中国では新型コロナウイルスのパンデミック以降、多くの失業者がライドシェア業界に参入し、生計を維持してきました。しかし、最新の報道によると、競争の激化により収入が伸び悩み、長時間労働に悩まされる運転手が増えているとのことです。今回は海外メディアの報道を通して、その実態に迫ります。

経歴は十人十色

 中国のライドシェアタクシーを運転する人々は、実に様々なバックグラウンドを持っています。

 江西省で働く36歳の運転手は以前、上海でディーゼル燃料の貿易に携わっていました。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックで仕事が立ち行かなくなったため、事業を畳んで地元に戻り、配車アプリの運転手に転身しました。取材を受けたとき、彼は既にこの仕事を1年以上続けていました。

 同じく江西省で働く50代の運転手は、かつて不動産管理会社に勤めていましたが、会社が倒産し職を失いました。当時、彼は既に11年間働いていたものの、月給はわずか2000元ほどだったといいます。ネット配車サービスを始めてから、収入は以前よりだいぶ増えたと話しました。

 福建省在住の運転手である阮(げん)さんは、以前は警備会社のマネジャーをしていました。警備会社を退職してタクシー運転手として働き、今では毎月6000元(約13万円)から7000元(約15万円)ほどの収入を得ているとのことです。阮さんは前職を振り返って「やはり警備の方が良かった」と思うものの、もう戻れないと話しています。

 中には、副業としてライドシェアを活用する運転手もいます。江西省の呂さんは普段、内装業を生業にしていますが、最近は不動産業の不況により注文が減少しました。そのため、午後4時ごろから数時間だけライドシェアタクシーを運転し、夜8時から9時には仕事を終えます。こうして1日でおおよそ100元(約2100円)ほど稼げるとのことです。

過酷なルーティン

 配車アプリのドライバーたちは、往々にして独自の生活スタイルを持っています。一方、共通する点は毎日の長時間労働です。

 河北省の運転手・謝さんは、毎朝7時から8時に家を出て、深夜1時から2時に帰宅する生活を送っています。彼の1日の労働時間は17時間に及びます。

 中国のネット掲示板に投稿されたある「ベテラン運転手」のアドバイスでは、朝7時には必ず業務を始め、昼食は15分以内で済ませ、夕食も車内で取るよう勧めています。また、夜の9時から11時は客単価が高く、書き入れ時とのことです。そして夜の1時に自宅付近の充電ステーションで充電します。このアドバイス通りに働いた場合、1日の勤務時間は18時間に上ります。

 長時間勤務の疲労に対処する方法はあるのでしょうか。河北省の謝さんは、「どうしても眠いときは駐車して車内で仮眠を取るが、それでも眠いならいったん家に帰る」と話しました。毎月の収入は、各種経費を差し引いて5000元から6000元(約11万円から13万円)ほどです。現地の平均給与は3000元から4000元(約6万円から8万円)なので、平均以上の収入を得られています。しかし、最近は顧客数が減り、以前ほど稼げなくなっているといいます。

 また、謝さんが参加する地元の運転手たちのチャットグループでは、過去2カ月で2人の運転手が急死したことが話題になりました。急死した運転手はいずれも40代から50代であり、35歳の謝さんは「自分はまだ大丈夫だ」と話しました。

 一方、江西省の若い運転手は、毎日朝8時から仕事を始め、昼食と休憩で2時間ほど自宅に戻り、その後、夜11時か12時まで運転するといいます。1日の労働時間は約13時間から14時間で、特に用事がない限り週7日働いています。この運転手は先週も7連勤したと言いました。

 地方都市のドライバーは大都市のドライバーと異なり、昼食を自宅でとれる環境にいます。都市が小さい分、移動距離が短く、帰宅が容易なためです。また、「外食はお金がかかる。家で食べれば節約になる」と話す運転手もいます。

 福建省の若い運転手・呉さんは特別な勤務形態を取っています。彼は毎日正午12時ごろに出発し、翌朝3時から4時まで働きます。深夜0時以降も乗客がいるのかと尋ねたところ、呉さんは、「深夜のほうが客単価が高く、渋滞もないためスムーズに走ることができる」と答えました。さらに、深夜に稼働する運転手が少ないため競合が少ないのも魅力だと話しました。彼は夜勤が好きで、月収は1万元(約22万円)を超えるとのことです。

社会保険未加入の問題

 ライドシェアを生業とするドライバーの多くは、社会保険に加入していません。河北省の30代のドライバー・張さんは取材に対し、「これまでも社会保険に加入したことがないし、今後も加入するつもりはない」と話しました。そのため、中国当局が最近導入した「定年延長政策」にも影響されることはないとのことです。

 社会保険未加入の問題について、取材に応じたドライバーはいずれもネット配車アプリの運営企業を批判しませんでした。通常、ネット配車アプリを運営する企業とドライバーの間には労務関係や雇用関係はありません。そのため、プラットフォームは通常、ドライバーの社会保険加入申請を拒否しています。また、運転手の多くはフリーランスとして働いており、社会保険に加入する意思が強くない人が多いと言われています。さらに、金銭的な問題から、社会保険を長期にわたって支払うことができない人も一部います。

激化する競争

 ライドシェア業界は参入障壁が比較的低く、契約ドライバーの数はここ数年で急激に増えています。一方、ドライバー同士の競争は激しさを増し、収入が伸び悩む人も増えています。

 河北省に住む中年のドライバーは取材に対し、「同僚と交代で毎日12時間のシフトで働いている」と話しました。タクシー会社に毎日100元(約2200円)の納付金を支払わなければならないため、1週間毎日休まずに働かざるを得ない状況だといいます。彼の1週間の労働時間は84時間にも及びますが、去年と比べてお金を稼ぐのはますます難しくなっているようです。取材当日は250元(約5500円)しか稼げず、そこから100元の納付金を差し引くと、手取りはわずか150元(約3300円)になります。さらに、手取り額から自動車の充電費も差し引くため、実際に手元に残るお金はわずかです。彼は「朝8時から深夜1時まで働くドライバーもいるが、私は体力的に無理だ」と話しています。

 江西省の小さな地方都市でライドシェアタクシーを運転する男性は、毎朝、朝食を食べ終えると仕事を始めます。帰宅するのは夜の11時頃で、毎日13時間から14時間は働いています。男性は取材に対し、毎日稼働しないと収入が減るため、週7日間働くのが常態化していると話しました。単純計算した場合、彼の週労働時間は少なくとも90時間に上ります。

 江西省で長年タクシーを運転してきたベテランドライバーは取材に対し、ネット配車アプリによってライドシェアが普及し、タクシー業界に一定の影響を与えていると話しました。最近ではタクシー業界の業績が低迷していますが、その主な原因は他でもないライドシェアであるとのことです。

(翻訳・唐木 衛)