秒程度で完了し、注文が成立します。例えば、洋食チェーン「ビッグピザ」の北京某支店の定番スパゲッティ・ボロネーゼは、通常のデリバリーで注文すると29元(約630円)かかりますが、ピンハオファンでは13.6元(約300円)で注文できます。
安くできる理由は2つあります。飲食店は1回の注文で2人以上に売れるので「薄利多売(はくりたばい)」が可能になり、販売価格を下げられます。配達員も1回の注文で2人以上の利用者に宅配できるため、注文ごとに別々の利用者に届けるよりも配送効率が高いです。注文者にとっては配達料や包装費も無料で提供されるため、さらにお得になります。
ピンハオファンは美団が2022年に導入され、以降利用者が急増しています。2023年には、美団デリバリーの注文の約6%がピンハオファン経由となり、今年第1四半期には、1日あたりの平均注文数が急増し500万件に達し、全体の約10%を占めるまでになりました。美団の第2四半期の財務報告によると、ピンハオファンの1日あたりの注文数は、最高で800万件に達しています。
レストランの価格が10年前に逆戻り
顧客が高級レストランを求めなくなったため、高級レストランは閉店から逃れられなくなっています。エンタープライズサーチアプリ「企査査(チーツァツァ)」のデータによると、2023年に新たに開業した飲食関連企業は全国で318万軒に上る一方、135.9万軒が倒産や閉店を余儀なくされました。
例えば、上海外灘に位置する高級フレンチレストラン「L’Atelier18」は、2024年1月にオープンし、経験豊富なシェフを雇用しながら、一人当たり約1600元(約35,000円)の価格設定でした。しかし、8月には突然営業を停止し、賃金未払いなどの問題も報じられる事態となっています。
飲食業界メディア「紅餐網」が発表した「2023年中国餐飲消費動向報告」によると、2022年10月から2023年4月にかけて、全国で1人当たりの消費額が300元以上の店の割合は1.07%から0.68%に減少し、約4割の高級レストランが閉店しました。
特に上海では、過去5年間で1人当たり500元(約1万円)以上の高級レストランは2700店以上あり、飲食店総数の1.35%を占めていましたが、今年7月には1400店までに半減しています。
レストランのタイプ別に分析すると、正餐(フルサービスの食事)タイプのレストランを選ぶ人が減少していることがわかります。上海市飲食業協会のデータによると、異なる業態のレストランでは、正餐の総売上高は21.3%減、軽食は5.9%減、洋食は15.8%減、洋食ファストフードは9.3%減少し、和食や清真料理(ムスリム向けの料理)も減少傾向にあります。一方、鍋料理や焼き肉は2%の成長を見せました。
高価な正餐だけでなく、ケーキなどのスイーツ類も冷遇されています。美団の2023年の報告書によると、2019年に美団でトップ100に選ばれたベーカリー業者のうち、2023年には39社が閉店し、さらに32社が店舗数を減らしています。
このような市場環境の中、多くの飲食店が値下げを余儀なくされています。値下げのキャッチコピーも同じパターンで、「○年前の価格に戻る」といった内容がよく見られます。
例えば、鍋料理のチェーン店である「呷哺呷哺(しゃぶしゃぶ)」は、定食価格を「10年前の価格に戻す」と宣伝しています。また、四川省や重慶市に多くの店舗を展開する中華ファストフードの「郷村基(シャンツイジ)」は、「2008年の価格に戻す」というキャッチフレーズを打ち出しています。「太二酸菜魚(タイアールスァンツァイユー)」の単価が7年前に戻ったことがネット上で急速に話題になり、中国最大規模の火鍋ブランド「海底撈(カイテイロウ)」の単価も実際には2017年に戻っています。
一線都市の賃金労働者は消費を控える
一線都市のホワイトカラーも、ますます安価な食事を選ぶようになっています。多くの一線都市のホワイトカラーは、お昼などの食事で30元(約640円)以下の価格を受け入れるようになっています。大都市での収入が相対的に高いものの、物価や家賃、住宅ローンの負担が非常に大きいためです。
2024年上半期、一線都市の飲食業の成長は、新一線や二線都市に比べて明らかに鈍化しています。飲食業の売上成長率が最も高かったのは、重慶、福州、武漢などの二線都市で、いずれも10%を超えました。一方、北京、上海、広州、深センの四大一線都市の中では、飲食業の売上が伸びているのは深センだけです。伸びが最も低かったのは、かつて高級レストランが多く集中していた上海で3.6%減少し、次いで北京も3.5%減少しました。
高いコストパフォーマンスを追求することが、現在の一線都市のホワイトカラー層の消費スタイルとなっています。小都市から来たブランドが一線都市で人気を集めています。10元(約210円)未満のミルクティーやコーヒー、20元(約430円)未満のハンバーガー3点セットやビビンバなど、非常に魅力的な価格帯です。
経済的なプレッシャーが、消費者の価値観に変化をもたらしています。かつては高価な商品やサービスを購入することが富や成功を示す手段でしたが、現在では限られた予算の中でいかに効率的に消費を行うかが重視されるようになっています。
これが「理性消費」へのシフトであり、消費者はより現実的で合理的な選択をするようになっています。特に若者の間では、過度な消費を避け、より実用的でコストパフォーマンスの高い商品を選ぶ傾向が強まっています。
(翻訳・藍彧)