習近平は9月22日、第7回「中国農民豊収節(豊作の日)」で、中国の農民に向けたスピーチを行いました。その中では、例年通り「農業の効率向上、農民の所得増加、農村の活力増進のためにあらゆる手段を講じる」と強調し、「農民が利益を実感できるようにするべきだ」と述べました。
「中国農民豊収節」は2018年、習近平がトップを務める中央政治局常務委員会で定められた祭日であり、日にちは毎年の秋分の日と定められています。「数億人の農民の自主性と創造性を引き出し、その名誉感と幸福感を高める」「農村改革の実績を知らしめる」といった中国当局特有の宣伝文句で飾り立てられていますが、民間の反応は決して良くありません。
そのためか、習近平は毎年の農民収穫祭でスピーチを行い、農民の願いを叶えたいと約束します。しかし、聞こえの良い言葉を繰り返しても、政策による裏付けがなければ絵に描いた餅です。今日(こんにち)の中国では、農村部は完全に疲弊しており、大規模な自然災害がさらに追い討ちをかけています。
政府、農民工の収入を水増しか
中国の農民には主に二つの収入源があります。一つは農地を耕すことで、もう一つは出稼ぎです。しかし、生産効率が著しく低く、農業に関する各種コストが高騰する中、農業に従事してもほとんど利益を得られないのが現状です。
中国の農業産業データサービスプラットフォームが発表したデータによると、2011年から2022年にかけて、中国における稲作の平均コストは毎年上昇していました。その一方で、同期間の稲作の純利益は急速に減少し、2022年にはついに赤字に転落しました。つまり、農民は稲作をしても利益を得ることができず、逆に損失を被る状況です。
農業を営んでも生計を維持することができないため、多くの農村家庭は出稼ぎで食い扶持(くいぶち)をつないでいます。では、出稼ぎ農民工の収入は増えたのでしょうか。今年1月17日、中国国家統計局の責任者は「2023年度国民経済・社会発展計画の執行状況」発表会でスピーチを行いました。2023年に出稼ぎ労働を行った農民工の総数は2億9753万人に達し、前年より191万人増加して、成長率は0.6%でした。そのうち、地元付近の都市部で働く出稼ぎ農民工は1億2095万人で、2.2%減少しました。一方、地元から遠く離れた都市などで働く出稼ぎ農民工は1億7658万人で、2.7%増加しました。出稼ぎ農民工の平均月収は4780元(約10.1万円)で、前年より3.6%増加しました。
しかし、「出稼ぎ農民工の平均月収は4780元」という発表データに対して、中国のネットユーザーらは「さすがに水増ししているのではないか」と相次いで疑問を呈しました。実際の収入は4分の1ではないかと主張する声や、月収は3千元(約6万3千円)にすら達しないという声もあり、中には年単位で給料の未払いが発生していることを告発する投稿も見られました。投稿の中には、統計局に怒りの矛先を向けるものも散見されました。
中国のネットユーザーらの反応から察するに、中国国家統計局は共産党上層部のメンツを保つためにデータを改ざんした可能性も否定できないでしょう。しかし、一般市民の疑問や怒りの声は共産党上層部に届かないため、いつも無視されています。
農村部は貧困の巣窟
中国国家発展改革委員会の下部機関が2023年12月に「中国収入分配年次報告2021」を公表しました。この報告書は、中国国内の所得格差と経済状況に関する詳細な分析を提供しています。
中国当局が発表したこの報告書について、時事評論家の蔡慎坤氏はXプラットフォームで、中国で月収2000元(約4万円)以下の人口は9.64億人に達し、月収1090元(約2万3000円)以下の人口は6億人で、全人口の42.85%を占めると指摘しました。
このデータは、故・李克強首相が2020年5月に言及した「中国の6億人の月収が約1000元(約2万円)」という発言と一致しています。特に注目すべきは、月収2000元以下の人口がすでに9.64億人を超えているという事実です。
具体的には、月収1090元以下の6億人のうち、農村出身者の割合が75.6%にも上り、これは低収入層の大部分が農村地域に分布していることを示しています。都市と農村の格差は依然として中国で最大の問題の1つです。この6億人は、中国の中部と西部にそれぞれ36.2%と34.8%分布しており、中西部地域が中国の低収入層の主要な発生源であることを示しています。
蔡慎坤氏は、上述のデータが中国の最も現実的な国情であり、中国の所得分配構造が依然として中低所得層を中心に構成されている事実を決して見過ごしてはならないと強調しました。大半の中国人は生きることに必死であり、彼らはこの繁栄する時代から取り残された現代中国におけるサイレント・マジョリティーとなっています。
農家はつらいよ
しかし、習近平が毎年欠かさずに送る言葉の端々からも、中国の農家の生活がどれほど厳しいものであるかを垣間見ることができます。
今年の挨拶の中で、習近平は「我々は深刻な自然災害がもたらした悪影響を克服した」と述べました。
2023年には、習近平は「黄河、淮河(わいが)流域での珍しい『爛場雨(らんじょうあめ、長引く雨)』を克服したほか、華北・東北地域の局地的な洪水、西北地域の局地的な干ばつなどの災害に打ち勝った」と言及しました。
2022年には、習近平は「昨年の中国北部の珍しい秋の大雨やそれに伴う冬小麦の種まきの大規模な遅れ、新型コロナウイルス感染症の局地的な流行、中国南部での深刻な高温・干ばつに対処した」と述べました。
2021年には、「新型コロナウイルス感染症や洪水などの自然災害を克服した」と述べました。
2020年には、「突如として発生した新型コロナウイルス感染症、長江流域での深刻な洪水災害、東北地域の夏の干ばつ、連続する台風の襲来が農業生産に挑戦をもたらした」と言及しました。
この5年間で、中国の農民が直面した災害は数え切れないほど多いのです。疫病、洪水、深刻な干ばつ、台風の襲来、豪雨など、農民の生活がいかに過酷であったかは想像に難くありません。しかし、習近平は、実際にどの地域でどの程度の農地や家屋が水害に遭ったのか、どれだけの人々が災害で命を落としたのかを気にしているのでしょうか。中国当局は被災した自国民を見捨てる代わりに、アフリカ諸国への援助を行っています。
中国の高官が被災地を視察することも稀です。そのため、中国の高官らは農民の生死には無関心であると言わざるを得ません。農民の生死を気にしないトップがいる限り、農民たちも毎年形ばかりの援助に対して関心を持つはずがありません。
2000年8月24日、中国の雑誌『南方週末』は、湖北省監利県のある共産党幹部が中国国務院のトップに宛てた手紙を掲載しました。この手紙は冒頭から問題の核心に迫るもので、わずか1500字余りで当時の農村が抱える問題の本質を克明に描き出しています。それはすなわち「農民は本当につらい。農村は本当に貧しい」ということでした。
四半世紀が経とうとするなか、「農民は本当につらい。農村は本当に貧しい」という現実は未だ変わっていません。中国の農民は未だに農村戸籍によって様々な不利益を強いられており、彼らが享受できる社会保障は微々たるものです。中国当局は内戦のとき、農民に幸せな未来を約束しましたが、数十年後の今、その境遇は改善されないどころか、未曾有の苦境に陥っています。中国当局の支配が続く限り、良い生活を送ることはできないと、中国の農民たちはようやく気づきつつあります。
(翻訳・唐木 衛)