中国経済が停滞する中、中国国民の収入は減少し、国内需要も長期にわたり低迷しています。その影響を受けて、中国に進出している台湾企業も大きな打撃を受けています。
 米国の『ウォール・ストリート・ジャーナル』が9月18日に報じたところによると、グローバル企業が中国から事業を撤退させるかどうかを判断する際、台湾企業の動向が1つの指標になるかもしれないとのことです。
 今年8月、中国で約20年間店舗展開をしてきた台湾の外食チェーンである「鼎泰豊(ディンタイフォン)」は、10月末までに厦門(アモイ)の1店舗を含む14店舗を閉鎖すると発表しました。


 約40年前、再び門戸を開いた中国は外国資本を誘致しました。最初に台湾資本が中国本土に工場を設立し、続いて日本やアメリカ、ヨーロッパの企業が参入してきました。現在、台湾の製造業や飲食業は再び新たな潮流を先導しています。しかし、以前と異なるのは、今回は外資系企業が中国から撤退する流れを作っているということです。
 報道によれば、戦略国際問題研究所(CSIS)の中国問題専門家スコット・ケネディ氏が主導した新しい研究では、昨年末に実施された調査において、中国本土で事業を展開している約610社の台湾企業のうち、57%以上がすでに撤退を進めている、もしくは撤退を検討していることがわかりました。主な理由としては、ビジネス環境の悪化や台湾海峡での戦争勃発の可能性が挙げられています。
 研究では、台湾企業が中国から撤退するかどうかの選択が、世界中の他の企業にも影響を与える可能性があることを指摘しています。すなわち、台湾企業の動きが他の企業にとって重要な判断材料になるかもしれないということです。
 マクロ的な視点から見ると、多くの多国籍企業が中国から撤退していることがわかります。中国の公式データによると、今年の最初の8か月間で、外国企業による中国への有形資産投資は前年同期比で31.5%減少しました。長年にわたり外国資本を引き付けてきた中国にとって、これは驚くべき変化です。

台湾の著名外食チェーンも撤退へ

 8月26日、行列ができるほどの人気店である鼎泰豊に関するニュースが台湾で大きな話題となりました。鼎泰豊は北京を中心として華北地区で14店舗を運営していましたが、それらを全て閉鎖すると発表したのです。このニュースは台湾の人々に大きな驚きを与えました。
 ネット上に投稿された動画を見ると、中国各地の繁華街には「貸店舗」の張り紙が至る所で見られ、店舗のシャッターは下ろされ、大通りは閑散としています。高級レストランから庶民的な大衆食堂までが経営難に陥り、長年経営されてきた老舗(しにせ)も次々と閉店しています。食事は人々の楽しみの1つです。庶民向けの大衆食堂さえも倒産してしまうのは、中国人の財布が本当に空っぽになったことを示していると言えるでしょう。
 台湾の大手経済系メディアを運営する謝金河(しゃきんが)氏はこのほど、Facebookで「鼎泰豊の涙」と題する文章を投稿しました。その中で謝金河氏は、中国国家統計局が今年7月に発表した2つのデータについて言及しました。1つは、新規融資の規模が2008年以来の最低水準となり、住宅ローン残高も初めて減少したこと。もう1つは、中国の社会消費財小売総額の増加率が3.7%に鈍化し、北京、上海、天津、海南ではマイナス成長を記録したことです。これにより、一線都市での消費の停滞が経済界で共通認識となっています。
 謝金河氏は、これらのデータを分析すれば、北京や天津の消費が特に大きな影響を受けていることがわかると指摘しました。最近、上海の商業地区にある鼎泰豊の店舗ではピーク時でも顧客があまり多くいませんでした。台北市内の店舗で長蛇の列ができるほどの盛況と比較すれば、中国の内需が非常に低迷していることがわかります。
 最近の香港メディアの報道によると、パンデミック以降、香港の小売業者の状況も大きく変わってしまいました。香港の小売大手「永旺(イオン)」と「聯華超市(リェンファースーパー)」の株価は低空飛行を続けています。台湾資本の火鍋大手「呷哺呷哺(シャブシャブ)」の株価は、27.15香港ドル(506円)から0.9香港ドル(17円)にまで急落し、もう一つの火鍋チェーン「海底撈(カイテイロウ)」の株価も85.8香港ドル(1600円)から10香港ドル(186円)にまで値下がりしています。「旺旺(ワンワン)」や「康師傅(カンシーフー)」などの企業も業績が惨憺たる状態です。
 謝金河氏は、中国の14億人の巨大市場はかつて世界中の企業にとって絶好の進出先とされてきましたが、今では全面的な衰退に直面していると指摘しました。さらに、不動産市場のバブルが崩壊する中、鼎泰豊に代表される台湾資本の撤退はこれからも続くだろうと述べました。

台湾独立派は死刑 恐ろしい中国法

 経済的な要因に加えて、中国に進出している台湾企業は政治的なリスクにも直面しています。6月21日、中国共産党は台湾独立派とみなされた人々を処罰する法律を発表しました。台湾独立活動に従事していると認定された場合、最も重い刑罰として死刑に処されることとなります。この新しい法律により、台湾企業は中国でのビジネス活動に伴う法的リスクを再評価せざるを得なくなりました。
 新しい法律では、台湾独立活動として、いくつかの行為について明確な定義を定めただけでなく、「台湾を中国から分裂させる試み」も処罰対象としています。これは非常に曖昧な表現です。法律家は、この曖昧な定義により、中国共産党が法律を自由に解釈することができてしまうと懸念しています。台湾独立活動に従事したと認定されれば、誰でも逮捕され、最悪の場合、死刑に処される可能性が否定できないのです。
 ロイター通信は7月4日付の報道で、北京に拠点を置くパーキンス・クイ法律事務所のパートナー弁護士であるジェームズ・ジマーマン氏を取材しました。ジマーマン氏は、「複数の企業が当事務所に相談に訪れ、従業員が直面するリスクについて評価を求めた」と述べています。企業は、SNS上での投稿や、台湾の選挙で特定の政党や候補者に投票する行為が台湾独立活動として認定されてしまうのではないかと懸念しているといいます。
 ロイターの報道によれば、中国で活動する一部の外国企業は従業員向けの会議を開き、身の安全を確保することについて議論しました。一方、中国で働く台湾人従業員の中にはすでに中国を離れた人もいるとのことです。
 台湾政府もまた、中国での就労やビジネスに警戒を呼びかけており、中国への旅行警戒レベルを引き上げました。今年6月、台湾の行政院大陸委員会は、過去1年間で8人の台湾人退役軍人や元警察官が中国で拘束されたと発表しています。

(翻訳・唐木 衛)