今年上半期だけで3万軒のラーメン店が閉店し、100万軒以上の飲食店が廃業するなど中国の飲食業界にとって悪いニュースが続いています。しかしながら、北京市では今年上半期にフードデリバリー配達員が49.7%増加し、弱体化する中国経済の中でひときわ目立つ業界となっています。

 2024年8月26日、香港メディア・香港01は、消費が低迷する中国で、かつて一世を風靡(ふうび)したラーメンチェーン「味千ラーメン」を始めとする高級ラーメン店が窮地に立たされていると報じました。

 「高級ラーメンの始祖」と呼ばれる味千ラーメンの今年1~6月の決算が2000万元(約4億円)の赤字に転落し、香港証券取引所の同社株も急落し、株価は一時22%の下落を記録しました。客の減少に伴う売り上げ減が赤字転落の主要因であるとのことです。

 上海市内のラーメン店店主が「今年は商売が厳しい。さまざまな販促活動を打ち出しているものの、業績は去年に及ばない。かつて高級ラーメン店の主要客層だったホワイトカラーの消費者が、より理性的な消費をするようになり、自炊派が増えたことで、経営の圧力が一層高まっている」と語りました。

 また、馬記永、陳香貴、「張拉拉(ジャンラーラー)」など他の高級ラーメン店も軒並み苦戦しており、今年1~6月に新たに営業を開始した高級ラーメン店が3万1000店舗に上った一方で、2万9000店舗が閉店に追い込まれました。消費の冷え込みが大きな背景にあり、中間層を中心に大型商業施設で食事をする人が減ったとしています。

 記事は、かつて急速な経済成長と中間層拡大の象徴として隆盛を誇っていた高級ラーメン店の「閉店ラッシュ」について「中国本土の飲食市場に大きな変化が起きていることの現れだ」とし、高級飲食業が正念場を迎えつつあると評しました。

 ラジオ・フリー・アジアの報道によると、中国の経済状況と消費力の低下が続く中、高級レストラン市場では「閉店ラッシュ」が起きています。国際的に有名な台湾料理店「鼎泰豊(ディンタイフォン)」は、北京や天津などで14店舗を閉鎖する予定です。

 飲食業界のメディアプラットフォーム「餐観局」によると、今年上半期だけで100万軒を超える飲食店が閉店し、これは2022年通年で閉店した飲食店舗数の2倍にもなり、登録されたラーメン店だけでも約3万軒が閉店しています。

 同記事では、大手飲食ブランドも経済不況の影響を受けていると指摘されています。例えば、茶飲料チェーン店である「奈雪的茶(ナイシュエのチャ)」は、4.2億~4.9億元(約100億円)の損失が予測されています。鍋料理のチェーン店である「呷哺呷哺(しゃぶしゃぶ)」は、少なくとも2.6億元(約54億円)の損失を出しており、1万軒以上の店舗を持つコーヒー業界の巨人「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)」の利益も昨年同期比で半減しています。

公務員の減給と接待費の縮小

 中国のネットユーザーである王さんは、ラジオ・フリー・アジアの取材で、「経済状況が悪いため、大手のレストランや企業にはほとんど商売がない。節約のために、人々は自宅で食事をするようになっている」と語りました。

 王さんはまた、次のように述べています。「高級レストランで大規模に消費するのは現実的ではない。現在、私たちの地元では企業が人員削減や賃金引き下げを行っているのが一般的である。友人から聞いた話では、現在、政府の公務員接待も厳しく制限されている。例えば、地方政府の職員が来た場合、接待は簡単な食事だけに限られる。というのも、政府も金に困っており、余裕がないため、接待費が厳しくなっている。以前は公務員がレストランでの食事代を経費で賄うことができたが、今はもう支給されなくなっている」

 米国在住の時事評論家、陳破空(ちんはくう)氏はラジオ・フリー・アジアとのインタビューで次のように分析しています。「中国の飲食業のサービス対象は主に公務員と一般市民の2つに分かれている。高級のラーメン店やレストランは主に公務員が消費している。過去には、これらの場所で幹部が接待やビジネス上の取引を行ったり、時には賄賂が行われたりもしていた。しかし、今は反腐敗を名目にした権力闘争が進んでおり、多くの官僚が怯えている。官僚がレストランで食事をしなくなったことは、中国の高級レストラン業界にとって大きな打撃である」

 陳破空氏は、一般国民の飲食消費についても、楽観視できず、特に、3年間のゼロコロナ政策とロックダウンが、多くの国民の財布を空っぽにし、貯金も少なくなっていると述べました。また、住宅価格の下落や、不動産に投資したお金が取り出せない状況で、中産階級の収入も減少しています。このため、一般国民の飲食消費の縮小が、飲食業界の大量倒産の一因となっています。

北京市でデリバリー配達員数が約5割増加

 北京市統計局が最近発表した飲食業の状況に関する報告によると、2024年上半期、北京市の飲食業の売上高は前年同期比で2.9%減少し、利益総額は88.8%激減しました。

 同報告では、業界が困難に直面している中、従業員数は全体で2.9%増加したことが示されています。特に、デリバリー配達業では、従業員の増加が異常に著しく、49.7%に達しました。この公式報告では、この増加を消費者の出前サービスへの需要の高まりによるものとしています。

 これに対し、北京市民、郭さんはラジオ・フリー・アジアの取材で次のように語っています。「仕事を見つけるのが非常に難しい。例年では、新卒者や雇用レベルの低い地方出身者がデリバリー配達員に従事していたが、最近では、経済状況が悪化しているため、国有企業や民間企業からリストラされた中堅や幹部も、デリバリー配達の仕事に参入するようになっている。以前は北京の地元住民たちがやりたがらなかった仕事も、今では仕事を奪い合うようになってきている」

市民の消費習慣の変化

 郭さんはまた、次のように指摘しました。「多くのレストランが高コストや高い家賃のため、次々と閉店した。また、多くの店が中・高級市場から中・低価格市場へと移行し、主にテイクアウトを中心にすることで、家賃や人件費などのコストを削減し、競争力を高めている」

 陳破空氏は、「コロナのパンデミックによる3年間のゼロコロナ政策とロックダウンが、人々の消費習慣を深刻に変え、飲食市場の全体的な構造が変化したため、デリバリー業者が増加している可能性がある」と考えています。

 中国市場調査会社のIIメディアリサーチ(艾媒諮詢)が2024年1月に発表した調査報告は、陳破空氏の見解を裏付けるものでした。それによると、デリバリーや出前サービスは今や中国人の生活に不可欠な一部となっています。出前を注文することで、料理を作る時間と手間を省くことができます。また、テイクアウト・プラットフォームには多種多様な料理が用意されており、人々の多様なニーズに応えることができます。こうした特徴は、時間に追われるサラリーマンや学生にとって非常に魅力的です。

 IIメディアリサーチによると、2023年に中国のテイクアウト・プラットフォームを利用する消費者が出前を選ぶ理由のうち、65.05%の消費者が「時間がない」または「料理を作りたくないから」、50.38%の消費者が「出前が便利だから」、42.60%の消費者が「出前が比較的安いから」、33.55%の消費者が「出前が美味しいから」、31.51%の消費者が「天候や環境の理由から」と回答しています。

(翻訳・藍彧)