最近、また中国のインフルエンサーが「愛国主義」のパフォーマンスを繰り広げました。

 9月7日、2人の日本人観光客がガイドの案内で円明園を訪れ、写真を撮影していたところ、中国のインフルエンサーである「亜人(李高陽)」に遭遇しました。ちょうどその時、日本人観光客がガイドの指示で写真を撮る角度を探していたところ、「亜人」がそばに立っていました。ガイドが丁寧に「亜人」に少し場所を譲ってほしいとお願いすると、「亜人」は突然激昂しました。「あなた、日本人に写真を撮らせているのか?円明園で?私に場所を譲れと?」と怒鳴り、「日本人はここで写真を撮る資格がない!」と言い放ちました。その後も、「亜人」は中国語と英語で観光客やガイドを罵り続け、執拗に追いかけて撮影を続けました。

 この動画が中国のSNSで公開されると、瞬く間に広まり、驚いたことに、今回の「愛国」パフォーマンスはほとんど称賛を得られず、逆に中国のネットユーザーから圧倒的な非難を浴びました。動画をよく見ると、これは事前に計画された「当たり屋」行為であることが分かります。「亜人」は、ガイドと日本人観光客の会話を聞いて、相手の身元を確認し、ガイドが彼に少し場所を譲ってほしいと頼んだ時に、わざと攻撃的になったようです。彼は憎悪を最大限に引き上げるため、事実を歪曲してガイドから「日本人に場所を譲れ」と要求されたことに怒りを感じたと主張しました。しかし、演技があまりにも拙いため、すぐにネットユーザーたちに見破られてしまいました。

 多くの中国のネットユーザーは、「亜人」は「愛国」を口実にして、注目を集めようとしているだけだと批判し、実際には民族主義を煽って、フォロワーを稼ごうとしているだけだと指摘しています。さらに、この行為は明らかに故意の挑発であり、「挑発行為」にあたるとし、実際には「中国のイメージを損ねている」と非難する声も上がっています。

 ネットユーザーたちは次々とコメントしています。「私たちの国はどれだけ心が狭いんだろう。普通に写真を撮ることすら許さないのか?」「これって挑発行為にあたるよね、早く捕まえて!」「そんなに日本人を憎んでいるなら、どうして日本大使館へ抗議しに行かないの?」といった声が聞かれます。

 さらに驚くべきことに、ネットユーザーたちは「亜人」の本名(李高陽)と過去の犯罪歴を突き止めました。彼はアメリカ留学中に未成年者への強姦罪、性的暴行、恐喝などの罪を犯していたことが判明しました。彼の両親が100万ドルの保釈金を支払い、最終的に3年の刑に処されました。彼は刑期を終えて強制送還された後、再びヨーロッパに渡り、1年間修士課程を学びましたが、その間も法を守らない行動を続け、不正乗車の方法を教唆する動画を公開していました。

 近年、このような「愛国主義」パフォーマンスが頻繁に発生しています。今年の初めから、「戦馬」というインフルエンサーが南京のショッピングモールの装飾が日本の国旗を連想させると非難し、「油頭四六分」と呼ばれる別のインフルエンサーが日本料理店に嫌がらせを行った事件が発生しました。さらに、留学生がクレジットカードを限度額まで使い込んで帰国し『愛国心』を示したり、靖国神社に放尿するといった事件が続きました。

 これらの人々は本当に愛国心を持っているのでしょうか?明らかにそうではありません。彼らはただ注目を集めるために行動しているにすぎないのです。近年、中国で「愛国主義」のパフォーマンスが非常に儲かるようになっています。奇妙な場面、誇張されたタイトル、目立つ感嘆符、煽動的な発言を用い、自分の愛国心をアピールすることが一種のビジネスモデルになっています。彼らが最もよく行うことは、スローガンを叫び、世論を誘導し、相手にレッテルを貼ることです。愛国の「三点セット」で上手に演技すれば、ファンの支持を得て、簡単に収益化できるのです。

 異なる意見を持つ人々に対しては、「立場に問題がある」「あなたは中国人じゃない」「あなたは愛国者じゃない」などと批判し、道徳的な圧力をかけて、自分たちが主導権を握ろうとしています。

 「亜人」がこのように日本人観光客を挑発することができたのは、「たとえ少しやりすぎても、自分は『愛国』の名のもとに免罪されるだろう」と確信しているからです。中国でこのような「愛国主義」パフォーマンスが蔓延している根本的な原因は、中国政府にあるといえます。

 中国の子供たちは、愛国主義と民族的屈辱の歴史を受けて育てられています。しかし、近年、中国経済は著しい成長を遂げ、多くの家庭が海外に出かけ、現実の外国人の生活を目の当たりにしています。そのため、現代の中国人若者の中には、アメリカやイギリス、日本で愛国主義や民族主義を語る一方で、実際には海外に滞在し続けるという矛盾した状況が生まれています。

 さらに、中国は近年、ネット上の言論統制を強化しており、活動家や一般市民の発言は厳しく監視され、微博やウィーチャットといったプラットフォームでは、敏感な内容が頻繁に削除されています。一方で、民族主義的な発言や中国政府の公式宣伝に賛同する声はより自由に広がっていることもあります。時には、公式メディアが彼らの文章をシェアし、影響力をさらに拡大しています。

 台湾のシンクタンクである「民主実験室」(Doublethink Lab)のハープレイ・コー氏(音訳)は、中国のネット規制がユーザーに対して積極的に党の政策や思想を宣伝することを奨励しており、インフルエンサーの多くがこのシステムを利用していると指摘しています。「民族主義に毒された環境では、チャンスを活かして職業的なインフルエンサーになることが、成功への道です」と彼は語っています。

 これらの「愛国」インフルエンサーが国家から直接報酬を受け取っていないかもしれませんが、彼らは公式メディアで自身のイメージを向上させ、この認知を利用して個人ブランドを成長させることで利益を得ています。フォロワーが増えるにつれて、彼らは広告や有料コンテンツからもかなりの収入を得ることができます。香港中文大学の方可成博士は、100万人以上のフォロワーを持つ微博アカウントは年間で数百万元の収益を上げることができると推定しています。

(翻訳・吉原木子)