中国の湖南省ではこのほど、大手病院の違法な臓器移植ビジネスを内部告発しようとした大学院生が不審な転落死を遂げ、世論を騒がせています。この大手病院をめぐっては数々の医療詐欺事件が発生しており、政府当局も絡んだ組織犯罪が行われているのではないかとの疑惑が浮上しています。
転落死したのは、中南大学湘雅第二医院(ちゅうなんだいがく・しょうがだいにいいん)の腎臓移植科に所属していた大学院生の羅帥宇(ら・すいう)さんです。中国のインターネット上には、羅帥宇さんの両親と思われる老夫婦が湘雅第二医院を実名で告発する動画が拡散されています。老夫婦は動画内で、湘雅第二医院では組織的な臓器売買が行われており、息子の羅帥宇さんは内部告発を行った後、宿舎の建物から転落死したと訴えています。
病院の組織犯罪
羅さんの遺族によると、羅さんが生前使用していたパソコンを確認したところ、削除されたデータの中から大量の内部告発記録が発見されたとのことです。その内容は、中南大学湘雅第二医院の救急診療科副主任だった劉翔峰(りゅうしょうほう)が違法に臓器を摘出し、販売していたことに関する告発資料でした。さらに、違法行為を記録した録音データや文字資料も含まれていました。
通信アプリ「WeChat(ウィーチャット)」の通信記録からは、病院側が100人近い学生の銀行口座を不正に利用して、臓器売買で得た資金を洗浄していたことも明らかになりました。その額はおよそ4000万人民元(約8.6億円)に上ります。
羅さんが残した録音からは、劉翔峰を含む複数の医師らが「外部関係者」と利益関係を持ち、大学院生に臓器摘出を指示していたことが明らかになっています。一つの事件では、劉翔峰が患者の同意を得ないまま小腸を切り取り、移植手術に使用していました。
病院内部のグループチャットと思われる通信記録からは、内部告発は今回が初めてではないこともわかりました。ある関係者は「私たちは病院内部で何回も告発をしてきた。今回も私たちが集団で告発した」と書き込みました。また、「今回の告発に参加した羅帥宇さんが原因不明の転落死を遂げた」との書き込みもありました。
同病院の臓器移植科が救急診療科のことを「死体安置所」と呼んでいたことも、羅さんの録音データから明らかになりました。救急診療科には多い時で10人以上の患者が救急治療を待っていましたが、当直の医師は1人だけで、全く対応することができない状態でした。また、救急診療科に運ばれる患者の多くは同伴する家族がいませんでした。そのため、羅さんは、運ばれてきた救急患者の一部は本当の患者ではなく、「外部関係者」が運んできた臓器移植用のドナーではないかと考えていました。羅帥宇さんはまた、同病院の医師らが、「臓器のドナーを指定された場所に輸送」する約束を「外部関係者」と交わしていたことを把握していました。
白衣を着た犯罪者
告発のターゲットとなった中南大学湘雅第二医院の救急診療科副主任だった劉翔峰は、2022年にも複数の患者から告発されていました。劉翔峰の違法行為は病院内部でも知れ渡っており、取材に応じた元医師は「インターネット上で騒がれていることは病院内では周知の事実だ」と話しました。しかし、劉翔峰には強力な後ろ盾があるため、正義感のある医師や看護師は忸怩(じくじ)たる思いでした。
現地メディアの報道によると、劉翔峰は臓器売買だけではなく、様々な犯罪行為に手を染めてきました。
ある時、救急診療室に妊婦が運ばれてきましたが、正常な分娩ができる状態でした。しかし、劉翔峰は妊婦の体に血液を塗りつけ、妊婦の家族に対し「彼女は今大出血している。特別な治療が必要だ」と言いました。慌てた家族は多額の金銭を支払い、治療を要請しました。出産を無事終えると、家族は劉翔峰が治療を行ったおかげだと信じ込み、さらに多額の謝礼を渡したとのことです。
また、劉翔峰はある88歳の女性患者の治療を行う際に、わざと女性の体内に結石を埋め込みました。退院後、女性が再び体調不良を感じ、治療にやってきたところ、劉翔峰は「絶望的な病状だ」と診断し、高額な治療費を要求しました。患者の家族は詐欺だと分からず、言われるがままに多額の金銭を払い込みました。「手術」を終えた後、女性の家族は劉翔峰に感謝していたとのことです。
時事問題を扱う中国人YouTuberのなかには、複数の医療関係者による組織的な関与を示唆する声もあります。臓器移植といった大掛かりな手術では、往々にして複数の医師や看護師が同席します。そのため、劉翔峰が行った犯罪行為を他のスタッフが気づいていた可能性があります。さらに、偽の診療や違法な手術から得た金銭対価は全て病院の口座に振り込まれるため、そのような資金を調査することなく収益として計上していた病院側にも問題があるのではないかと述べています。
中国の報道によると、2022年8月、劉翔峰は湖南省の監察委員会の調査対象となり、2023年10月には長沙市中級法院で懲役20年および罰金920万元(約2億円)の判決が下されました。
しかし、不審な点はまだあります。一連の捜査を行なったのは警察や検察ではなく、政府高官の汚職を取り締まる監察委員会でした。劉翔峰容疑者は政府高官ではなく、病院に勤務する医者に過ぎません。なぜ、捜査のときだけ幹部待遇なのでしょうか。
また、内部告発した大学院生の羅帥宇さんが謎の死を遂げたのは、主犯格の劉翔峰容疑者が逮捕された後でした。このことについては、「劉翔峰の背後にはさらに強力な組織があり、羅さんはその組織を敵に回したため口封じされたのではないか」との憶測が広がっています。
羅さんの両親による実名告発がSNSで広がると、中国のネットユーザーからは「内部告発者が口封じされた」「臓器売買が微信(WeChat)を通して行われているではないか。監視チームは見て見ぬ振りだ」など、批判や疑問の声が相次いでいます。また「中国共産党当局が臓器狩りに関与しているのはもはや周知の事実ではないか」「病院が処刑場になったみたいだ」など、中国で行われている臓器狩り問題に言及するコメントも見られました。
(翻訳・唐木 衛)