中国経済を牽引する三つのエンジンは、輸出、消費、投資です。このうち1つのエンジンが止まっても、残りの二つが機能していれば、中国経済は何とか前進を続けられます。しかし、2つのエンジンが止まった場合、残りの1つだけでは長く持たないでしょう。これが現在の中国経済の現況です。

M1と社会融資の規模が大幅に減少

 中国人民銀行(中央銀行)が発表した「2024年7月金融統計データ報告」によると、7月末時点でのブロードマネー(M2)は前年比6.3%増加したが、ナローマネー(M1)は6.6%減少しました。流通貨幣(M0)は前年比12%増加したが、今年最初の7か月間の現金の純供給額は記録的に低い水準を示しています。

 M0、M1、M2について簡単に説明します。ナローマネー(M1)は現金と要求払い預金、M2はM1に定期預金などの準通貨を加えたもの、流通貨幣(M0)は流通している紙幣および硬貨、すなわち現金です。

 米国在住のエコノミスト、黄大衛氏は、大紀元の取材に対し、「ナローマネーの減速は、民間の全体的な経済活動や蓄えが減少していることを示しており、これは経済の低迷が続いていることを意味します。また、企業の貯蓄や将来の投資のための資金に悪影響を及ぼしていることも示唆している」と述べました。ナローマネーの減速は、企業がすでに活動を停止していることを示唆しています。

 黄氏によると、ブロードマネーの増加は人民元の発行量が増加していることを反映しているが、ナローマネーの増加に影響を及ぼしていないことから、発行された人民元が経済発展に影響を与える企業に行き渡らなかったことを示しています。また、中国人民銀行の貨幣政策が効果を失っていることも示唆しています。

 中国人民銀行が発表したデータは、ナローマネーの減速の背後に企業が経済活動の拡大に意欲を欠いていることがあると裏付けています。データによると、今年最初の7か月間で、社会経済活動における借り入れ意欲を反映する社会融資規模の増加は前年同期比で15%減少しました。

 黄氏は、「データは、個人や企業の借り入れ意欲が急激に低下したため、大量の資金が金融システム内で『アイドリング状態』にあり、実体経済に流れ込んでいないことを示している」と述べました。

 また、中国の多くのネットユーザーが撮影した動画では、上海、広州、杭州などの一線都市で多くの店舗が閉店している様子が見られます。

 製造業の経営者たちは、今年の注文が特に少なく、多くの工場が閉鎖したと述べています。職を失った多くの人々は、路上で寝ざるを得ない状況にあります。そのため、「中国経済は全国民が寝そべり(躺平)時代に突入した」との声が多く上がっています。

上海と深セン市の株式市場が3日連続で5000億元割れ

 経済動向を示す指標である中国の株式市場はこのところ低迷しています。8月12日から14日にかけて、上海、深セン、北京の三つの株式市場の取引総額が3日連続で5000億元(約100兆円)を下回り、過去5年間で最低を記録しました。

 株式市場の低迷について、東方証券のチーフエコノミストである邵宇氏は、8月13日から16日にかけて海南省で開催された「ボアオ不動産フォーラム2024」に出席した際に、「私がこの業界に入ったときには、A株は3000ポイントを守る戦いをしていたが、今では2900ポイントを守る戦いになっている。私の職業人生はすべて『防衛戦』だったと感じる」と自嘲気味に述べました。

中国経済の問題に対する専門家の見解

 中国経済の問題について、専門家たちはさまざまな見解を持っています。黄大衛氏は、「一般的には、中国経済を牽引しているのは投資、消費、輸出の『三つのエンジン』と考えられている。しかし、実際には、2018年以降、中国経済の成長を本当に牽引してきたのは、投資や消費ではなく、唯一、輸出だけだ」と指摘し、「中国は経済成長のエンジンを誤って判断し、投資や不動産などの消費がエンジンだと思い込んでいるが、実際にはそれらはすべて輸出を支えるものにすぎない」と述べました。

 現在、中国経済のエンジンで完全に停止していないのは輸出だけです。しかし、最近の中国の戦狼外交や欧米とのイデオロギー・地政学的な対立、デカップリング、欧米による中国の電気自動車などの新製品に対する関税引き上げなどの厳しい環境下で、中国の輸出がどこまで持ちこたえられるかは疑問視されています。

2023年のデータは期待外れ

 BBC中国語サイトによると、中国の公式が発表した2023年の輸出データは、中国経済が依然として低迷していることを示しています。2023年初頭に「ゼロコロナ政策」が終了した直後、旧正月の連休明けから輸出データは急速に増加し、人民元ベースで3月の輸出が前年同月比23.4%、4月には16.8%増加しました。しかし、5月から9月にかけて輸出は連続して減少しました。10月から12月にかけても、わずかな増加にとどまりました。その結果、2023年の年間輸出は2022年と比べてわずか0.6%の増加にとどまり、経済成長への貢献は限られていました。

 専門家の分析によると、過去20年間で中国の輸出が経済に占める割合は急速に増加し、その成長率はGDP成長率の1.5倍を維持していました。2006年には輸出が中国GDPの36%を占めてピークに達しましたが、その後は下降し、2018年には19%まで落ち込み、その後安定し、2023年には輸出がGDPの18.8%を占めるにとどまりました。

 3つのエンジンのうちの1つである投資については、2023年の中国の固定資産投資(農家を除く)は前年同期比3%増加したが、2022年の5.1%と比べて2.1ポイント低下しました。ただし、この数字の背後には構造的な違いがあり、製造業とインフラ投資はGDP全体の成長率を大幅に上回っている一方、不動産投資は大幅に縮小し続けています。

 不動産投資は2年連続で減少し続け、不動産開発投資は前年同期比9.6%減少しました。2022年のマイナス10%の減少とほぼ同じ水準です。

 企業の種類によって固定資産投資の動向も異なります。中国国内資本の企業による固定資産投資は前年同期比3.2%増加したが、外国資本の企業による固定資産投資はわずか0.6%の増加にとどまり、中国への投資意欲が低下していることを示しています。

 また、香港、マカオ、台湾資本の企業による固定資産投資は2.7%減少しました。これは、おそらく台湾資本の大量撤退に関連している可能性があります。

 中国共産党は、今年3月の全国人民代表大会と中国人民政治協商会議全国委員会会議(両会)で、2024年のGDP成長率目標を5%前後に設定すると発表しました。しかし、上記のデータから見る限り、景気の低迷は変わることはないでしょう。

 エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の中国経済シニアアナリストである徐天辰(シュー・ティエンチェン)氏は、今年の5%の経済成長目標を達成することは難しいと見ています。

(翻訳・藍彧)