現代中国では、飲食業は最も儲けが少ない産業となっています。果てしない価格競争が日々繰り広げられ、倒産・廃業が相次いでいます。ある飲食業界関係者は、「開業時にあった20万元(約400万円)の手元資金は、廃業時に40万元(約800万円)になっていた。残念ながら、残ったのは全て負債だ」と自嘲気味に話しました。

飲食店倒産105万件

 中国国家統計局の発表によると、今年1月から8月までの飲食業の収入増加率は、過去10年間で最低水準となり、倒産や閉業が相次いでいます。2023年には135万9千件の倒産がありましたが、今年は上半期だけで飲食業の倒産件数が105万件に達しました。

 こうした中、北京や上海、広州、深センといった一線都市の高級飲食店は特に大きな影響を受けています。例えば、「ミシュランレベル」の小籠包を提供することで有名な「鼎泰豊(ディンタイフォン)」や、数多くの賞を受賞したミシュランレストラン「山河万朶(VEGEWONDER、読み方:ベジワンダー)」などがその一例です。

 中国市場に20年近く根付いてきた台湾の飲食チェーン「鼎泰豊」は今年8月、10月末までに厦門の1店舗を含む華北エリアの14店舗を閉店すると発表しました。このニュースは台湾で大きな話題を呼び、多くの台湾人が驚きを隠せなかったと言われています。

 ネット上に投稿された映像を見ると、中国各都市の繁華街には「貸店舗」の看板が並び、閉鎖された店舗のシャッターが固く閉じられているのがわかります。大通りは閑散としていて、高級レストランや庶民的な大衆食堂、そして長年営業していた老舗さえも続々と閉店に追い込まれています。

 広東省潮州市で長年飲食店を経営しているインフルエンサー、大羅(ダイロー)氏は、「今年は飲食業界にとって特に厳しい一年だ」と指摘しています。倒産件数は過去最高に達し、業界には何度も倒産の大波が押し寄せていると述べました。

 しかし、このような厳しい状況にもかかわらず、街中には飲食店があふれています。その理由について大羅(ダイロー)氏は、「多くの人が職を失い、手軽に始められる飲食業に参入しているからです」と語っています。

 大羅(ダイロー)氏はまた、「飲食店を始める人があまりに多すぎる。閉店した店の後を次々と新しい店子(たなこ)が引き継ぎ、やがて閉店するという悪循環が延々と続いている。激しい価格競争に耐え切れずに撤退する人も多い」と指摘しています。

中小飲食店の苦境

 経済分析や業界情報を発信する人気の微信(WeChat)公式アカウント「智先生」は、最近の投稿で飲食業界の厳しい現状を取り上げました。各上場企業の財務報告を詳しく見ると、前年同期と比べて売上が15%から50%減少している企業が多く、前年度を上回る成長を達成した企業はごくわずかであることがわかります。

 特に中価格帯の飲食店は苦境に立たされており、客数の減少に伴い、平均客単価も急激に低下しています。破産寸前で営業を続ける店も多く、経営は困難を極めています。また、流行を意識した「インフルエンサー指向型」の飲食店も、流行が去ると同時に急速に閉店しているのが現状です。

 例年、5月初めの大型連休や夏冬の長期休暇、中秋節や端午節などの祝祭日は、飲食店が収益を回復する貴重な機会とされています。厳しい収支が続く中で、こうした特別な期間が「救済措置」として期待されているのです。

 しかし、今年はその期待が外れました。確かに通常より客足は増えたものの、大繁盛には至らず、多くの客は最低限の消費を済ませると足早に帰る姿が目立ちました。

 中国当局が発表したデータによると、9月の通貨供給量M2は前年同期比で6.8%増加し、市場予測の6.4%を上回りました。一方で、M1は逆に7.4%減少し、両者の数値が反比例しています。この結果、M1とM2の「ハサミ差」は拡大し続けています。

 公式アカウント「智先生」の記事では、M1の数値から市場の活力が依然として不足していると指摘しています。その原因として、多くの人が将来の収入に対する期待を下げ、大胆に消費することをためらっていることが挙げられています。

 消費の低迷や内需の崩壊に加えて、飲食業界にとって最大の問題は市場が過度に飽和している点です。店舗数が多すぎるため、何とか生き残っている店舗も激しい競争にさらされ、大きな利益を上げるどころか、営業を続けることさえ困難な状況にあります。

 さらに、中小の飲食店は客足を確保するために値引き競争を行っていますが、資金に余裕のない企業にとって、利益を度外視するやり方を続けることは耐えがたい負担となっています。

コスト増加で収益圧迫

 飲食業界では、賃料や人件費、原材料費といった主要な経費がいずれも上昇し続けています。コスト削減の余地がほとんどなく、業界全体を圧迫しています。

 江蘇省で16年間飲食店を営んできた女性オーナーは、「今の飲食業は非常に厳しく、新規投資には向かない」と語ります。「現在の売上は以前の半分強にまで落ち込んでいるが、人件費を削ることはできない。以前はブランドバッグを買うのが好きだったが、今はもう買わないようにしている」と現状の厳しさを訴えています。

 この女性オーナーは、飲食業の厳しい現実についても語りました。「毎日の支出が非常に多く、店舗の家賃だけで10数万元(約200万円)、従業員の給与もそれと同じくらい掛かっている。水道光熱費も月に20数万元(約400万円)必要だ。朝起きると『今日はお客さんが来るだろうか』と心配で、常に不安な状態だ」と切迫した心情を明かしています。

 中国の経済系シンクタンク「中国指数研究院」のデータによれば、今年上半期から全国の商業街で賃料が上昇しています。とりわけ一線都市や二線都市での増加率が顕著で、増え幅はほぼ50%以上に達しています。

 公式アカウント「智先生」の記事によると、飲食業界では人手不足が深刻化しており、従業員の賃金が自然と上昇している状況です。しかし、こうしたコスト増にもかかわらず、客足の回復は依然として見られません。

 飲食業界における倒産ラッシュは、中国経済に大きな影響を及ぼすことでしょう。大量の失業者が出ることで、深刻な雇用問題に発展する可能性があります。この影響はフードデリバリーなどの周辺業界にも波及する懸念があります。さらに、飲食店の減少は周辺の商業エリアにも影響を及ぼし、商業不動産やサービス業といった関連業種にも広範な打撃が及ぶと予測されています。

 飲食業界における倒産の急増は、中国経済における消費の低迷を浮き彫りにし、今後さらに悪化する可能性を示唆しています。

(翻訳・唐木 衛)