「人鉱」という言葉は、2023年に中国のネット上で急速に広まった造語で、人々が資源としてしか扱われず、「社会に搾取され、最終的にはゴミの山に捨てられる」人のことを指しています。この言葉は、中国共産党政権下の悲観的で希望のない状況を反映する「センシティブ・ワード」として検閲の対象となっています。

 現在の中国では、多くの「人鉱」が失業し、「35歳の壁」や結婚・出産問題が多くの女性を悩ませています。

35歳の壁

 上海に住む李さん(女性)は、30歳から中国のいくつかのインターネット企業で働き始め、ここ1年間で2度のリストラを経験しました。現在35歳の彼女は、新しい仕事を積極的に探しています。彼女はこう言います。「インターネット業界は急速に成長しているので、ほとんどの人は35歳前後になると、まるで『人間電池』のように使い尽くされてしまうのだ」

 32歳の方成文さん(仮名、女性)は、2023年の夏に3年間働いた有名インターネット企業を退職したが、現在も仕事を探しています。彼女は、「失業中の友人とは失業に関する話題を話そうとはしない。みんな、ガラスのように心が脆くなっている」と語りました。

 2人の女性の失業は決して孤立した例ではありません。方成文さんは、自分の友人の中で外資系企業やインターネット業界出身の7、8人が仕事を失っていると述べました。「2年前までは女性だけだったが、ここ2年で男性も多くなっている」

 方成文さんは上海出身で、米ボストンの大学を卒業し、アメリカで8年間働いた経験があり、2017年に帰国しました。一方、李さんはインターネット業界での5年間を含む11年間の職務経験があります。

 しかし、ここ2年間で2人の求職は非常に厳しいものになっています。彼女たちの前には、避けられない35歳という年齢の壁と、女性特有の結婚・出産の問題が立ちはだかっています。彼女たちの経験は、中国インターネット労働者の縮図とも言えるでしょう。

 経済の高速成長期を経た後の不況の中で、誰も未来を確実に予測することはできず、皆が新しい仕事のチャンスを待っているようです。

李さん、リストラでたまったストレス

 今年5月のある日、上司が突然李さんに話を持ち掛けました。「彼(上司)が私に、会社が私を解雇することを伝えた。そのとき、私はカフェに座っていて、周りには人が行き来していた。もう35歳で、これが初めての経験ではないので、冷静でいようとしたが、その瞬間、目が赤くなり、声が詰まった。何とか平静を保とうと涙をこらえるのに必死だった」と李さんは回想します。

 彼女はその夜一晩をかけて、リストラされたことを受け入れ、数日後に正式に退職しました。すべては体面を保った別れのように見えました。

 しかし、10歳年下の実習生が別れの際に彼女を評価したとき、「真面目に働いて、夜遅くまで残業してプロジェクトを終わらせても、結局リストラされた。努力は無駄だったみたいだ」と言いました。李さんは非常に怒りを感じ、職業人生で最も感情的になった瞬間だったと言います。「上司にも人事部にも傷つけられなかったが、一緒に頑張ってきた実習生にそんなコメントをされたとき、最も大きな衝撃を受けた」

35歳「人鉱」の青春の賞味期限

 方成文さんは自身の職業経験を振り返りながらこう言います。「私が大企業に入った時の年齢は、ほとんど『賞味期限』が切れていたが、当時は景気がまだ良かったので、企業もそれほど厳しくなかった。今は大企業が明確に若い『人鉱』を求めている」

 人材紹介コンサルタント会社Radiate Partners(ラディエイト・パートナーズ)の創業パートナー、張書恒氏はBBCに対して、求職市場はパレートの法則 (80対 20の法則)によって二極化しており、80%の一般大衆が仕事を探す際に多くの採用条件に直面し、残りの20%は企業が切望する人材であり、年齢などの条件に縛られないと説明しました。

 張書恒氏は「35歳の呪い」という言葉は比較的優しい表現であり、「私たちは『代替可能な労働者』と呼んでいる。つまり『人鉱』だ。人鉱の特性は、その労働が代替可能であることだ」と述べました。

 張氏は、中国のインターネット業界ではプログラマーが最も代替されやすく、若いプログラマーは通常、低い賃金で激務と長い労働時間に耐えることができると述べました。

 香港中文大学経済学部の荘太量准教授はBBCの取材に対し、「一般的な業界では従業員は35歳前後になると管理職になる。一方、テクノロジー業界ではプログラマーの解読力やプログラミング能力が重視され、管理職になる必要がない。テクノロジー業界の人々はアスリートのようなもので、若くて体力があるうちは競争力があるが、35歳前後になると競争力が低下する」と述べました。

35歳女性の結婚・出産の問題

 雇用市場における労働力の需要が減少し、採用が雇用者市場となるにつれ、企業は求職者に対してより厳しい要求を突きつけるようになっています。

 李さんが退職したテクノロジー企業は、彼女に「結婚・出産」について探りを入れました。李さんは、会社が採用通知を送る前に、人事部から結婚しているか子どもがいるかを聞かれ、「未婚で子どももいない。現時点ではその予定はない」としか答えられなかったと振り返りました。

 李さんは、子どものいない既婚女性が最も仕事を見つけにくいと考えており、さらに35歳の呪いが加わることで、彼女は彼氏と結婚について話すことさえできません。

 方成文さんも似たような経験をしており、求職中で「年齢や結婚・出産状況を聞かない会社はない」と言います。しかし、彼女は「一般的な企業は、内部の人事部ではなく、第三者のヘッドハンティング会社に依頼して尋ねさせる」と述べました。

 張書恒氏は、「中国国内の企業は、人を採用する際、すぐに使える即戦力のある人がほしい。女性社員の結婚や出産に伴うコストリスクを負うことができない。候補者の履歴書が届いた瞬間に、結婚しているか、子どもがいるかを知りたがるのだ」と述べています。

「人鉱」の未来

 35歳で再就職に直面する多くの難題に対して、職場で働く人々は早めにキャリアプランを立てるべきかもしれません。張書恒氏によれば、2015年から2019年にかけて、中国の金融業界やインターネット業界の実務家は多くの金を稼いだが、その時に計画を立てるべきだったと言います。

 張書恒氏と彼のパートナーは、もともと金融業界の実務家だったが、2022年に中国政府が金融業界に対して従業員給料に上限を設ける緊縮政策を発出し始めた後、彼らは会社を方向転換しました。

 張書恒氏は「大勢に従ってはいけない。中国では大勢に従うことが死を意味する」と忠告しています。

 方成文さんは今、長期的に安定した仕事を探したいと考えています。一方、李さんは今年の年末までに再就職したいと望んでいます。しかし、彼女は悲観的で、「今では、長期的で安定した仕事なんて存在しないと思う」と語りました。

(翻訳・藍彧)