中国の経済メディア『第一財経』の報道によると、昨年、中国の上場企業では1,456人の会長と1,773人の社長が減給となりました。減給の風潮はすでに金融業から実体経済を支える他の業種に広がりつつあります。

 最近、ある上場企業の幹部が今後半年間の給与を放棄すると発表し、中国メディアの注目を集めました。いくつかのメディアが上場企業幹部の給与支払い状況を確認したところ、すでに多くの上場企業幹部が給与の放棄や減給に同意したとのことです。そして、給与の放棄や減給に同意した幹部たちは、会社と共に難局を乗り越える意思を表明していることが分かりました。

製造業幹部、給与を放棄

 米国メディア『ラジオ・フリー・アジア』の報道によると、深セン市にある銘利達(読み方:めりだ)精密技術股份有限公司は8月20日に公告を発表し、世間の注目を集めています。公告によると、社長の陶誠氏(とうせい)と副社長の張賢明氏(ちょうけんめい)は、複雑に変化する国際情勢や海外の主要顧客による在庫削減政策などが原因で、同社の経営はかつてないほどの困難に直面しており、危機を共に乗り越えるため、今年7月1日から12月31日までの給与を自発的に放棄することを取締役会に申し出ました。社長の陶誠氏は基本給の48万元(約960万円)を、張賢明氏は36万元(約720万円)を受け取らない方針で、成果に基づく報酬は再計算されます。両氏は、この行動が全従業員および投資家の信頼を回復することに効果があると期待しています。

 この情報が発表されると、同社の株価は翌日に約5%上昇しました。同時に、「減給の風潮がA株市場で蔓延し始めた」「会社の社長が残り半年間の給与を自発的に放棄した」というトピックが多くの中国メディアで報じられるようになりました。中国経済メディア『新浪財経』の報道によると、銘利達精密技術股份有限公司は精密構造部品および金型設計を主な業務とし、太陽光発電や蓄電設備、新エネルギー車などの分野をカバーしています。同社が今年第一四半期に発表した業績は前年同期比で42.8%減少しており、これは海外顧客の需要が大幅に減少したことに起因しているとのことです。その影響で、同社の経営は黒字から赤字に転じ、株価も影響を受けました。今年に入ってから、同社の株価は累計で51.6%も下落しています。

上場企業の幹部が相次ぎ給与カット

 7月29日夜、中国のハイテク企業である北京海新(ぺきんかいしん)エネルギー科学技術股份有限公司が幹部の給与削減案を公式に発表しました。この中で、社長の年俸は3割以上減少することとなりました。同社は1997年に設立され、2010年に深セン証券取引所に上場し、実質的支配権は北京市海淀区の国有資産管理委員会が握っています。同社の主な事業はバイオエネルギーや触媒浄化材料、新石炭化学工業などです。2020年、同社は上場以来初となる赤字を計上し、2022年および2023年にも連続して赤字を計上しました。今年の第一四半期では、1億1,800万元(約23.6億円)の損失を計上しました。今年に入ってから、同社の株価は40%以上下落しており、特に6月20日以降、株価は20日以上にわたり1元台に留まり、7月24日になってようやく2元以上に回復しました。

 株価が1元台に落ち込んだ山子高科技股份有限公司(さんしこうかぎこふんゆうげんこうし)も、社長の葉駿氏(ようしゅん)が株価の連続した下落を受けて、株価が回復するまで社長報酬の支払いを停止することを取締役会に申請したと発表しました。同社は100社以上の子会社を持ち、2011年に深セン証券取引所に上場し、主に新エネルギー車や半導体材料を生産しています。

 南威(なんい)ソフトウェア股份有限会社も部分的な減給措置を実施しており、中間管理層や企業幹部の減給率は10%から30%に達しています。同社は政府のデジタルサービス運営や公共安全に関するビッグデータ運用などの事業を手掛けるハイテク企業です。

不動産幹部も減給

 不況が続く不動産業界では、多くの上場企業幹部が減給となっています。また、役員報酬の受け取りを放棄する人もいます。時間軸で見ると、不動産業界の幹部の減給は二つの期間に集中的に行われました。

 第一段階は2021年で、中国の大手不動産ディベロッパーである万科企業(ばんか)の社長である郁亮氏(ゆうりょう)がすべてのボーナスを手放し、年俸を1,093万元(約2.2億円)も削減しました。その削減幅は約90%に達しました。

 第二段階は2023年の年末から2024年の上半期にかけてです。碧桂園や万科をはじめとする企業で、幹部の年俸が一律12万元(約240万円)に減額されました。最近、緑地控股集団有限公司は、2022年から幹部の減給措置を講じており、2024年にはさらに上級管理職の給与を引き下げる予定であることを明らかにしました。

幹部の減給は経済衰退を示す

 多くのネットユーザーはこのような状況を受けて、上場企業の幹部が給与削減を受け入れ、企業を救おうとするケースが今後増えるだろうと考えています。また、一部のネットユーザーは、給与の放棄や減給は従業員に見せるためのパフォーマンスに過ぎず、企業はすぐに全社員を対象とした大幅な減給や解雇に踏み切るだろうとの憶測を示しています。幹部の減給は一般社員の不満を抑える手段に過ぎず、幹部たちは業績に連動する業績年俸やボーナス、株式などで収入を補填することができるとの指摘もあります。

 時事評論家の方原氏(ほうげん)は、企業幹部が我慢を強いられる事例は不動産会社から他の業界の上場企業に広がっており、このことは中国経済の深刻な低迷を示していると述べています。上場企業の経営状況が軒並み悪化するなか、企業幹部が減給や給与放棄といった手段を取っても、企業の経営危機を解消することは難しいと指摘しています。

 方原氏は幹部の給与カットについて「経済衰退期に見られる一般的な現象であり、幹部が給与カットをすることで企業の経営状況が上向くかどうかは大きな疑問だ」と述べています。その上で、企業が増収増益するためには経営状況を改善しなければならず、中国企業を取り巻く外部環境が変わらない限り、幹部の給与カットがもたらす効果は限定的だとしています。方原氏は「このような行動は一時的な対応に過ぎず、幹部の給与をどんなに減らしても、企業の経営に実質的な助けをもたらすことはない」と指摘しました。

 その上で方原氏は、経済全体に改善の兆しが見られない中で、企業幹部が減給や給与放棄を強いられるのは時間の問題であり、同様のケースは今年下半期にはさらに増えると考えています。

(翻訳・唐木 衛)