中国当局は最近、国境を越えた中国児童の国際養子縁組政策を見直し、外国人が中国の子どもを養子にすることを禁止しました。一部の専門家は、これが中国の出生率低下や中国当局の暗い心理に起因している可能性があると指摘しています。

 米国務省が発表したニュースによると、中国は2024年8月28日、正式に国際養子縁組プログラムを停止したとされています。9月5日に行われた中国外交部の定例記者会見で、オランダの記者がこの件に触れ、中国当局に確認を求めました。これに対し、中国外交部の報道官はその事実を認めましたが、詳細な説明はなく、関連する国際条約の精神に基づいているとのみ述べました。

一人っ子政策から始まった捨て子問題

 中国における養子縁組問題は、1979年に始まった「一人っ子政策」に端を発します。この厳格な計画生育政策により、多くの女児や障害を持つ乳児が捨てられ、児童養護施設で育てられることとなりました。
在米の元中国人記者の趙蘭健氏は、ソーシャルメディア・プラットフォーム「X(旧ツイッター)」で、戦争がない時代にもかかわらず、中国では推定数十万、甚だしければ数百万人を超える子どもが捨てられ、養育者がいない状態にあると投稿しました。

 中国当局は1980年代に外国人による養子縁組に取り組み始め、1988年には政策を緩和して、中国と密接な関係を持つ外国人や、中国に長期滞在している外国人も養子縁組が可能になりました。

 1992年に施行された養子縁組法では、さらに制限が緩和され、外国人もこの法律に従って中国の子どもを養子に迎えることができるようになり、中国における国際養子縁組の扉が本格的に開かれました。その結果、国際養子縁組の件数は年々劇的に増加しています。

国際養子縁組のピークと減少

 2005年4月27日、中国は「国外養子縁組に関する児童の保護および協力に関する条約」を批准し、中国は正式に加盟国となりました。

 台湾の中央通信社によると、同年、中国における外国人養子縁組の数は過去最高でピークに達し、1万3千人を超え、そのうち25.49%が外国人家庭に引き取られました。

 米国務省領事局の統計によると、21世紀に入ってから、米国の家庭が養子に迎えた中国の子どもは合計8万2658人に上り、同じ期間に米国家庭が外国から養子に迎えた総数の29.2%を占めています。2005年には、米国の家庭による中国の子どもの養子縁組が7903人に達し、過去最高を記録しました。

 しかし、2007年以降、中国当局は国際養子縁組の基準を徐々に引き上げ、現在では養子縁組を希望する家庭に対する要件が世界で最も厳しい国の1つとなりました。

 英国「フィナンシャル・タイムズ」紙の報道によると、2014年には中国の国際養子縁組の数が2800人にまで減少し、2005年の1万3千人と比較して80%も激減しました。

 2020年5月、中国当局は養子縁組政策を改定し、中国児童の国際養子縁組をさらに制限しました。

 ボイス・オブ・アメリカの報道によると、中国国内の養子縁組は現在、全体の約9割を占め、国際養子縁組は年々大幅に減少しています。

米国が最も多くの中国孤児を養子縁組

 中国が外国人による中国孤児の養子縁組を認めて以来、米国の家庭が中国孤児の養親(ようしん)として主な役割を果たしてきました。これは米中友好関係の証であると、ボイス・オブ・アメリカが米国務省のXアカウント「シェア・アメリカ」の投稿を引用して伝えました。

 米国務省領事局の統計によると、今世紀に入ってから、米国の家庭に養子に出された中国人の子どもは8万2658人で、同時期に米国人に養子に出された外国人の子ども28万2921人に比べ、中国は全体の29.2%を占め、2位のロシア4万6113人や3位のグアテマラ2万9807人を合わせたものになります。

 また、米国の家庭が中国の子どもを養子に迎えるプロセスは簡単ではなく、一連の複雑な手続きが必要であり、さらに数年も待たなければならないことが多いに加え、養子縁組にかかる費用も数万米ドルに及ぶことが多いです。これには、忍耐や信念、そして愛情がなければ、多くの米国家庭が遠くまで出向いて海外の子どもを養子に迎えようとは考えにくいとのことです。

 SNS上には、多くの米国家庭が先天性障害を持つ中国の子どもを養子に迎え、治療を施し、その子どもたちが回復するために尽力している動画が多く出回っています。

 現在も数百もの米国家庭が養子縁組の申請手続きを進めており、米国政府はこの問題について中国側と交渉中です。

中国が国際養子縁組を突然停止した理由

 元中国メディア関係者の王剣氏は、中国当局が中国孤児の国際養子縁組を突然禁止した理由について、2つの原因があると考えています。

 1つ目は、中国の出生率がここ数年で急激に低下していることです。

 2023年の中国の新生児数は902万人で、2022年より54万人減少し、2021年に比べると254万人の減少となっています。ウィキペディアによると、2021年には中国の出生率がすでに1.16まで低下していました。

 中国当局が国際養子縁組を停止する重要な背景となったのは、少子化と高齢化の深刻さです。

 王剣氏は、中国が国際養子縁組を突然停止したもう1つの理由として、中国共産党の「暗い心理」からきていると挙げています。

 王剣氏は次のように指摘しました。「国際養子縁組で海外に引き取られた子どもたちは、外国の家庭で大切に育てられ、幸せな子ども時代を過ごし、多くの子どもたちが学業やスポーツなどで成功を収めており、世界のスターにさえなっています。このような事実がメディアで報じられるたびに、中国政府は『面目を失う』と感じ、この(外国人養子縁組の)チャンネルを閉鎖したのだ」

 たとえば、2018年の体操世界選手権で総合優勝したモーガン・ハード(Morgan Hurd)は、広西チワン族自治区で生まれた捨て子でした。

 先天性二分脊椎(にぶんせきついしょう)の障害を持つ少女メイリー(Maylee)も、米国の家庭に養子に出された中国人の捨て子で、2022年9月、彼女はジュニアテニス選手権でチャンピオンとなりました。彼女は2028年のロサンゼルス・オリンピックで車いすテニスの種目に出場し、母国での優勝を目指しています。

 2021年の東京オリンピックで、20歳のカナダ人水泳選手マギー・マクニール(Maggie MacNeil)は、55秒59の記録で中国選手の張雨菲を破り、100メートルバタフライで金メダルを獲得しました。彼女は2001年2月26日に江西省九江市で生まれましたが、生後すぐに捨てられ、1歳のときにカナダの養父母に引き取られました。彼女の人生は、カナダに渡ってから一変しました。

 当時、中国の官製メディアが彼女にインタビューを行い、愛国的なプロパガンダを試みましたが、彼女は「私は中国で生まれたが、私はカナダ人だ」と答えました。

 この件に対して、あるネットユーザーは、「彼女が祖国を離れて初めてオリンピックのチャンピオンになれた」と皮肉を述べました。

(翻訳・藍彧)