8月26日、中国軍のY-9情報収集機が長崎県の男女群島沖の日本領空を侵犯しました。これに対し、航空自衛隊の西部方面隊は戦闘機を緊急発進させ、警告などの対応を行いました。初となる中国軍機による領空侵犯は大きなニュースとなり、中国軍の意図について様々な憶測が示されています。

 こうしたなか、アメリカの時事評論家である江峰(こうほう)氏は、自身の動画番組のなかで、中国軍機の領空侵犯の意図について詳しく分析しています。

 最近、中国は日本近辺とフィリピン周辺海域での活動を活発化させており、数々の事件を引き起こしています。江峰氏は、中国共産党は絶えず第一列島線を突破しようと試みており、第一列島線の北端に位置する九州の立地は極めて重要だと指摘しました。

 江峰氏は中国軍がY-9型偵察機を使用したことに着目しました。もし、今回使われたのがY-9型ではなく、Y-8偵察機だった場合、領空侵犯は単なる技術的ミスや軍関係者の誤判断で済む可能性がありますが、Y-9型ではその可能性はあり得ないと言います。

 中国軍のY-8型とY-9型はどちらも輸送機を改造した軍用機です。Y-8型は主に対潜哨戒機として使用され、複数の対潜水艦装備を搭載しています。一方、Y-9型は偵察機です。特に今回侵入したのはY-9情報収集機であり、通常の対潜哨戒や情報収集機能に加えて、電子偵察や電磁妨害といった電子戦能力を持っています。

では、その能力はどのようなものでしょうか。Y-9情報収集機の背景を理解するためには、2001年に起きた米軍機EP-3(イーピースリー)と中国軍戦闘機の衝突事件である「海南島事件」について理解を深める必要があります。

 海南島事件は、2001年4月1日、中国・海南島付近の南シナ海上空で、アメリカと中国の軍用機が空中衝突した事件です。中国軍の戦闘機が墜落しパイロットが行方不明になったほか、アメリカ軍の電子偵察機が損傷して海南島に不時着し、乗組員らが中国側に身柄を拘束されました。

 当時、アメリカ軍は先進的な電子偵察機が他国の手に渡ることを想定していませんでした。不時着するまでの間、乗組員は搭載されていた先進的な電子戦機器を破壊しようとしましたが、結局のところ、機密を守ることはできませんでした。中国の技術者は入手した電子偵察機を分解し、最先端の偵察装置や電子機器の技術を分析し、リバースエンジニアリングしました。そして出来上がったのが、Y-9情報収集機なのです。

 米軍の最新技術は中国の技術者と官僚を大いに驚かせました。EP-3が東シナ海から南シナ海にかけて飛ぶことで、中国四川省の無線通信や携帯電話の通信内容まで傍受することができたのです。そのため、海南島事件の後、中国軍はすぐに通達を出し、高級将校らが携帯電話を使用することを禁止しました。

 中国軍の日本に対する戦術はこうです。まず、日本近海に爆撃機を近づけ、その後ろにY-9情報収集機を配備します。自衛隊が爆撃機の接近を探知すると、すぐに対空レーダーや指揮通信システムを作動させ、戦闘機や早期警戒機を発進させます。この際、爆撃機の後ろにいるY-9情報収集機が日本側の作戦データを収集します。収集されるのは地上レーダーや対空ミサイルシステムの電磁スペクトル、飛行機と管制塔の通信データなどです。

 特に近年、中国軍の艦艇は日本海でロシアと合同演習を行ったり、津軽海峡を通過して日本を一周したりする航行を実施しています。多くの人々はこれを中国共産党の「戦狼」的な行為と捉えますが、江峰氏はその背後には別の目的があると考えています。中国軍の艦艇が日本周辺海域を航行する際、日本や米軍の部隊が何らかの反応を示すと、中国側はそのデータを収集します。そうすることで、もし将来戦争が勃発した際に、中国軍は電磁妨害などを効果的に行うことができるとされています。

 江峰氏によれば、Y-9情報収集機の探知範囲は600〜900海里(カイリ)に達し、その主な狙いは九州とその周辺にある複数の軍事施設です。九州には日米同盟にとって欠かせない重要な基地が複数存在しており、海軍基地や空軍基地、レーダー基地、指揮センターなどが存在します。その北部には対馬海峡、南部には宮古海峡というチョークポイントがあります。

 九州以南の宮古海峡は、中国共産党が第一列島線を突破しようとする際の重要なポイントです。2019年以降、自衛隊は南西諸島での防衛力を急激に増強し、中国共産党の進出に備えています。英字紙『ジャパンタイムズ』の2019年3月の報道によれば、南西諸島に配置された自衛隊の複数の軍事基地が順次稼働を始めているとのことです。

 九州以北に位置する対馬海峡は、中国軍とロシアが合同軍事演習を行う際の重要な航路です。中露の軍事協力の詳細は公表されていませんが、もし台湾海峡で戦争が勃発した場合、ロシアが北から日米両軍を牽制し、台湾海峡戦争に影響力を及ぼす可能性が高いです。そのため、対馬海峡は中共、ロシア、北朝鮮が共同行動を取る際の重要な通路とされています。

 また、鹿児島県の種子島から西に約10キロ離れた馬毛島(まげしま)は元々無人島でしたが、2023年1月11日に日米両政府がこの島に軍事基地を建設する計画を発表しました。この基地は4年後の2027年に完成予定です。一般的に、2027年は中国共産党の台湾侵攻が起こるかもしれないとされている年で、馬毛島の整備は戦略的な意味を持っています。

 馬毛島は中国の上海市とほぼ同じ緯度にあり、距離はわずか900キロです。この距離はアメリカ軍のF35戦闘機の作戦行動半径に入るため、もし中国共産党が台湾に対して軍事作戦を開始すれば、アメリカは中国の主要経済圏である上海を報復攻撃する能力を持ちます。これは中国共産党にとって非常に現実的な脅威です。

 日米の作戦部隊の連携を強化する「統合司令部」が成立し、米インド太平洋司令部の指揮権が前方に移動しました。中国軍が情報収集機を飛ばしたのは、統合司令部に関する重要データの入手を急いだ可能性があります。このようなデータを入手するためには、過去のように艦艇を日本周辺海域に派遣するだけでは不十分であり、政治的な意味合いが強い領空侵犯のような軍事行動が必要となったのでしょう。領空侵犯を行うことで、日本だけではなく、アメリカ、さらには台湾までもが大きな反応を示す可能性があるからです。江峰氏は、これがY-9情報収集機が日本の領空を侵犯した真の目的であったと指摘しています。

(翻訳・唐木 衛)