中国企業であるHikvision(ハイクビジョン)の従業員からの情報によれば、最近、同社では大規模な組織再編が進行中で、32の研究開発拠点が12に縮小され、影響を受ける従業員は1000人以上にのぼる見込みだとされています。

 ラジオ・フリー・アジアの報道によると、軍の背景を持つ中国の監視機器大手企業、ハイクビジョンは最近、中国のインターネット上で話題となっています。10月11日には、「ハイクビジョンの大規模なリストラ」というトピックがソーシャルメディアで熱い議論を引き起こしました。一部の従業員は、同社が大規模な組織再編を行っており、32の研究開発拠点が12に縮小され、1000人以上が影響を受けることが予想されると明らかにしました。大規模な人員削減に関する憶測を引き起こしています。

 ハイクビジョンの運営に詳しい業界関係者である高坤(こうこん)氏は、10月14日にラジオ・フリー・アジアとのインタビューで、ハイクビジョンの製品は主に中国政府の各部門に供給されていると述べました。「ハイクビジョンの利益の大部分は、政府調達に依存している。例えば、中国国内でよく見かける1本の電柱に十数個の監視カメラが取り付けられている。これはほとんどが政府の各部門によって調達されたものである。政府の調達量が減少すれば、製品は市場に移行する必要がある。しかし、国内市場での販売も、世界市場での販売もほとんど同じで、売上はあまり大きくない。ハイクビジョンにとって、最も重要な市場は間違いなく中国政府である」

ハイクビジョン「人員配置の調整で、大規模なリストラではない」

 リストラのうわさに対して、ハイクビジョンは同日夜に緊急声明を発表し、大規模なリストラを否定しました。ハイクビジョンは今回の調整は、特に本社と主要販売都市における研究開発チームの構成を最適化するためのものであり、いくつかの地域的な人員配置は、業務効率と市場競争力を向上させるための措置であるとしています。同社は引き続き、いくつかの中核地域の研究開発チームを維持し、戦略的優位性のない地域は縮小する予定です。

 金融評論家の鄭旭光(ていきょくこう)氏は、ハイクビジョンが研究開発部門を縮小し、研究開発力をいわゆる最適化するのは、事業量が減少していることを示唆していると述べました。「国内市場はハイクビジョンにとって最も重要な市場の1つであるはずだ。地方政府は給与を支払う余裕すらない状況であるから、監視カメラを新たに購入する余裕などあるわけがない。また維持費も問題となっている。以前は安価な製品を求めていた欧米諸国も、今やハイクビジョンの製品を国の安全保障の問題として捉えており、重要な規制対象になっている」

ハイクビジョンの株価への影響と業績の動向

 リストラのニュースに影響され、ハイクビジョンの株価は当日大幅に下落し、1株あたり29.63元で取引を終え、終値(おわりね)は5.55%の下落を記録しました。時価総額は2735.8億元(約57.6兆円)にまで蒸発しました。この下落は、同社の最近の業績とも関連しています。今年上半期の財務報告によると、ハイクビジョンの売上高は412億900万元(約8.67兆円)を達成し、前年同期比で9.68%の増加を記録しましたが、純利益は5.13%減少し、50億6400万元(約1.06兆円)にとどまりました。特に、地方政府への依存が高い事業で業績が下落し、公共サービス部門からの収入は9.25%減少しました。

 シニア・コメンテーターの馬聚(マジュ)氏は、「もちろん、ハイクビジョンの市場は大きな影響を受けている。特に欧米諸国からの一連の制裁や禁止令が最大の要因である。第三世界諸国や中国当局からの需要、または、中国の経済問題も、国内市場の需要や設備更新の動きを徐々に縮小させる引き金となっている」と述べました。

 業界関係者である高坤氏によると、以前の経済繁栄期には、中国当局の各部門が次々とハイクビジョンの監視カメラを導入し、顔認識や罰金徴収に使用していました。ハイクビジョンはそれらの罰金からも何パーセントかの利益を取っており、そのような時代は今や過ぎ去ったとされています。「過去には、政府の各部門が監視カメラを設置する権限を持っていた。例えば、道路の交通監視カメラは罰金徴収のために使用され、それが利益を生み、ハイクビジョンはこれによって利益を得ていた。また、市政府や城管(都市管理総合行政執法局およびその職員の俗称)も一部の監視カメラを設置し、露店商売を行っている人を見つけ、罰金を科すことができた。公安部門や安全保障部門も監視カメラを設置することができ、その罰金はハイクビジョンと分け合っていた。これがハイクビジョンのビジネスモデルである」

ハイクビジョンの背景

 ハイクビジョンは、世界をリードするセキュリティ企業として、中国当局が国民全体を監視する「天網(てんもう)」プロジェクトなどの政府プロジェクトで重要な役割を果たしてきました。

 「天網」はAIを用いた監視カメラを中心とするコンピューターネットワークで、数秒間で20億人を識別し、対象となる人物を特定できるシステムです。

 ハイクビジョンは、中国当局による新疆ウイグル人への迫害に関与し、ウイグル語解析や顔認識ツールの提供を担っています。

 イギリスの日曜紙「メール・オン・サンデー」の報道によると、2021年、当時の英国下院外交委員会のトム・トゥゲンハート委員長(保守党)は、「新疆ウイグル自治区の収容所にハイクビジョンの監視カメラが設置されているという確実な証拠がある」と述べました。

ハイクビジョンへの制裁

 2019年5月、米政府はハイクビジョンを米国技術の購入を制限する団体リストに載せることを検討しました。同年8月7日には、米総務省、国防総省、米航空宇宙局(NASA)が米総務省のウェブサイトで、2019年8月13日から、「公共の安全」と「国家の安全保障」の懸念を理由に、米連邦政府機関はハイクビジョンが提供するビデオ監視機器を購入または使用することを禁止すると発表しました。

 2019年10月8日、米商務省は、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の人権問題を理由に、ハイクビジョンを含む8社の中国企業を米輸出管理規制対象企業リストに追加することを決定しました。

 2021年3月には、米連邦通信委員会は、ハイクビジョンを含む5社の中国企業を、米国家安全保障に対する脅威を与える企業として指定しました。

 近年、中国当局のインフラ整備への投資が徐々に減少し、特に地方政府の財政問題が深刻化する中、治安・防犯に対する全体的な需要が急速に減少しています。中国当局と国有企業の資金不足が、ハイクビジョンの大規模なリストラを進める根本的な理由です。また、すでに多くの監視機器が設置されており、新規プロジェクトが少なくなっていることに加え、不動産市場の低迷も相まって、ハイクビジョンの政府向け売上の縮小につながっています。

(翻訳・藍彧)