中国の経済不況が続くなか、政府機関も財源の確保に四苦八苦しています。最近では、中国の地方政府が手持ちの資産を売り出し、現金化していることが明らかになりました。しかし、財政状況は一向に好転しないため、今度は民間企業から資金を搾り取ろうとしています。

 中国当局が発表した公式統計データによると、今年の上半期における税金収入以外の政府収入は、10年前の2014年の一年分を超えました。中国当局の非合理的な行動を目にした経済学者は、これを非常に心配すべき現象だと捉えており、「卵を取るために鶏を殺す」行為だと指摘しています。

地方政府、民間企業から資金巻き上げ

 香港メディア「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」の報道によると、中国の地方政府は「砸鍋売鉄(ザーグオマイティエ)」プロジェクトや特別債券の発行だけではなく、民間企業から資金を巻き上げるためにあらゆる手段を使っています。

 「砸鍋売鉄(ザーグオマイティエ)」とは、鍋をたたき壊してくず鉄として売るという意味で、政府が持つ資産を売り出して換金することを指します。

 今年8月末、中国のSNS上に投稿された一つの録音が、地方政府の財政危機の知られざる側面を暴露しました。

 録音では、山東省成武(せいぶ)県の市場監督官が医療技術企業の代表者に対し、脅しとも言える口調で話していました。政府の予算不足を補うために、民間企業から毎年一定額の資金を徴収するというのです。

 「正直に言うと、企業を支援し発展させるのはとても難しい」と市場監督官は言いました。「でも、企業を潰すのはとても簡単だ・・・」

 中国の経済学者、劉勝軍氏は9月2日の記事の中で、中国企業の置かれている悲惨な環境を嘆きました。

 記事の下には、「これが民間企業が直面する現実だ」といったコメントや、「お金持ちが中国で起業したがらない理由がよくわかった」という意見が散見されました。

税金以外の収入源に頼る中国当局

 不動産市場の崩壊により、地方政府の主な財源であった土地販売収入が急激に減少しています。「土地財政」に依存していた地方政府は資金繰りが悪化し、公務員の給料未払いが発生しています。さらに、地方政府の債務は急速に膨張しています。

 中国財政部が発表した最新の報告書によると、2023年度の地方政府の債務総額は約40兆元(約800兆円)に達し、中国の国内総生産(GDP)の30%以上を占めています。

 急増する債務は、地方政府にとって悩みの種となっています。これまで主要な収入源だった土地販売収入や税金収入だけでは政府の支出を賄うことができず、新たな収入源を模索しなければならない状況です。

 中国沿岸部のとある県の幹部は、省政府から毎年通達される収入目標は地方政府にとって大きなプレッシャーになっていると話しました。

 「年度の初めに、地方政府は税収と税収以外の収入目標を立てる。私たちはノルマを課せられ、達成できなければ昇進に影響する」と幹部は語ります。

 「しかし、土地販売による収入が減少したため、県の税収は3分の2も減少した。不足分を補うため、税収を増やすことや他の方法で収入を補填する必要がある」と語りました。

 幹部によると、地方政府の主な収益源は「砸鍋売鉄(ザーグオマイティエ)」です。すなわち、地方政府が所有する国有資源の使用権や鉱山の採掘権、不動産や大型設備の使用権を売りに出すことで資金を調達する方法です。多くの地方政府は、このような政策を担当する「砸鍋売鉄(ザーグオマイティエ)」オフィスを設置していると言われています。

 これらの手段で集めた資金は、政府の予算において「税金以外の収入」として分類されます。

 中国の公式データによれば、地方政府の非税収入への依存度は年々増加しています。中国財政部のデータによると、今年上半期の予算収入は前年比で2.8%減少しましたが、税収は5.6%減少し、非税収入は11.7%増加し、2014年の年間非税収入を上回りました。

 また、上半期の予算データを公表した23の省のうち、複数の省では税金以外の収入が財政の総収入の3分の1を占めていることが明らかになりました。

民間企業を潰す悪手=経済学者

 政府の主要な財源となりつつある税金以外の収入ですが、その一部は民間企業に対する罰金と追徴課税から成り立っています。

 中国の経済学者である劉勝軍氏は、政府のやり方は企業の経営をさらに悪化させ、ビジネス環境を著しく破壊するものであると指摘しました。2024年1月から7月までの統計データによると、国有企業への投資増加率は6.3%となった一方で、民間投資の増加率はほぼ0%でした。

 さらに、一部の地域では、企業に対して税金の前払いを求めています。安徽省東部で化学工場を経営する黄さんは、「もし前払いを拒否すれば、当局がさまざまな方法で嫌がらせをしてくるだろう。仕方ないが、税金を前払いするしかない」と話しています。

 中国南部の省で財務官僚を務める葉氏は、地方政府が企業に税金の前払いを「お願い」することがあると話しました。「財政が厳しいとき、私たちは関係の良い企業に協力を求め、数期分の税金を前払いしてもらうことがある」とし、「そうすれば財政状況は見栄えがよくなり、期限の迫った債務も返済できる」と話しました。

 一方、山東省のあるレストランオーナーは、昨年1年間で支払った罰金や手数料が2倍以上に膨れ上がったと述べています。

 優遇税制を廃止することで、財源を確保する動きも見られています。先ほど登場した財務官僚の葉氏は、「財政状況が厳しくなると、もはや優遇税制を維持する余裕がなくなる」と話しました。

 上海で警備会社を経営する林さんは、政府の政策変更によって大きな影響を受けています。2019年、上海市の現地当局は毎年500万元(約1億円)の税制優遇を提供することを約束し、林さんはその条件のもと会社を設立しました。しかし、2024年になると突然政策は撤回され、2023年度分の税金の追徴もされました。急激な政策変更により、林さんの財務計画は大きく混乱してしまいました。

毒酒で渇きを癒す当局

 清華大学国家戦略研究院の上級研究員である謝茂松氏は、中国の地方政府は確かに財政難に直面しているものの、民間企業に対し税金の前払いを強制することが当たり前になってはならないと指摘しています。

 謝氏は、「法律規定外の方法で税金以外の収入を拡大することは、毒酒を飲んで水分補給しているに等しい。民衆の反発を引き起こし、企業を萎縮させる恐れがあるため、持続可能性はない」と述べました。

 エコノミストたちも中国経済は回復とは程遠い状態だと見ています。モルガン・スタンレーの中国担当チーフエコノミストである朱海斌(しゅかいひん)氏は、米国メディアCNBCの取材に対し、中国の住宅価格は2025年またはその先数年も安定しない可能性が高く、不動産市場の崩壊はまだ終わっていない、と述べています。

(翻訳・唐木 衛)