中国当局によるダンピング行為が問題視されるなか、欧州委員会は10月4日、中国製電気自動車(EV)に最大45%の関税を課すことを決定しました。中国当局は追加関税を廃案に追い込むため、欧州諸国に強い圧力をかけてきましたが、EUは域内の製造業を守るために強硬な姿勢を示しました。
10月4日の投票では、イタリアやポーランドをはじめとする10カ国が賛成票を投じました。一方、12カ国が棄権し、5カ国が反対票を投じています。反対票を投じた国の中にはドイツも含まれています。
欧州委員会は、過去1年にわたってアンチダンピング関連の調査を行い、その結果、今後5年間にわたり最大45%の関税を課すことを提案しました。
先月、欧州委員会は、中国のEVメーカーから最低輸入価格の提案を受けていたことを明かしました。中国側は、最低価格を設定することで関税を回避しようとしましたが、EU側はすべて拒否しました。「ロイター通信」によると、中国が提示した最低輸入価格は3万ユーロ(約490万円)でした。
中国当局も追加関税の導入を阻止しようと、EU加盟国に対して圧力をかけましたが、結果を覆すことはできませんでした。
中国当局の圧力
今年9月、スペインのペドロ・サンチェス(Pedro Sánchez)首相は中国を訪問した際に圧力を受け、譲歩を余儀なくされました。サンチェス氏は中国到着後、中国側がスペインに対する一連の投資計画を取り消す意向があることを知らされました。習近平との数時間にわたる会談の末、サンチェス氏は譲歩し、中国製EVに追加関税を導入する議案について欧州委員会に再考を求めました。
数日後、中国の王文涛商務部長がイタリアを訪問し、イタリア政府に譲歩を迫り、ドイツやスペインのように追加関税に賛同しないよう促しました。しかし、イタリア政府はこれを拒否し、アントニオ・タヤーニ(Antonio Tajani)外相は「われわれは欧州委員会が提案する関税案を支持し、自国企業の競争力を守る」と強調しました。
一方、EU加盟国の中で中国当局の立場を擁護しているのはドイツ政府です。BMWやメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンなどの自動車メーカーはいずれも中国国内に大規模な工場を有しており、報復関税を恐れています。
ドイツのショルツ首相はまず、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長に対して再任支持を取り消すと圧力をかけましたが、効果がなかったため、今度は他のEU加盟国に対して圧力をかけ始めました。
米国の政治経済アナリスト、マイケル・バロン(Michael Barone)氏は米紙「エポックタイムズ」に対し、EUは自国のEV産業を外国の競合から守ろうとしていると指摘しました。現在、ヨーロッパではEVの供給が需要を上回っている一方で、ガソリン車の需要は高まり、納車までの待ち時間が6ヶ月から8ヶ月にもなっています。
EUは2035年までに完全にEVにシフトするという高い目標を掲げています。ルノーやステランティス、BMW、フォルクスワーゲンなどの自動車メーカーは、新モデルを発売し、欧州の消費者の関心を集めようとしています。
ハーバード大学教授で、国際通貨基金(IMF)元チーフエコノミストのケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)氏は「エポックタイムズ」に対し、ヨーロッパとアメリカは地球温暖化に対処するために数兆ドルを費やす意向を持っているものの、消費者が低価格の中国製EVを購入することを快く思っていないと述べました。背景には国家安全保障の考慮に加え、自国の雇用を守りたいという動機があると分析しました。
太陽光パネルの教訓
中国製EVに対するEUの強硬姿勢は、過去の軟弱な対応を反映しています。約10年前、中国製の太陽光パネルが欧州市場を席巻した際、各国は弱腰な対応しかできませんでした。
元ベルギー外相で、通商担当の欧州委員を務めたカレル・デフフト(Karel De Gucht)氏は政治誌「ポリティコ」に対し、中国製太陽光パネルが欧州市場に進出した際の舞台裏を明かしました。デフフト氏は2012年から2013年にかけて、中国のダンピング行為に対抗して、中国製の太陽光パネルにアンチダンピング税を課そうとしました。しかし、中国当局はEU加盟国を分断し、各個撃破していました。デフフト氏によれば、多くのEU加盟国は北京からの圧力を感じて、報復を恐れて屈しました。当時、18ものEU加盟国が対中関税の賦課を求めないようデフフト氏に圧力をかけました。
ドイツメディア「ドイチェ・ヴェレ」によると、中国の太陽光産業が欧州市場に参入した後、過剰な生産能力と低価格により欧州の太陽光関連産業は深刻なダメージを受けました。2011年からわずか数年で多くの企業が倒産し、かつて世界最大の太陽光パネルメーカーであった「Qセルズ」も2012年4月に破産を申請しました。
今年3月、欧州の太陽光パネル製造業者は、中国が世界のサプライチェーンをほぼ支配している現状に対し、警鐘を鳴らしました。中国製の安価な太陽光パネルがEU市場にあふれ、現地産業は競争できない状態に追い込まれています。これにより、業界内でおよそ4000人の技術者が解雇される見込みです。
欧州、妥協せず
中国から廉価なEVが流入する中、欧州諸国はこれ以上、座視するつもりはないようです。
米国のシンクタンク「米国ジャーマン・マーシャル財団」の上級訪問研究員であるノア・バーキン(Noah Barkin)氏は、ドイツが中国製EVを巡ってEUに圧力をかけたことについて、欧州の政府関係者の間では「失望」や「残念」との声が出ていると述べました。
バーキン氏によると、ドイツの行動は欧州全体の影響力を弱めるものであり、ドイツの自動車メーカーが中国市場で一時的な猶予を得るための行動だと指摘しました。
バーキン氏は、欧州委員会の追加関税案に対するドイツ政府の思惑は「失敗を免れない」と予測し、追加関税が可決されれば、EUの対中政策におけるドイツの影響力が大幅に低下することを示唆しました。今回の追加関税は、EUが中国当局の強い圧力に屈しない姿勢を示すものであると強調しました。
中国勢の進出に対し、欧州のメーカーも新商品で巻き返しを図っており、フランスのルノーやフォルクスワーゲンは相次いで廉価モデルを発表し、数年以内に市場投入を予定しています。
読売新聞によると、欧州の自動車業界では、ガソリン車の過度な規制が産業の衰退を招くとして、全面EV化への懸念も示されています。
(翻訳・唐木 衛)