近年、中国では国家経済が成長する一方、民間経済は衰退し、『国進民退(こくしんみんたい)』の傾向が一層顕著になっています。加えて、不動産バブルの崩壊により、労働市場は壊滅的な状況に陥り、各業界でのリストラが続く中、失業者が急増し社会は不安定化しています。こうした状況を受け、中国共産党の機関紙『求是(きゅうぜ)』は11月1日、習近平による雇用促進に関する寄稿を掲載しました。

習近平の寄稿

 『求是』に掲載されたのは習近平の「高品質で十分な雇用の促進」と題する文章です。習近平は「雇用は最も基本的な民生問題である」と述べ、さらに中国の少子高齢化問題に言及しました。そして、「中国独自の雇用理論体系を構築」し、「雇用の分野における中国共産党の国際的な発言権と影響力を向上」させると呼びかけました。

 習近平は国際社会における中国共産党の「発言権」に重きを置いていますが、中国の実情には関心を持っていないようです。例えば、習近平はこの文章の中で「雇用の分野における中国共産党の国際的な発言権と影響力を向上」させると述べましたが、これは奇妙な言い方です。もし中国当局が本当に雇用問題を解決しているならば、自然と発言権と影響力が得られるはずではないでしょうか。何百万もの若者が就職できず頭を抱えているときに、雇用の分野における国際的な発言権を争うことに何の意味があるのでしょうか?仮に発言権を手に入れても、中国当局の言い分は本当に影響力を持つのでしょうか?

 実は、中国共産党は1949年に政権を掌握して以来、中国という土地を本当の意味で『統治』したことがありません。そのため、国家運営や経済発展のための経験が十分に蓄積されていないのです。現在の厳しい経済情勢に直面し、中国共産党の上層部は完全に手詰まりの状態で、発表される文書にも実質的な内容を盛り込むことができていません。しかし、それでも共産党トップがわざわざ雇用問題について言及したことは、雇用問題がすでに非常に深刻な水準に達し、共産党政権の安定さえも脅かしかねないことを示唆しています。

 数年にわたって続いている不動産危機により、中国の家庭の富が数十億ドルも蒸発し、消費者が慎重になるにつれてデフレ圧力も増加しています。

 中国の富裕層向けの雑誌などを発行している『胡潤百富(Hurun Report)』によると、中国の億万長者の数は3分の1に減少しています。億万長者の消失により、いくつかの産業が不況に陥り、多くの企業が倒産、そして多数の失業者が生まれました。

教育産業の規制緩和

 かつて中国の教育産業は、不動産やインターネット業界を上回る規模を誇り、雇用面でも国内第2位に位置していました。2021年には特に高い人気を集め、高度な人材が集う主要産業となっていました。経済誌『中国企業家』の統計によると、中国国内には約70万の課外教育機関が存在し、業界で働く従業員数は1,000万人以上に達します。別の統計資料によると、塾業界全体の雇用者数は3,000万人に上ると推計されています。

 しかし、中国当局の政策的な抑圧によって教育業界は壊滅的な影響を受け、数百万人の労働者が一夜にして職を失いました。また、「新東方」や「好未来」などの大手教育サービス企業の市場価値は数十億ドル蒸発しました。新東方の創業者である俞敏洪氏は2022年1月に「2021年、新東方は多くの変革に見舞われた。同年の企業価値は90%下落し、売上高は80%減少し、6万人の従業員が解雇された」と述べ、影響の大きさを語っています。

 経済が深刻な不況に直面する中で、中国当局は再び教育業界に目を向けているようです。ロイターの10月28日付の報道によると、経済を再び活性化させるため、中国当局は教育業界への制限を密かに緩和し、課外教育機関の活動再開を後押ししていると伝えられています。

破局を恐れる中国共産党

 中国国家統計局が今年8月20に発表した若年層の失業率は18.8%となり、今年の最高記録を更新しました。中国国務院は9月25日に「雇用に関する意見」24条を発表し、その中で「大規模な失業リスクの発生回避」を最低ラインとして示しました。このことは、現在の雇用状況が厳しいことを浮き彫りにしています。

 時事評論家の鄭旭光(てい・きょくこう)氏は「ラジオ・フリー・アジア」の報道で、中国当局が「大規模な失業リスクの発生回避」を最低ラインとしたことからもわかるように、「中国には大規模失業のリスクがある」と示唆していると指摘しています。

 インターネット上には「卒業時、同期で仕事の内定を得たのは一人だけで、他の人は学校から偽の契約書にサインするよう求められた」との投稿が見られるなど、文字通りの就職難であることがわかります。

「カラー革命」の懸念

 米国のメディア「ボイス・オブ・アメリカ」によれば、中国の人口学の権威である易富賢氏は、人口統計の観点から中国の若年層の高い失業率を分析しました。

 易氏は、中国の大学卒業生が主に従事するのはサービス業ですが、中国のサービス業は雇用市場の47%に過ぎないと述べています。また、中国の高等教育の総就学率はすでに60%を超えています。欧米や日本などの先進国でも総就学率はすでに60%を大きく超えていますが、サービス業の雇用市場における割合は70〜80%と高く、学生の就業を支えることができるのです。

 易氏は、最も重要なのは、人々の可処分所得がGDPに占める割合を増加させることだと強調しています。収入の増加は消費を拡大させ、その結果、製造業やサービス業の生産が拡大し、雇用が創出されるという直接的な効果が期待できるというのが彼の見解です。しかし易氏は、中国共産党は積極的に人々の可処分所得を増やす施策を取らないだろうと考えています。なぜなら、人々が豊かになれば、その分だけ政府がコントロールできる資産は減り、政府の権力は弱められるためだと指摘しています。

 「ボイス・オブ・アメリカ」のインタビューを受けた別の専門家は、若年層の失業率が高まると社会的・政治的な不安定要素になると警鐘を鳴らしました。タイミングや状況、さらに誘因が重なれば、広範囲な抗議運動や社会的な動乱が発生し、広範囲に波及するリスクがあるとしています。2010年の中東で勃発した「アラブの春」はその前例として挙げられています。

 中国共産党の機関紙『求是(きゅうぜ)』が11月1日に掲載した記事は、習近平が今年5月27日に行った演説の内容です。この演説が半年を経て今になって発表されたことから、習近平が中国国内で「カラー革命」が発生するのではないかと懸念していることが伺えるでしょう。

(翻訳・唐木 衛)