近年、中国の経済は多くの課題に直面しており、特に不動産市場が劇的な変動や中産階級の貧困化が目立っています。これらの経済現象は中国人個人の富の蓄積に影響を与えるだけでなく、社会構造や政府の政策の方向性にも大きな変化をもたらしています。台湾大学政治学科名誉教授である明居正氏は、中国の現在の経済的苦境と、それが中国の政治や社会の将来に及ぼす影響を分析しました。

 米投資家でブリッジウォーター・ファンドの創業者レイ・ダリオ氏は、中国経済の分析において、7つの懸念があると指摘しました。7つの懸念はそれぞれ不動産市場の危機、政府の財政難、「裕福になることは栄光だ」という理念の変化、財産権保護の不安定さ、技術革新の行き詰まり、経済停滞の長期化、外国投資の見通しの不透明さとなっています。

 明居正教授は、中国当局が現在の政策を固執し続ければ、経済が長期的な低迷に陥るだけでなく、政治的変革への圧力も強まるだろうと指摘しています。経済問題はやがて政治問題へと発展し、中国の将来は極めて不確実なものとなるでしょう。

不動産市場の危機と中産階級の貧困化

 明居正教授は、YouTubeチャンネル『政経最前線』の番組で、中国の不動産市場がかつて経済成長のエンジンでありましたが、ここ数年の下落により多くの投資家や中産階級が窮地に立たされていると語っています。不動産価格は数年前に急激に上昇し、多くの家庭が大部分の資産を不動産に投入しました。しかし、不動産バブルが崩壊し、価格が下落すると、多くの地方政府が不動産の売却を制限するようになり、不動産所有者は物件を売却できず、損失を避けることができないまま住宅ローンの返済を続けなければなりません。このような売却制限は、短期的には市場を安定させたように見えますが、長期的には市場の正常な運行を妨げています。

 中産階級は消費市場の主力であり、彼らの経済的圧力は、社会全体の消費能力に直接影響を与えます。不動産価格が下落し、資産が縮小し、賃金が下がったり、あるいは職を失ったりすると、多くの中産階級の人々が日常生活の支出を削減せざるを得なくなります。

 明居正教授は、この現象が続けば、中産階級の大規模な貧困化を引き起こす可能性があると指摘しています。中産階級は社会の安定を支える重要な存在であり、彼らの財産が大幅に減少し、生活の質が急激に低下すれば、社会的対立や不満が高まるでしょう。

 地方政府の財政難も、不動産市場の危機をさらに悪化させています。地方政府はこれまで土地の譲渡や売却を主な財政収入源としてきました。しかし、不動産市場の低迷に伴い、土地の売却が困難になり、地方の財政収入が急減しました。地方政府は財政収入を維持するために、さらに不動産プロジェクトを開発し、悪循環に陥っています。また、高速鉄道の駅や空港などのインフラへの過剰投資も、地方政府に多額の債務を負わせ、財政状況をさらに深刻化させています。

「裕福は栄光」理念の変化と財産権保護の欠如

 鄧小平時代に提唱された「家を興し、富を築くことは栄光だ」という理念は、個人の起業と富の蓄積を奨励し、中国社会を市場化と近代化へと導きました。しかし、近年、習近平政権が推進する「共同富裕」政策は、社会の富の再分配を強調し、市場の活力の低下を招きました。

 明居正氏は、財産権の保護が経済発展の基盤の1つであると強調しています。しかし、中国では財産権の保護が不十分で、多くの企業家に経済発展への自信を失わせています。政府による民間企業への頻繁な介入、特に最近では企業の過去30年分の納税状況を再調査するなど、不合理な税制が民間企業家の意欲を挫いています。

 近年、多くの成功した企業家や企業幹部は、ますます厳しくなる国内の経済環境を避けるため、資産を海外に移すことを選択しています。この傾向は、中国国内のイノベーションや競争力を弱体化させるだけでなく、経済成長にさらなる不確実性をもたらしています。

外部環境の衝撃と中国経済の将来

 明居正氏は、国内の経済問題に加えて、中国が国際環境からの圧力にも直面していると考えています。米中貿易戦争の継続は、中国の輸出依存型経済に重大な打撃を与えています。2018年の貿易戦争が勃発して以来、米国は多くの中国製品に関税を課し、中国企業の海外市場を縮小させてきました。これにより、中国の輸出は後退を余儀なくされただけでなく、多くの製造企業がベトナムやインドなど他の低コスト国への生産移転を余儀なくされています。

 また、ヨーロッパ諸国も中国に対してより慎重な貿易政策を取るようになっています。欧州連合(EU)と中国の経済関係は、かつてグローバリゼーション(グローバル化)の重要な一部でありましたが、近年、ヨーロッパは中国市場への参入や技術保護措置に対する懸念を強めています。中国が世界市場で低価格競争戦略を実施するにつれ、欧州連合の多くの中小企業は大きな打撃を受けており、欧州連合は中国製の輸入品に対する審査や規制を強化する動きに出ています。

社会不穏と政治的影響

 明居正氏は、経済の持続的な低迷が社会構造や政治体制に影響を与えるに違いないと指摘しています。近年、中国社会では政府の政策に対する不満が徐々に高まっており、特に経済成長の鈍化や中産階級の貧困層への戻りが背景にあり、中国国民は政府の経済管理能力に疑問を抱き始めています。

 政府の強圧的な政策によって、社会的不満はある程度抑制されていますが、そのような抑制は一時的なものでしかありません。中国のような中央集権体制において、経済の悪化が続けば、現行の政治体制に直接的な挑戦が生じ、政権の正統性が揺らぐ可能性があります。

 習近平政権が推し進める「共同富裕」政策は、企業家の生産拡大意欲を大きく打撃してしまい、企業経営をさらに圧迫し、社会全体の富の創出能力を低下させています。これらの政策は必然的にさらなる社会的不満を引き起こし、それが政治問題に発展する可能性があります。

 また、外資系企業の大量撤退と国内企業の不振により、多くの労働者が職を失っており、特に地方や中小都市では失業率が上昇し、社会的な不安が一層深刻化する可能性があります。

(翻訳・藍彧)