人間が事故や病気で重傷を負った場合、傷害の拡大を抑えるために切断手術が必要になることがあります。そこで、ある研究者は最近、フロリダに生息する一種のアリも、負傷した仲間を救うために切断手術を行うことを発見し、これまでのアリに関する知識が覆されました。
2024年7月2日、ドイツのヴュルツブルク大学の行動生態学者エリック・フランク(Erik Frank)博士と彼の研究チームは、ある種のアリに関する新たな研究結果を学術誌『カレント・バイオロジー(Current Biology)』に発表しました。この学術誌は、分子生物学、細胞生物学、神経生物学、遺伝学、生態学など生物学のあらゆる分野をカバーする学術誌であり、エルゼビア内の出版社セル・プレス(Cell Press)から月に2度発行されています。
この研究は「フロリダオオアリ(Camponotus floridanus)」を対象に行われました。「フロリダオオアリ」は珍しい種ではなく、フロリダ州に広く分布し、ノースカロライナやミシシッピ州などの地域でも生息しています。「フロリダオオアリ」の体長は約1.1~1.3センチメートルと巨大で、体色は赤みがかったオレンジ色、濃いオレンジ色、濃い黒色をしており、視覚的にもかなり目立ちます。巨大な体格だけあって、移動速度は速く、攻撃性もとても強いため、巣に侵入してきた敵を攻撃したり、弱点を狙って突き刺したりして、毒を撒き散らす行動もとります。そのため、その過程で傷つくのを免れがたいのです。そして、研究者たちは、このアリが傷ついた仲間を口で傷口を洗浄し、必要に応じて傷ついた部分を切断して治療することを発見しました。この治療行動は負傷部位によって変化し、腿節(たいせつ、5つに分かれた昆虫の脚の3つめ)から上を負傷した場合、その脚を切断することになります。負傷が深刻ではなく、脚のもっと下の負傷程度であれば、患部を切断するのではなく、洗浄することになります。
エリック博士はこの現象について、血リンパの流れに関係していると説明しました。大腿部の負傷であれば、血流速度が低下するため、切断手術を行う猶予ができ、感染が広がるリスクを減らすことができます。一方、脚の下の部分の負傷であれば、血流が増加し、5分以内に病原菌は体内に侵入し、切断手術も無意味になってしまいます。研究の結果により、大腿部の切断を受けた個体のその後の生存率は最大90%である一方、切断を受けていない場合の生存率はわずか40%であることが明らかにしました。脚の下の傷口の洗浄を受けた個体の生存率は75%で、治療を実施していない場合の生存率は15%に低下してしまうことになります。
このような治療行動は、アリの群れ(コロニー)全体にとって良いことだと考えられます。負傷した働きアリが切断や洗浄などの治療行動によって労働能力を回復できれば、それは高い価値を持つことになるでしょう。もちろん、負傷が重すぎる場合は、治療を見送り、その個体を放置して自然に衰弱させていくかもしれません。
では、「フロリダオオアリ」はなぜ傷ついた仲間を治療して助けるのでしょうか?それは、彼らには抗菌物質を分泌する分泌腺を持たないため、代わりに機械的な手段“外科手術”で仲間を治療しています。人間以外の生物が感染予防のために切断手術を行うことが確認されたのは、これが初めてです。
(翻訳編集・玉竹)