6月中旬以来、中国南部の多くの省が洪水災害に見舞われています。特に7月に入ってからは、湖南省岳陽市(がくようし)の華容県(かようけん)と平江県(へいこうけん)が異常な決壊や堤防崩壊の危機にさらされました。しかし、ネット上ではかつての「一方が困れば、八方が援助する」という光景が見られません。さらには、「現在の中国では社会的な寄付が激減し、救援隊が資金難に苦しんでいる」と指摘する記事もあります。

 では、その背景の原因は何でしょうか?

多くの省が洪水被災甚大、政府の予算不足で社会からの寄付が急務

 今年の洪水期が始まって以来、中国南部の多くの省が強い降雨に見舞われ、洪水対策が厳しい状況です。中国当局は頻繁に予算を拠出していますが、その額は非常に少なく、全く足りていません。

 中国メディアの報道によると、6月17日以来、長江の中下流地域では連続的な強い降雨が続いています。この雨災により、中国南部の10以上の省が影響を受け、中国のほぼ半分が洪水の危険にさらされています。中国財務部と非常事態管理部は6月に2度にわたり、被災地に救援資金を予め配分し、それぞれ3.64億元(約74億円)と4.96億元(約100億円)を拠出しました。

 官制メディアの新華社通信によると、7月5日の午後、湖南省岳陽市華容県の洞庭湖一帯の堤防が決壊し、約48平方キロメートルの地域が浸水し、7680人が緊急避難しました。翌6日には、湖南省平江県の九峰貯水池でも漏水の危険にさらされ、地元では1000人以上が避難しました。

 中国財務部と非常事態管理部は5日、中央の自然災害救援資金として5.4億元(約109億円)を緊急拠出し、各地の救援活動を支援しました。

 7月6日、華容県の「融メディアセンター(融媒体中心)」は「社会からの寄付の受け入れに関する通知」を発表し、社会各界の思いやりのある個人、企業、団体に対し積極的な寄付を呼びかけ、共に困難を乗り越えるための協力を求めました。「融メディアセンター」は、中国で近年推進されている従来のメディアと新しいデジタルメディアを融合させたメディア機関のことです。

 その4日前の7月2日には平江県が70年ぶりの大洪水に見舞われ、公式の統計によると少なくとも36万人が被災しました。同県も「社会からの寄付の受け入れに関する通知」を発表し、広く寄付を呼びかけ、被災者の支援を求めました。

救援物資が政府に渡ると、被災者に届かない

 湖南省岳陽市華容県の被災者である陳さん(仮名)は、ラジオ・フリー・アジアに対し、「もし本当に寄付したいのなら、水が引いた後に直接被災者に寄付したほうが良い。政府の手に渡る物資や寄付金は、(腐敗問題で)被災者には届かない」と明かしました。

 陳さん一家が洪水に見舞われたため、今は親戚や友人に頼って避難しています。彼は、「政府は基本的に何もしていない。ただ私たちを追い出しただけだ。昨日、救援物資があると言われたので取りに行ったが、ミネラルウォーター1本しか手に入らなかった。叔父や叔母、他の数十人も何ももらえなかった。救援に来てくれた人たちから時々水や食料が配られることがある」と語りました。

 地元の援助資源が不足しているかという問題について、華容県政府のある職員はラジオ・フリー・アジアに対し、「具体的な状況はよくわからない。公式メディアを調べてみてください。公式には説明があるはずだ」と述べました。

社会的寄付が激減、救援隊が資金不足に陥っている

 中国南部の洪水は今年も深刻だが、例年とは異なり、公式の拠出金以外の社会的な寄付が非常に少ないです。中国の「中国慈善家」誌は7月1日に「社会的寄付が激減し、救援隊が資金不足に陥っている。救援活動をどう維持するか」と題する記事を掲載し、今回の救援活動では、テンセント、アリババ、バイトダンスの大手3社が積極的に応じたものの、全体的に企業からの寄付額は明らかに減少していると指摘しました。

 記事は「公益時報」の不完全な統計を引用し、2023年の北京・天津・河北の洪水では72社が寄付し、寄付総額は10億元(約202億円)を超えました。一方、今回の洪水で寄付を行った企業は、主に福建省や広東省の地元企業や商工会議所がほとんどでした。広東省梅州市(ばいしゅうし)の商工会議所が受け取った寄付額は約2300万元(約4.65億円)であり、福建省竜岩市(りゅうがんし)の文明委員会は、具体的な金額を発表せずに、支援企業のリストのみを発表しました。

 記事は、SNS上で多くの人々が災害の深刻さに対する関心の薄さと社会的寄付の少なさについて言及していると指摘しました。水害発生後の初期段階では、多くの公益法人が様子見の態度を取っていました。これまで、呼びかけに対応した財団法人の数は少ないです。

 記事はまた、専門的な救援活動を行うボランティア隊「全国曙光救援同盟」を例に挙げ、その救援活動の資金不足がますます顕著になっていることを指摘しました。同救援隊の隊長である王剛氏は、「今、隊員に自腹を切らせ、後で私が資金を探すしかない」と述べました。

経済状況の悪化が企業の寄付を減少させている

 ネットイースの公式アカウント「深度財線」7月7日の記事は、1998年の長江大洪水や2008年の四川大地震の際に社会各界や政府、企業からの数十億、数百億の寄付があった時代と比べると、最近の洪水災害では大規模な国有企業や民間企業からの巨額寄付が見られなくなっていると指摘しました。また、以前は大量の外資系企業が中国に対して億単位の寄付を行っていたが、今年の南部大洪水ではほとんど見られません。かつての「一方が困れば、八方が援助する」という盛況はもはや過去のものとなっています。

 2年前に米国に移住した元広西省の民間企業家、孟軍氏はラジオ・フリー・アジアに対し、「理由は明らかだ。経済状況が悪化し、多くの企業が倒産している。これらの民間企業はコロナのパンデミック後にどれだけ厳しいことを経験したか、誰もが知っている」と述べました。

 元上海の民間企業家、胡力任氏もラジオ・フリー・アジアに対し、経済状況が良い時には一部の企業が利益を上げていたが、寄付も必ずしも本意からではなかったと述べました。「私の知る限り、それも地元政府がある目標を達成するために企業に寄付を促した結果だ。企業が寄付することで、例えば税金の減免や控除などの交換条件が得られることもあった。しかし、現在は企業の状況が悪く、政府が企業に寄付を求めても企業は応じられなくなっている」と述べました。

 コロナのパンデミック後、中国経済は停滞し、外資が大量に撤退し、2023年第3四半期には中国の外資が1998年以来初の赤字となりました。同時に、中国の富豪たちは国外逃亡の波を引き起こしました。統計によると、2022年と2023年の2年間で中国から海外移住した百万長者は24000人を超え、持ち出された富は約1600億米ドル(約23.5兆円)に上ります。これが当然慈善寄付にも影響を与えるでしょう。

(翻訳・藍彧)