近年、中国の金融業界では大規模なリストラと給与引き下げが度々行われてきました。外国投資が冷え込み、実体経済の回復が見込めない中、金融危機を予感させる兆候がいくつも見られています。

リストラと給与引き下げ

 中国の経済系メディアは、国内の銀行が発表した上半期の業績報告を分析し、銀行業界に異変が起きていると報じました。9月初旬、中国の経済系メディア『中国基金報』や『北京商報』が伝えたところによると、上場する42の銀行で、半年間で4万人がリストラ対象となりました。内訳としては、6つの大手国有銀行で2万人以上、そして中堅規模の銀行で2万人ほどです。さらに、今年上半期の銀行業界の給与は昨年同時期と比べて、平均で5,321元(約11万円)減少しました。月額で887元(約1.9万円)となります。

報道で取り上げられた6つの大手国有銀行は、いずれも中国全土にわたる広範な業務網を持ち、融資規模も中国銀行業の6割から7割を占める巨大な存在です。その中でも中国工商銀行は世界最大規模の資産保有額を誇ります。しかし現状を見ると、中国の大手国有銀行は中堅や中小規模の銀行と同様、経営状況が厳しいのです。

 中国金融業界のもう一つの危険信号は、多くの幹部層が退職していることです。過去一カ月の間、中国の上場企業では代表取締役を含む役員1,100人以上が退職しました。そのうち、およそ半数の企業は金融業でした。

 中国では政府機関が銀行の株式を保有し、頭取などの重要なポストに対する任命権を持っています。そのため、銀行の役員が退職する場合には、あらかじめ所轄官庁に辞表を提出し、許可を得なければなりません。しかし、実際に退職が認められるケースは一部に限られ、退職を望んでいてもまだ許可が下りない幹部が多数いると報じられています。中国当局は、銀行幹部の大量退職が社会不安を招き、金融危機の引き金になりかねないと懸念しているようです。

 情報筋によれば、銀行幹部らは、中国の銀行は今後経営破綻する恐れがあり、幹部としての法的責任を追求されるのを恐れているとのことです。そのため、自身が所属する銀行が破産する前に職を離れようとしているのです。

 かつては「最も安定した職業」と考えられてきた銀行業界ですが、今では幹部層が立て続けに退職し、銀行員の給与削減やリストラが相次いでいます。これらの出来事はいずれも、中国の銀行業界がすでに危機的な状況に陥っていることを象徴しています。

国有金融機関の実態

 中国の銀行業界には二つの特徴があります。一つはごく少数の大手国有銀行が銀行業界の資産の大半を占めていること、そして、すべての銀行が政府の主導で成り立っていることです。政府が金融業を支配するという社会主義体制の特徴が、銀行業界の行く末に暗い影を落としています。

 1949年に中国共産党政権が成立すると、当局は全ての民間銀行を国有化しました。そして1980年代半ばまで、中国には中国工商銀行、中国銀行、中国農業銀行、中国建設銀行という4大国有銀行しかありませんでした。1980年代後半になると、半官半民の株式制銀行がいくつか登場しましたが、これらも純粋な民間資本によるものではなく、政府主導で設立と資金調達が行われました。

 その後、各地の地方政府は多くの地方銀行を設立しました。これらの地方銀行は大きく二つのタイプに分けられ、それぞれ都市商業銀行と農村商業銀行です。農村商業銀行の数は数千行にも上りますが、ほとんどが小規模で、地域に密着した運営形態です。

 現在、中国の銀行業界で主要な地位を占めているのは、6つの大手国有銀行、12の株式制銀行、そして125の都市商業銀行です。このうち、6つの国有銀行だけで銀行業全体の資産の6割から7割を占めており、名実ともに中国経済の重要な支えとなっています。

 これらの大手国有銀行や株式制銀行、都市商業銀行はいずれも上場企業ですが、本当の意味での独立した商業銀行ではありません。上場によって民間資本を取り入れ、政府以外の民間株主が参加するようになったものの、依然として政府または国有金融機関が主要な大株主であり、事実上政府の影響下にあります。

 中国政府は、これらの銀行を通じて国営企業に資金援助しています。例えば、銀行は政府の指示に基づいて国営企業に多額の融資をし、国営企業が発行する債券を大量に買い取る業務を行います。

 国家という後ろ盾がある分、国営企業は私企業よりも採算性が低く、往々にして経営に問題を抱えています。中国の銀行は国営企業の不良負債を抱え込むことになるため、資金の流動性が圧迫され続けています。このような状況下では、銀行が正常に経営できる方がむしろ奇跡と言えるでしょう。

習近平の「悪い手札」

最近、中国では「習近平は良い手札を無駄にしてしまった」と批判する声が上がっています。しかし実際には、習近平が持っていたのは、もともと「悪い手札」だったのです。

 中国の銀行は長年、国営企業に資金を供給し続けてきましたが、これらの企業は債務の額をほとんど気にかけていません。古い債務を返済するために新しい債務を作り、政府が保証する債券が満期になれば、再び新しい債券を発行し、政府の実質的な支配下にある銀行にそれを買い支えてもらう構図です。こうして債務は膨らみ続け、預金者の金融資産は銀行を通じて政府のもとに集まり、使い果たされています。

 規模の大きい銀行ほど、より多くの不良債権を抱えています。中国の銀行は山積する不良債権を消化することができず、不良債権のバブルが崩壊しないよう預金者の金融資産を消費するしかありません。外国の研究者の多くは、中国の国家債務を先進国の政府債務と比較していますが、その際に中国特有の問題を見落としがちです。すなわち、巨額の政府債務は既に中国の銀行システムに移転されており、潜在的な金融危機を招いているという点です。

 そのため、習近平が持っている「手札」は元から「悪い手札」だったのです。これは誰が共産党のトップに立ったとしても結果は同じです。

 社会主義体制のもと、政府は銀行預金を吸い上げ、飲み込んでいます。このやり方ではいずれ銀行預金が枯渇し、共産党政権を支える最後の柱である銀行システムを崩壊させることになるでしょう。

(翻訳・唐木 衛)