蘭州大学はこのほど、2024年に在校大学院生(修士・博士課程の学生)の数が初めて在校学部生の数を上回ったと発表しました。「澎湃新聞」の報道で分かりました。

 同様に、浙江工業大学のデータによると、今年の新入生は大学院生が5382人、学部生が5342人で、大学院生の新入生が初めて学部生を上回りました。この傾向は、2021年から中国の大学で次々に見られるようになっています。

 北京にある清華大学の2023年12月のデータによると、同学年度の大学院生数は12069人で、これは学部生の新入生の3.2倍となっています。また、上海にある復旦大学の2023年10月のデータでは、大学院生の数が36690人で、学部生の人数の2.4倍に達しています。

縮小する就職市場、大学院進学に拍車

 アモイで博士号取得を目指す廖さん(男性)は、「博士課程の進学は合格しにくいが、大学から生活費、奨学金、食費補助を受けられるため、多くの学生にとって非常に魅力的だ。また、大学時代に専攻した分野が就職に結びつきにくい場合、2年制の修士課程で進路を変更し、新しいキャリアパスを選ぶ機会にもなる。そこで第二の専攻を学ぶことができるのだ」と述べました。

 廖さんは中国の不動産市場の崩壊を例に挙げ、「土木工学を専攻していた学生が建設業界の前途が暗いと感じ、修士課程で他のより見込みのある専攻へと進路を変更するケースが増えている」と語りました。

 新華社通信が今年3月1日に発表した中国教育部(文科省に相当)の統計データによると、2023年に中国の大学進学率は60.2%に達しました。中国では大学教育の普及に伴い、大卒者の価値が次第に低下し、大学生が就職市場で競争力を持てなくなっている状況です。

 また、北京市教育委員会のデータによると、各大学の理工系学部の修士課程進学者数は、文学系と比べて100倍近く多いということです。台湾の逢甲大学(ほうこうだいがく)の林展暉(リン・テンホイ)助理教授は、「これは就職市場が文系よりも理工系を重視していることの表れであり、修士課程の学生は就職の機会に合わせて専攻を選択する傾向が強い」と述べ、「多くの学生が大学院に進む理由は、中国経済が好転しないと考え、あと2年ほど待ってみようとするためだ」と指摘しています。

 深セン市で留学コンサルタントを務める雷氏は、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、「中国経済の鈍化、国公立・私立大学の定員拡大につれ、大学生が増えている。その結果、大学生は『大学院に進学しないと、卒業と同時に失業する』という状況に直面している」と語りました。

 同時に、中国当局が段階的に定年退職の年齢を延長する計画を進めているため、「就職市場ではポジションが空かず、若者の就職がさらに難しくなっている。そこで、多くの学生が大学院に進学して、雇用環境が改善するまで待つしかない」と雷氏が述べました。

中国高等教育の歪みが「流浪の修士・博士」を生む

 林展暉助理教授は、健全な教育システムには、技術や職業教育を受ける専門学生、普通大学の学部生、そして少数の学術を研究する大学院生が含まれるべきであり、教育レベルが上がるにつれて、人数は減少していくのが理想だと述べました。しかし、中国の高等教育は歪んだ発展を遂げ、逆ピラミッド型の構造を呈しています。過剰な数の大学院生を育成しているが、就職市場と結びつけることができず、最終的には若者の失業率上昇の問題を解決することができない状況に直面しています。

 このままでは、「上位職の仕事は競争が激しいが、下位職の仕事は誰もやりたがらない」という現象が発生するでしょう。高学歴の若者は基層の仕事に就きたがらず、支払った努力が得られる利益を上回るとき、「流浪の修士・博士」がますます増えることになり、これは国の発展に悪影響を与えるでしょう。

 大学における学部生と大学院生の「逆転現象」は、中国のソーシャルメディアで話題となっています。財経のブロガーは、「教育改革があまりに歪んでいる。就職を回避して意味があるのか?市場が良くなると思うのか?」とコメントしています。湖南省に在住しているブロガーは、「雇用市場は当面、それほど多くの職を提供できないため、問題を将来に先送りするしかない」と指摘しました。

Z世代の若者にとって、就職はもはや最優先ではない

 上海の大学で社会学博士課程に在籍する曾さん(女性)は、大学院生の総数が年々増加している理由の1つは、大学院生が期間内に卒業できないことにあると述べています。中国の大学では、大学院生は論文発表の重圧を抱え、その要求を満たせない場合は卒業を延期せざるを得ない状況にあるためです。

 曾さんは、新入生の人数に関して言えば、一線都市や「985大学」と呼ばれるトップクラスの名門大学では、大学院生と学部生の人数に2倍の差が見られることが一般的だと述べました。これは、これらのトップ大学の魅力によるもので、全国的に見ると、大学における学部生と大学院生の新入生の人数は、依然として正常なピラミッド型を保っています。

 曾さんはまた、「Z世代」と呼ばれる中国の若者たちがインターネットやソーシャルメディアを巧みに活用し、KOL(キー・オピニオン・リーダー)として収入を得ることができ、これは前世代の「お金を稼ぐ」という考え方とは大きく異なっていると指摘しました。そのため、職場での就職は、もはや若者にとって最優先事項ではなくなっています。

 さらに、大学院生は毎月1000元から5000元(約2万円から10万円)の補助金を受けることができ、中国の大学ではコンペを通じて小規模プロジェクトの立ち上げ資金を提供するなど、起業を奨励しています。曾さんは「学生としての本業を維持しながら、多様な収入を自由に得ることができるなら、学生にとってこれ以上望むものはないだろう」と述べました。

経済の停滞が留学トレンドを逆転

 中国の一流大学で学部生と大学院生の人数が逆転する現象が見られる一方で、海外留学に行く中国人学生の数も減少し続けています。教育情報の提供する専門サイト「中国教育オンライン」が今年1月16日に発表した分析によると、大学生の海外留学人数は大幅に減少しており、例えば清華大学では2023年の学部生の海外留学率がわずか15.6%で、2018年と比較して10ポイント以上の減少が見られます。

 林展暉助理教授は、パンデミックの影響や国際情勢の変動により、中国の留学トレンドにも変化が生じたと指摘しました。パンデミックの影響に加え、米中対立によって留学ビザの審査が厳格化されており、さらに中国経済の深刻な衰退が、多くの留学生家庭の資金供給を断つ結果となりました。これにより、アメリカに留学する中国人学生は年々減少し、一部はヨーロッパや他の国に転向するケースもありますが、より多くの学生が中国国内で修士号や博士号を取得することを選んでいます。

(翻訳・藍彧)