中国では、同じ大学でも、地域によって合格基準点が100点以上異なることがあります。受験期になると、このような地域格差は毎年のように話題に上がり、その不公平さが議論の的となっています。

大学入試における地域格差

 米国メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)の報道によると、中国の大学入学試験には地域格差があり、北京や上海などの主要都市に住む学生ほど有利になる傾向が見られています。

 中国のトップレベルの大学は富裕な沿岸地域に集中しています。中国教育部に直属する76の大学のうち、北京に25校、上海に8校、江蘇省と湖北省にはそれぞれ7校、陝西省には5校、四川省には4校が設置されています。しかし、人口が約1億人の河南省には1つもありません。

 さらに、中国の有名大学は往々にして地元の学生に多くの入学枠を与える傾向があります。例えば、北京大学では入試の際、北京出身の学生の比率をおよそ10%としています。上海市や江蘇省、湖北省になると、地元出身の学生の割合は45%に達することもあります。

 アメリカのサウスカロライナ大学ビジネススクールで教授を務める謝田氏(しゃでん)は、1980年に遼寧省から北京大学に進学しました。当時、遼寧省に与えられた北京大学の入学枠は数十人に限られていました。謝田氏は入学後、中国各地から来た同級生と入学試験の点数について話し合う中で、北京出身の学生だけが一段と低い点数で合格していることに驚きました。

 謝田氏は、「北京出身の学生の点数は、私たちと比べて非常に低く、信じがたいほどだった。私たちは大いに驚き、怒りさえ覚えた」と話しました。謝田氏によると、もし北京出身の学生たちが地方都市で受験していれば、絶対に北京大学に入学することができなかったといいます。

 謝田氏は、「中国の大学入試制度には明らかな地域格差がある。もし完全に公平であれば、福建省や広東省、江蘇省、浙江省などの受験生が合格者の大部分を占めることになるだろう。逆に、北京の多くの学生は合格点に達することができないだろう」と語りました。

なぜ大都市は優遇されるのか

 謝田氏は、中国の大学入試では北京や上海といった大都市の学生が優遇される傾向にあると指摘しています。これらの大都市には共産党幹部の子弟らが多く住んでおり、彼らは比較的低い点数で北京大学や清華大学などの名門校に入学することができます。過去には、家族の背景や門地によって特例入学を認める制度もあり、共産党幹部の子弟らは特別枠で入学することができました。

 今日、これらの優遇策は地域格差として残っています。大都市に住む共産党幹部の子弟は名門校に入りやすく、地方都市や農村の学生は数少ない入試枠を奪い合うことを余儀なくされています。一番悲惨なのは出稼ぎ農民工です。大都市で働く彼らは都市の戸籍を持たないため、その子どもは都市での就学ができません。これは、共産党の統治によって格差が拡大していることを如実に表す例です。

 謝田氏は、中国共産党が政権樹立以来、国内で厳格な階級制度を作り上げてきたと述べています。共産主義の理念では平等が謳われているものの、実際には人々が細かい階級に分けられ、給与や退職金、社会保障などの多くの面で格差が存在しています。移動を制限する戸籍制度は都市住民と農村住民の格差を生み、深刻な社会問題となっています。

 さらに謝田氏は、中国共産党が人口の移動を制限し、特に農民を管理するために、古代王朝でも見られなかったような厳しい戸籍制度を導入したと指摘しました。戸籍は中国共産党が政権を維持するための手段であり、大学入試における地域格差も同様に身分を固定化する作用があると述べました。

 評論家の鄭旭光(ていきょくこう)氏は、大学入試における地域格差や有名大学の偏在は、政治的な差別であると指摘しています。北京には多くの政府関連の学校があり、それらの学校の運営者層も政府の一員です。そして、大都市に住む政府官僚の子弟はそのまま大都市の学校に通うことができるのです。

教育格差をなくすためには

 2001年、山東省青島市の3人の受験生が中国教育部を訴えました。大学入学試験では全国統一の試験問題を使うものの、各地域によって合格基準点が異なるのは「教育差別」であると主張しました。例えば、北京の難関大学の合格点は454点だったのに対し、山東省の学生に課せられた基準点は580点でした。この違いが生じたのは、各省ごとに大学の入学定員が割り当てられているためでした。その結果、同じ大学の合格点が地域によって100~200点も異なることが散見されています。訴訟は最高人民法院(中国の最高裁判所)まで続きましたが、「訴訟手続きに不備がある」として却下されました。

 この事件をきっかけに、2002年から多くの省では大学入試において独自の試験問題を作成するようになりました。しかし、各省が独自の試験問題を作成しても、本質的な公平性の改善にはつながっていません。評論家の鄭旭光氏によれば、各省が独自の試験問題を作成するのは、単に受験者間で点数差が目立たないようにするための策に過ぎないといいます。大学の入学定員が各省ごとに割り当てられている限り、どのような問題を出題しても、入学できる人数は変わりません。独自の試験問題を出すことで、地域ごとの点数差を目立たなくすることができても、格差そのものは改善されていないのです。

 スタンフォード大学の中国経済・制度研究センター(SCCEI)共同代表の李宏彬(りこうひん)氏は、大学入試の格差の問題は非常に解決が難しいと述べました。なぜなら、入試制度は既にルールが確立されたゼロサムゲームであり、変更を加えれば必ず不利益を被る地域が出てくるからです。加えて、中国の大学の資金源は地方政府の財政や税収に大きく依存しており、制度を変えるにはまず政府の同意を取り付けなければなりません。

 李宏彬氏は、「長期的には、戸籍政策を徐々に緩和し、受験生が他の省で受験できるようにすることや、農村部の子どもたちが都市へ進学しやすくなる環境を整える必要がある」と進言しています。

(翻訳・唐木 衛)