先日行われたアメリカ大統領選挙で、共和党のドナルド・トランプ氏は民主党候補者のカマラ・ハリス氏を破り、第47代アメリカ大統領に当選しました。トランプ氏は来年1月20日に宣誓を行い、再び大統領の職務に就く予定です。「アメリカ・ファースト」の政策を掲げるトランプ氏の再登場に、各国の市場は積極的な反応を示しています。投資資金が米国に流入することで、中国市場は一段と冷え込む見込みです。
対応に追われる中国官民
米国テレビ局の「FOX」ニュースによると、トランプ氏は今、政権の人事戦略を練っており、第1期目でトランプ政権に所属していた一部の閣僚を再度起用する見通しです。トランプ政権の名簿には、対中強硬派の政治家が多数含まれるとの報道も相次いでいます。
これを受けて、中国国内メディアでは「トランプ新政権は中国共産党政権に対して敵対的な姿勢を示すだろう」との見方が強まっています。トランプ氏が大統領に就任すれば、アメリカ政府が中国共産党に対してさまざまな圧力を加える可能性があるとしています。そして、中国当局はこれに備え、十分な対応策を用意すべきとの意見も出ています。
また、アメリカに製品を輸出する中国企業も、高額な関税措置に直面する可能性が懸念されています。
中国南部の広東省仏山市で照明器具メーカーを営むジェームズ・チェン(James Cheng)氏は、ラスベガスのホテルのために2000枚以上のLED付きバスルームミラーを生産しています。
2018年にトランプ氏が中国製品に追加関税を課した際、チェン氏の工場で製造された多くの照明器具には25%の関税がかけられました。今回トランプ氏が再選したことを受け、チェン氏は米国公共ラジオ放送(NPR)の取材に対し、「普通の企業オーナーとしては、心配してもできることは何もない」と話しています。
2018年に追加関税が導入されてから、チェン氏は関税を回避するため、2019年に一部の生産ラインをタイのバンコクに移しました。同様に、他の中国企業も東南アジアへと生産拠点をシフトする動きが広がっています。チェン氏は「60%の関税が課された場合、東南アジアへの投資はさらに増えるだろう。私の場合は特にタイでの投資が増えることになる」と述べています。
中国株も「トランプ相場」
独立系テレビプロデューサーの李軍氏は、新唐人テレビの番組「菁英論壇(せいえいろんだん)」に出演し、米国株式市場がトランプ氏の再選を非常に好意的に受け止めたと述べました。米国の主要3指数は軒並み史上最高値を記録し、他国の株式市場にも良い影響を与えました。日経平均は2.5%以上上昇し、欧州市場も0.9%上昇しました。また、ほかの通貨に対する米ドルの強さを表すドル指数が1.4%上昇しました。さらに、トランプ氏がビットコインへの支持を表明していたため、ビットコインも大幅に上昇しています。
一方で、中国市場の反応は対照的で、トランプ氏の勝利が決まると株安と通貨安が同時に起こりました。オフショア人民元は約1.3%下落し、24か月ぶりの最大下落率を記録しました。中国株式市場のA株の三大指数は軒並み下落し、香港のハンセン指数も2.23%下がりました。
ホットマネーが米国還流
かつて中国の億万長者だった趙海濤(ちょうかいとう)氏は、討論番組「菁英論壇」に出演し、トランプ氏の政策が米国経済に好影響をもたらすとの見方を示しました。トランプ氏の政策には、減税や不法移民の排除、戦争の終結を掲げる平和外交、さらには中国に対し500億ドル規模の農産物購入を求めるなど、米国の経済を強化する内容が含まれています。こうした政策が米ドルの信頼性を高めていると、趙氏は指摘します。
また、趙氏は、米ドルが長らく世界の基軸通貨としての地位を維持してきたものの、中国の人民元の台頭によりその地位が脅かされつつあると分析しています。しかし、トランプ政権の再来により、ドルへの信頼が再び強まり、資本が米国に回帰する動きが加速するとの見方を示しました。この資本流入はドル高を促進し、特に人民元に対するドル高の進行が予測されます。
さらに趙氏は、中国への投資が短期的な利益を目指したものである一方、米国への投資は長期的な利益が期待できると強調し、現在の市場動向を分析することで、今後の米中経済関係の行方をある程度見通せると述べました。
米中貿易戦争再燃の懸念
「菁英論壇」に出演した大紀元新聞の編集長・郭君氏は、2018年に発生した米中貿易戦争とその後の影響を分析しました。当時、中国当局は米国の関税引き上げに対抗する強硬姿勢を取りましたが、結果としてグローバルサプライチェーンの大規模な移転が始まり、多くの海外資本がリスク回避のために中国から撤退しました。米国や欧州の大企業が中国市場から徐々に撤退し、欧米市場での「中国離れ」が顕著になったと述べました。近年の中国経済の悪化も、トランプ政権下で行われた米中貿易戦争の結果だと指摘しました。
郭氏は、トランプ氏が再び大統領に就任することで、中国当局は再度、強い危機感を抱いているのではないかと指摘しています。トランプ氏は中国製品への追加関税を改めて明言しており、追加関税は避けられない選択だと述べています。
米露関係の再編と中国への影響
オーストラリア在住の法学者、袁紅冰氏は最近、大紀元の取材に応じ、米露関係の動向に注目する必要があると語りました。袁氏が引用した中国軍のシンクタンクの報告書によると、トランプ氏が再び米国の大統領に就任すれば、ロシア・ウクライナ戦争の終結を目指す可能性が高いと予測されています。その後、米露関係は大きく改善し、敵対的な関係から同盟関係へと転換する可能性があるとのことです。プーチン大統領は過去に、欧米諸国との関係改善を希望し、EUやNATO加盟の可能性さえ示唆していました。これにより、習近平氏は、米国がロシアと同盟を結ぶことに対して強い懸念を抱いています。
報告書はまた、米国の政策決定を共和党が主導する場合、ヨーロッパの地政学的な重要性が低下し、アジア太平洋地域、特に台湾海峡や南シナ海での米中対立が深まるとの予測を示しています。共和党系のシンクタンクは、ソ連崩壊後、地政学的重心がヨーロッパからアジア太平洋地域に移行したと見なしており、今後、米国はロシアとの連携を強化しつつ、アジア地域への注力を強めるとしています。
この変化が中国に与える影響として、中国軍のシンクタンクは、米国がロシアと同盟関係を築けば、台湾侵攻を目指す中国共産党は二正面作戦を強いられることとなり、大きな圧力となることを指摘しています。
11月7日、ロシアのプーチン大統領はソチで行った演説で、トランプ氏の当選を祝福し、トランプ氏が暗殺未遂にも屈しなかった勇気を称賛しました。また、プーチン氏は米露関係改善に意欲を示しつつも、「ボールはワシントン側にある」と述べました。
米露関係について、トランプ氏もプーチン大統領と対話することに前向きな姿勢を見せています。
(翻訳・唐木 衛)