中国当局は少子化対策で出生率向上のためにあらゆる手段を講じています。中国国務院弁公庁が最近、出産および住宅支援に関する複数の奨励策を発表したほか、地方部門から市民に「出産を促す」電話をかける例も報告されています。
地方の「出産促進弁公室」の職員が直接家庭を訪問し、若者に対して「子どもを産まなければ罪だ」と叱責(しっせき)するケースさえあるといいます。また、政府の方針に沿って、中国の官製メディアが「妊娠は女性をより賢くする」という記事を掲載しました。しかし、これらの発言は「子どもを産むことが本当に良いことなら、なぜこんなにしつこく勧める必要があるのか?」と多くのネットユーザーからの揶揄(やゆ)を招いています。
出産奨励政策の強化
中国国務院弁公庁は10月28日、「出産を支援する政策体系の整備を加速し、出産に優しい社会の建設を推進する若干の措置」を発表しました。
出産サービス支援の強化、育児サービス体系整備の強化、教育・住宅・就業支援措置の強化、出産に優しい社会雰囲気の醸成の四つの面から13項目の具体的措置を打ち出し、中国の出生率を刺激することを目指しています。
出産奨励策の多様な手法
ネットユーザーが投稿した動画には、重慶市の「出産促進弁公室」の職員が自宅を訪問する様子が映っています。その動画の中で職員は「以前の計画生育弁公室の職員だった」と自己紹介し、若者に向かって「結婚するかどうかは関係なく、必ず子どもを産め。複数の彼女を作って子どもを産んだらどうだ?33歳にもなってまだ子どもを産まないのは犯罪だ」と叱責しました。また、同行している女性を指して「彼女は専門で他人の子どもを代理出産しており、5人まで産むこともできるので、あなたの目標達成を手助けすることができるよ」と若者に紹介する場面もありました。
中国のニュースサイト「財新ネット」も最近、地方の行政部門が市民に対して直接妊娠計画を問い合わせる電話をかけていると報じました。四川省や福建省では、複数の女性が「妊娠しているか?」「最後の生理はいつなのか?」といった電話を頻繁に受け、プライバシーの侵害と感じているといいます。記事によると、これらの「出産を促す電話」は当局が実施する「人口動態モニタリング」および地域での出産支援サービスの一環と関係があるとされています。
教育費・住宅ローンの負担増大
これらの一見魅力的に見える支援策も、中国の女性にとってはあまり魅力的に映っていません。江蘇省南京市在住の馬さん(39歳、女性)は、4歳の子どもが1人いますが、教育費が非常に高いため、2人目、3人目は産みたくないし、政府の優遇策にはまったく興味がないとボイス・オブ・アメリカに語りました。
彼女は、「中国の親はみな子どもの教育を非常に重視しており、スタートラインで負けたくないと考えている。そのため、ほとんどの親が子どもを学習塾に通わせている。4教科の詰め込みは最も基本的なことで、しかも学齢前から通わせている」と語りました。
馬さんによると、1時間あたり約100元(約2100円)の授業料で、各教科を毎週1回は受講させる場合、週に2回の教科もあるため、月にかかる授業料だけで約2000元(約4.2万円)に上るとのことです。子どもが1人でもこれほどかかっているのに、政府が掲げる「3人の子ども」という目標に達した場合、授業料だけで毎月6000元(約12.6万円)以上になり、さらに幼稚園代や旅行・娯楽費用も含めると、家計への負担は非常に大きくなります。
現在の出産適齢期の親の多くは、一人っ子政策のもとで育った世代であり、つまり1つの家庭が4人の高齢者を養い、さらに子どもも育てる必要があるため、非常に大きなプレッシャーがかかっているとし、「今では3人も子どもを産む人はほとんどおらず、基本的に1人で十分という状況だ」と彼女が述べました。
広州市でメディア関係の仕事に携わる徐さん(40歳、女性)は、夫とともに子どもを持たない「ディンクス(共働きで子どもを意識的に作らない・持たない夫婦)」を決意しています。彼女はボイス・オブ・アメリカに対して、中国での子育て費用があまりにも高く、高額の幼稚園を自分たちでは負担できないと語りました。もう一つの問題は住宅です。中国当局は地域ごとの入学制度を推奨していますが、「学区住宅(名門学校がある地区内の物件)」の問題も解決されていません。特に、優れた教師や教育リソースを持つ学校の近くの不動産価格は非常に高くなり、「高額の学区住宅」が登場しています。そのため、子どもの教育のために親はまず非常に高価な住宅を購入しなければならず、子どもが成長して社会に出る段階では、家と車を持つことが結婚の必須条件となり、これがまた別の大きな出費となっています。
子どもに縛られたくない
徐さんは、かつての中国人の考え方が老後の面倒を見てもらうために子どもを育てるというものであったが、今は自分も含めてそう考えていないと言います。彼女は、子どもを産むということはその子どもに責任を持つことであり、もし良い教育環境を与えることができず、過酷な競争の中で生活を送らせるのであれば、いっそのことこの世界に生まれさせないほうがいいと述べました。
徐さんはまた、自分自身の生活だけでも大きなプレッシャーを感じており、ゆったりとした生活を送り、自分のためにお金を使い、好きなものを買い、好きなときに旅行したいので、子どもに縛られたくないと語っています。
中国は長年にわたって一人っ子政策を実施してきました。計画生育が初めて導入された当初、晩婚化が少子化の第一歩と見られていました。そのため、現代の中国が出生率を回復させたい場合、まず結婚適齢期での結婚を奨励する必要があります。しかし、『中国人口・就業統計年鑑2023』のデータによると、2022年末時点で中国の独身者数は2.4億人を超え、2024年末には3億人に達する可能性が高いとされています。つまり、ほぼ4人に1人は独身という状況です。
また、中国民政部が11月1日に発表したデータによると、今年の第1〜3四半期に全国で婚姻届を提出したのは474.7万組で、昨年同期比94.3万組減少しました。
上海に住む38歳の未婚女性、張さんはボイス・オブ・アメリカの取材に対し、中国の経済状況が悪く、自分自身の仕事だけでもプレッシャーが大きく、家賃も高く、コロナ禍で仕事が続けられるかどうかを心配しているため、デートする時間も気分も全くないと語りました。また、結婚する場合、男性はマイホームを準備する必要があり、上海の不動産価格は非常に高く、若者には購入できず、「結婚なんてできるわけがないし、結婚したら、子どもを持とうなんて思えない」とも言いました。
彼女はまた、「中国にはさまざまな馬鹿げたことが多すぎる。出産を促すのは非常に愚かな方法だ。出産するかしないかは私の自由であり、他人が干渉することはできない」と述べました。
(翻訳・藍彧)