中国の公式経済データは再び悪化しています。鉱工業生産と小売売上高の伸びは鈍化し、失業率も上昇しています。消費と需要の不足が続くなか、景気の冷え込みが多くの業界に影響を与えています。こうした状況を受けて、大手外資系投資銀行は、中国の経済成長予測を相次いで下方修正しています。

再び悪化する中国の経済指標

 中国国家統計局が9月14日に発表したデータによると、8月の産業の付加価値の伸びは、ここ5ヵ月で最低の水準となりました。

 9月13日、中国中央銀行はレポートの中で、8月の中国銀行業の新規貸出残高が予想を下回ったことを明らかにしました。このことは、世界第2位の経済大国・中国の成長が鈍化していることを際立たせています。

 困窮する中国の不動産セクターは、今も経済成長の大きな足かせとなっています。8月の新築住宅価格は、過去9年間で最大の下落幅を記録しました。公式調査では、前年同月比および前期比でいずれも不動産価格が上昇した都市は、調査対象となった70都市のうち、2都市のみでした。

 中国当局が不動産市場の立て直しを試みているものの、今年初めから8カ月間の不動産販売や投資は急落しています。不動産市場の低迷が続く中、中国の消費者は支出を抑えようとしています。消費の重要な指標である消費財小売売上高も、今年に入ってから低迷が続いている状況です。専門家の中には、消費を促進するために政府が買い物券を発行するべきだという意見もあります。

 東方金誠国際信用評定有限公司(とうほうきんせいこくさいしんようひょうていゆうげんこうし)のチーフ・マクロ・アナリストである王青(おうせい)氏は中国メディアの取材に対し、購買担当者景気指数(PMI)が4カ月連続で基準となる50を下回っており、8月には建設業のPMIも比較的大きな下落を見せたと話しました。不動産業界で調整が続くなか、民間消費や民間投資は大きな弱点となり、経済全体を押し下げる圧力が強まっています。

大手投資銀行、中国の経済成長率予測を引き下げ

 ボイス・オブ・アメリカが9月16日付のロイターの報道を引用し、複数の大手投資銀行は中国の経済成長率に対する予測を引き下げたと報じました。

 ゴールドマン・サックス(GS)は9月15日付のリポートで、「中国の通年GDP成長率が目標値の『5%前後』を下回るリスクが高まっている」と指摘しました。なお、2025年のGDP成長率については4.3%の予想を維持しました。

 いっぽう、シティグループとモルガン・スタンレーは、国内消費者需要の落ち込みを理由に、来年の中国GDP成長率予測を4.5%から4.2%に引き下げました。

中国経済、ドミノ式に不況拡大

 数年前の不動産市場の崩壊を皮切りに、中国では輸出型工場の閉鎖や移転、そして実店舗型小売サービスの衰退など、複数の業界がドミノ倒しのように次々と不況に陥っています。経済全体が冷え込むなか、観測筋は、ドミノ倒しが新エネルギー車や資産運用にまで波及する可能性があると予測しています。

 9月15日付のボイス・オブ・アメリカの報道によると、米国サウスカロライナ大学の中国経済専門家である謝田教授は、次に大きな打撃を受けるのは中国の自動車産業だと考えています。謝田氏によると、中国当局の補助金政策によって新エネルギー車産業は急速に拡大し、数百もの企業が参入しました。しかし、その多くは補助金を受け取っているにも関わらず多額の損失を抱えており、補助金が打ち切られれば、すぐに経営破綻する恐れがあります。中国当局もいつまでも補助金を支給するだけの体力がないため、今後、自動車産業では倒産や合併が進む可能性が非常に高いと言います。謝田氏は「中国の電気自動車と自動運転技術は世界各国から締め出されている。今後、自動車産業で大規模なレイオフが発生する可能性は大きいだろう」と述べました。

 低迷する経済を立て直すため、中国当局は電気自動車の工場をアフリカに建設し、そこで現地生産する計画を進めています。最近、北京で開催された中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)の首脳会議において、習近平は今後3年間で510億ドル近くをアフリカ経済に投資することを約束しました。

 中国・アフリカ協力フォーラムに参加したタンザニア代表団のメンバーによると、約束された資金の大部分は、中国の大手自動車メーカーの電気自動車製造工場の建設に充てられるとのことです。また、中国の官僚はアフリカ代表団に対し、「アフリカで数千の雇用が創出されるとともに、アフリカの道路はクリーンエネルギー自動車でいっぱいになるだろう」と述べたといいます。

 しかし、アフリカの安価な労働力と限られた購買力によって、中国の電気自動車産業が今後も成長の勢いを保てるかどうかは不明です。

 米国メリーランド州に住むエコノミストの李恒清(りこうせい)氏は、現在、中国経済は下降のスパイラルに入っており、経済の不調はますます拡大するだろうと予測しています。李恒清氏は、「この経済の冷え込みの影響は今後さらに拡大し、今度は資産運用部門が懸念材料になるだろう」と指摘しています。

 現在、中国の一般市民の資産は主に住宅と銀行預金に集中しています。住宅価格の下落は続いており、もはやリスクではなく現実的な危機となっています。不動産バブルが完全に崩壊すれば、多くの人々が資産を失うことになります。

 李恒清氏は、今後、大規模な金融リスクが発生し、それが中国の銀行業界に深刻な打撃を与える可能性が高いと警告しています。総額400兆ドルを超える中国の預金残高のうち、半分にあたる約200兆ドルが個人の預金資産です。欧米諸国同様、中国にも預金保険制度がありますが、銀行が破綻し、破産手続きに入ると、保険金の支払いもままならないだろうと考えています。

 李恒清氏は「預金保険は上限が50万元(約1000万円)だが、金融危機が発生した場合、本当に支払う余力が残されているのだろうか。不動産業の危機と金融危機が同時に発生する可能性もある」と懸念を示しています。

(翻訳・唐木 衛)