6月中旬以来、中国南部の多くの省が洪水災害に見舞われています。特に7月に入ってからは、湖南省岳陽市(がくようし)の華容県(かようけん)と平江県(へいこうけん)が異常な決壊や堤防崩壊の危機にさらされました。また、7月下旬から8月初旬の短い期間で、大規模な洪水が中国の東北3つの省を襲いました。
中国ではパンデミック後の経済停滞と外資の撤退が進む中、企業や著名人の寄付額が大幅に減少しています。一般市民も収入減少と中国当局への不満から慈善寄付に対する意欲が低下しており、政府の言論統制が情報の流通を妨げています。腐敗や社会道徳の崩壊が寄付文化に悪影響を与え、中国の慈善事業は今後の発展に向けて多くの課題に直面しています。
一般市民がなぜ寄付しないのか?
企業や著名人の寄付額が大幅に減少している一方、一般の人々も慈善寄付に対して関心がありません。
最近、自宅が中国南部の広東省にあり、水害に遭ったアメリカ留学中の中国人学生李雍(仮名・男性)さんは、ラジオ・フリー・アジアに対し、中国当局の言論監視により、ほとんどの洪水の発生や被害に関する情報が第一時間に封鎖され、国民が知ることのできる真実は非常に限られていると書面で述べました。李さんは「このような状況下で、個人の感想としては、(公式の報道によると)災害はそれほど深刻ではないため、人々が災害に関するニュースを重要視しなくなっている。もちろん、これは(中国)政府による世論統制の悪影響だ」と述べました。
上海出身の定年退職者である郭さん(仮名、男性)は、ラジオ・フリー・アジアに対し、国民が寄付をしない理由について、「改革から得られる利益が庶民の手に渡っていないからだ。国の経済状況はどんどん悪化しており、コロナのパンデミック以降、生活がますます厳しくなっている。収入は増えるどころか減っている上に、物価が上がっている」と語りました。
郭さんは、庶民の所得が減る一方で、中国当局に対する不満も多いため、大きな災害が発生した際に、寄付する意欲も能力もないと述べました。
俳優スターや企業も寄付をためらう
企業の寄付額が明らかに減少しているのに加え、芸能界のスターたちも今回の救援活動において比較的静かでした。
中国の「中国慈善家」誌の記事によると、これまで多くの芸能界のスターが災害救援活動に率先して参加し、社会の関心を呼びかけ、非常に優れた「先導役」を発揮していたと指摘されています。しかし、今年は、スターの公益活動に豊富な経験を持つ中華思源工程基金会が、今回の水害対応プロジェクトにおいて、率先して発言したり、協力したりする芸能人スターはまだ見られません。
アメリカ在住の前上海民間企業家、胡力任氏は「一人の芸能人スターが寄付をすれば、すぐに批判の的になる可能性がある。多くの人がその人を調査し、資金の出所を調べるだろう。今や社会全体が金持ちを憎む心理になっているからだ」と語りました。
中国《公益時報》のウェブ記事によると、7月5日に華容県の洞庭湖でも最も重要な堤防部分で決壊が発生した後、新茶飲ブランドの霸王茶姬(CHAGEE)とスナック菓子の巨大ディスカウントチェーンの「鳴鳴很忙グループ」がそれぞれ500万元(約1億円)を寄付し、アリババ公益基金会は天猫スーパー、アリババグループ傘下の物流会社「菜鳥(ツァイニャオ)」と連携して決壊地域に救援物資を提供しました。しかし、これらの善行は広く評価されることはなく、むしろ一部の批判を招きました。
これに対して、アメリカ在住の広西チワン族自治区の元民間企業家、孟軍氏は「出る杭(くい)は打たれる」と述べました。以前、彼の会社も被災地へ救援のための寄付を行ったことで中国当局の税務調査を受けたことがありました。「多く寄付すると、みんながあなたはお金を持っていることを知る。地方の税務当局が帳簿を調べに来るので、その時は私も恐れた」と孟氏が述べました。
中国の慈善公益事業はどこへ向かうのか?
中国における慈善寄付の興隆は、ここ30年間のことです。改革開放により貧富の差が拡大し、社会的な助け合いの仕組みが再構築された結果です。
ラジオ・フリー・アジアの報道によると、中国で最初の慈善団体は「GONGO」と呼ばれ、政府が監督する非政府組織であり、国有でした。1988年に国務院が「基金会管理弁法」を通過させ、現代公益の種が中国で芽を出し始めました。2004年には「基金会管理条例」が公布され、初めて公的資金によらない基金会の発展が奨励され、中国の民間基金会は歴史の舞台に登場するようになりました。
2008年の四川大地震の後、中国の社会寄付は突破的な増加を見せました。この年は「中国民間公益元年」とも呼ばれています。当時、全国の公益機関は社会から約750億元(約1.55兆円)の寄付を受け取り、中国人の17%が募金やボランティア活動に参加し、個人の寄付が企業の寄付を初めて上回りました。大規模な災害の中で民間の力が大きく発揮され、中国赤十字社などの政府が運営する慈善団体の効率の悪さが際立ちました。
孟軍氏はラジオ・フリー・アジアに次のように語りました。「国民は中国当局主催の慈善団体に対する疑念を抱いている。あなたたちは何をしているのか?困難な時に、なぜ民間がやっているのか?これらの大規模な慈善団体は何をしているのか?」
しかし、中国政府主導型の体制の下で、民間団体が募った寄付金の運用はごくわずかで、残りの大部分は赤十字社に委ねられました。最終的に、赤十字社は再び政府の部門に実施を委託しました。
2008年以降、中国の社会寄付の総額は基本的に500億から600億元(約1.23兆円)の範囲で安定しています。しかし、2011年に発生した中国赤十字社の汚職問題で、寄付金が2010年の300億元(約6000億円)から2011年には5.6億元(約115億円)に急落しました。
習近平氏が2012年に就任して以来、非政府組織(NGO)への管理がさらに厳しくなりました。民政部はいわゆる「違法な社会組織」を取り締まる動きを繰り返し打撃してきました。
近年、ネットプラットフォームを通じて個人の助けを求める募金活動が増えています。しかし、ネット技術は社会的な信頼危機の問題を解決できません。全体として、中国の慈善業界は専門性、効率性、透明性に欠けるため、中国人はたとえお金を持っていても寄付しようとしません。
胡力任氏は「お分かりだろうか。実際、中国では、これらのいわゆる慈善事業はビジネスのようなものだ。官僚が関与している一部の腐敗は、一般の建設プロジェクトの腐敗よりもひどいかもしれない」と述べました。
胡氏は、腐敗に加えて、社会モラルの崩壊もまた、多くの人々を他者の苦しみに対して無関心にさせており、それが寄付金の減少の重要な理由にもなっていると考えています。「人々は、あなたの苦しみはあなた自身の問題で、私とは関係がないと思っている。私はなぜお金を出さなければならないのか?」
(翻訳・藍彧)