中国経済が低迷するなか、中国の大学生は卒業すると同時に失業者になるという憂き目に遭っています。若者の失業率が高止まりするなか、重慶市は新卒大学生を中東に「輸出」する取り組みを始めました。中国共産党当局の取り組みの背後にはどのような思惑があるのでしょうか。「看中国」はこのほど、著名ジャーナリストの何良懋(か・りょうぼう)氏に取材しました。

中国大都市、新卒生を中東に「輸出」

 大学生が卒業するとすぐ失業者になることが社会問題化するなか、重慶市は新卒生を中東のオマーンに送り出すことを決定しました。この労働力輸出プログラムでは、オマーンの企業が約70人の中国人卒業生のために技術職と幹部候補生のポストを提供します。食事と宿泊が用意され、月給は1.2万元から1.8万元(約25万円から38万円)となっています。年間14ヶ月分の給料が支給され、年に1回、中国を往復する航空券も支給されます。

 オマーンに派遣される新卒大学生は、重慶師範大学や重慶工業職業技術学院など8つの教育機関の卒業生です。彼らの多くは化学工学系の学生で、一部にエレクトロニクスや英語学部の学生も含まれています。これらの学生は、学んだ専門分野に関連する業務に就き、2年間の勤務を終えた後は契約を延長するか否かを選ぶことになります。

 重慶市が大学卒業生を中東のオマーンに派遣していることについて、ジャーナリストの何良懋氏は、中共当局が過剰な生産力を国外に輸出しようと躍起になっていることの現れだと分析します。中国では若者を中心に失業率が高止まりしており、今年卒業する1100万人の大学卒業生のうち、多くの者が就職難に直面しています。

 2023年3月時点で、中国の若年失業率は21%を超えていました。何良懋氏によると、今年は中共当局が統計データを操作しましたが、それでも失業率は14%を超えているとのことです。「実際の失業率は80%を超えていてもおかしくない。中共当局が発表するデータは逆読みしないといけない」と彼は強調しました。このままでは全国民が失業してしまうと警告しました。

失業率が中共当局に与える衝撃

 何良懋氏によると、中国の高い失業率は中国共産党政権に深刻な影響を与えています。「若年失業者が増えると、彼らは『タンピン(寝そべり)』だけでなく、政権にとって脅威となる行動を起こす可能性があると中共当局は考えている」と何良懋氏は指摘しています。中共当局は、若者を派遣社員として中東に送れば、潜在的な反乱分子を国内で抱え込む必要がなくなると考えているそうです。

 何良懋氏によると、7月30日の中国共産党中央政治局会議では、中国国内の需要が十分でないことが議題に上がりました。経済の運営は依然として厳しく、重要な経済分野には多くのリスクが存在しています。

 こうしたなか、何良懋氏は「中共当局は、失業した若者が社会的な混乱を引き起こすのではないかと懸念している」と指摘します。重慶市が先陣を切って、過剰な生産力を海外に派遣していますが、この計画が成功すれば、中国の他の地域でも同様の動きが広がる可能性があります。

 若者の派遣先も中東だけではないと何良懋氏は考えています。「最近、インターネット上では、中共当局が多くの労働者をロシアに送っているといううわさが立っている」とし、兵士として「使い捨て」にされる恐れもあると語りました。

高失業率の悪影響

 現在の中国では、高い失業率が深刻な社会問題となっています。特に目立つのは、高学歴の若者が低賃金労働に従事することです。高学歴の若者が低賃金の仕事に従事することにより、雇用がさらに圧迫されます。仕事を見つけられない若者はニート化し、両親に経済的に依存するようになります。

 成人した子供が両親に依存することにより、両親の経済的負担が増大します。子供が親のすねをかじっている状態では、親は働き続けなければなりません。中国で退職年齢が65歳に延長されたのも無理はありません。

 若者が仕事を見つけられないため、ますます晩婚化が進みます。たとえ結婚しても、経済的な状況が悪ければ子供を産むことができません。このことは中国の人口減少と高齢化をさらに加速させ、経済発展に悪影響を及ぼしかねないのです。

社会の不安定要素を国外に移転

 若年失業率の高騰を懸念した中共当局は、若者を積極的に国外に送り出しています。何良懋氏は、「中東やアフリカ、ロシア、カンボジアなどが主な輸出先だ。社会における不安定要素を国外に移転しようとしている」と述べています。

 何良懋氏はまた、中国共産党は社会的なリスクに対する警戒心が非常に強いと指摘しました。中国共産党はかつて、農民や労働者を扇動して反旗を翻し、政権を奪取しました。そのため、「中国共産党は立ち上がった若者によって政権を奪われる可能性を十分に認識している」と何良懋氏は述べています。

 2022年の白紙革命は中共当局を恐怖に陥れ、事態のエスカレートを懸念した中共当局は慌ててゼロコロナ政策を停止しました。若者が街頭に繰り出し、当局への反抗を先導することを中共当局は恐れているのではないか、と何良懋氏は分析しています。

労働力輸出は諸刃の剣

 中国の国家研究機関・中国科学院の元研究員で、現在は日本に住む中国ウォッチャーの王勇氏は、中国の失業人口が非常に多いため、他国の労働市場では吸収しきれないと指摘します。中国と密接な関係を持つ国々は往々にして工業が発展せず、労働市場の規模も限られているため、提供できる雇用は非常に限られています。重慶市政府が中東に送り出した大学卒業生は70人ほどでしたが、今後派遣される人数が大幅に増加することは見込めず、数千人、数万人規模の大学卒業生が中東に送られることはないと王勇氏は考えています。そのため、重慶市政府のこの失業政策は大学卒業生の雇用問題を根本から解決することは到底できないといいます。

 王勇氏は、中共当局が海外に労働力を輸出すること自体、諸刃の剣だと述べています。一部の大学卒業生の雇用を創出することができても、中共当局の統治にとってリスクになりうるのです。中共当局は厳しい情報封鎖を行っていますが、大学卒業生らがいったん海外に行けば、中国国内では知り得なかった情報に触れることができます。さらに、中国共産党の汚職と腐敗、大災害や人権侵害の真実を知ることになります。また、卒業生が帰国した際には、そのような情報を親族や友人に伝える可能性があります。真実を知った中国人が中共当局に対する信頼を失えば、中国共産党の統治はますます難しくなり、崩壊がより早まることになると王勇氏は考えています。

(翻訳・唐木 衛)