孔子(絵:志清/看中国)

 近頃、「中国共産党政権は崩壊に近い」という声がますます多くなってきています。なぜかというと、政党が誠実さを失えば、国民の支持を失います。国民の支持を失えば、その政権は崩壊からそう遠くありません。
 その根拠はどこにありますでしょうか。今回は、中国の歴史にあるいくつかの例を使って説明してまいります。

「信」の重要性

 『論語』にこんな一節があります。
 孔子の弟子・子貢(しこう)が政治の要道(大切な教え)を問いました。孔子は「食料を満たし、軍備を充実し、人民に信義を持たせることだ」と答えました。子貢は「国情からして三つ同時進行が無理だとしたら、何を後回しにすべきでしょうか?」と問いました。孔子は「軍備を後回しにしよう」と答えました。さらに子貢は「国情からして残りの二つさえ同時進行が無理だとしたら、どちらを後回しにすべきでしょうか?」と問いました。孔子は「食料を後回しにしよう。食料が不足すれば餓死する者も出て来ようが、食い物があろうが無かろうが、人は皆いつかは死ぬものだ。もし人民が信義を失ってしまったら、禽獣と同じになって、人間社会は成り立つものではない」と答えました。
 孔子の考えでは、たとえ強大な軍隊であろうと経済が豊かであろうと、人民の「信」とは比べものになりません。人民の君主に対する信頼は国家の基本であり、個人の誠実さは社会の基礎であり、いかなる場合でも放棄してはならないということです。
 『道徳経』によれば、「正を以って国を治め、奇を以って兵を用いる」とあります。戦争では奇襲をかけ、予測不可能な作戦を打ち出すものですが、国を治めるにあたっては、正をもって国を治め、徳をもって民を納得させなければなりません。常に信用を重視しない人であれば、その人の人格はすでに破綻しており、魂のない人間と同じで、社会に立脚することはできません。同様に、国家の統治者が誠実さを失えば、人民はもはや彼を信用しなくなり、その政権はすでに有名無実であり、崩壊も遠くないでしょう。
 ですから、古代中国の政治の権力者は、食と兵が足りていることを重視すると同時に、徳政を推進し民衆の信頼を得て、民衆の心をつかむことで、国を永く安定させたのです。さもなければ、ひとたび道徳が崩壊すれば、たとえ兵隊が強く、国が豊かであったとしても、国の滅亡は近い将来起こり得るでしょう。

礼、義、廉、恥は建国の根本

 中国春秋時代有名な宰相・管仲(かんちゅう)は、礼・義・廉・恥の四文字は国家の大もととなる「四維(四つの大網)」であり、立国の根本なので、これを失えば国家は滅亡すると考えていました。そのため、彼は斉の桓公(かんこう)に「まず礼と義に従い、諸侯の信頼を得てこそ天下の支配権を握ることができる」と進言しました。
 紀元前681年、斉国は宋国の内乱に乗じて、宋国とその周辺諸国を斉国の北杏で盟約を結び、宋国を安定させる計画を協議しました。この協議の席で、魯国の曹沬(そうかい)は突然、斉の桓公に短刀を突き付けて脅し、斉国に占領されていた魯国の地を返還する約束を無理やり結ばせようとしました。仕方なく斉の桓公は同意するしかありませんでした。
 その後、斉の桓公と大臣たちの多くは、約束を反故にし、出兵して報復しようと思いました。しかし、管仲は同意せず、「約束を破ることは小利を貪って我欲を満たそうとすることです。出兵することで一時の喜びを得られても、結果的には、諸侯の信頼と天下の援けを失うことになりましょう。かえって、一国の大国が、もし脅されて結んだ約束を守ることができれば、必ずや天下の信用を得ることができましょう」と言いました。
 斉の桓公は管仲の忠告を聞き入れ、約束を守りました。これを知った各国の諸侯は皆、斉国を信頼できると思い、多くの諸侯が斉国の支配下に入ろうとしました。
 後世の人によれば、斉の桓公が混乱した情勢を安定させ、「九合諸侯」や「天下を正す」といった春秋時代の偉業を成し遂げることができたのは、彼が公約を守ったからだと言われています。

民の献策に率直に答える唐の太宗

 中国歴史上、誠実に国を治めた明君として唐の太宗・李世民がいます。彼は、唐王朝の長期的な安定を拠り所とし、君と臣の心を一つにし、互いに誠実に対応することで、国家はよく治まると主張しました。太宗は、隋が滅亡したのは隋の煬帝(ようだい)が大臣を邪推したことが大きな原因だと考えていました。一方、太宗は誠実さをもって臣下に接し、人を使う時にも疑いませんでした。ですから臣下は恩に報いようとし、忠誠心をもって力を尽くしました。

 貞観の初め、ある人が太宗に意見書を上呈し、朝廷の中の「奸臣(邪悪な心を持った臣下)」を排除するよう求めました。
 太宗はこのことを重く受け止め、意見書を上呈した人を直接呼び出させ、面と向かって「私が任用した大臣はみな賢明善良です。あなたには誰が忠臣でないか分かるのですか?」と言いました。
 その人は「私は民間人でおります故、どなたが奸臣なのかはわかりません。しかし、私には一つ名案がございます。陛下が試されるなら、必ず奸臣の正体を暴くことができます」と言いました。
 太宗が「どんな名案ですかな」と尋ねると、男はこう答えました。
 「陛下が大臣たちと国事についてお話合いをされている時、わざと間違った意見を主張するのでございます。さらに機に乗じて激怒されるのです。この時、陛下が龍のごとく怒るのを見ても恐れず、真理を主張し、極刑も恐れず率直で正しい意見を述べる者であれば、それは直臣(理の通った大臣)でございます。これに反して、陛下の威厳を恐れ、自分や家族の命を案じて、陛下の意向に従い、陛下の意志に迎合する者であれば奸臣でございます」
 これを聞いた太宗は納得せず、この人に言いました。
 「水が澄んでいるか濁っているかの鍵は水源にあるのです。君主は政治を行う源であり、臣民は水と同じなのです。水源が濁っているのに、澄んだ水にしようと思っても不可能なのです。君主が策略を弄し、腹黒いことをやっているのに、どうして臣下を高潔で正直な者にできるだろうか?」
 「私は信じる心を強く持つことで天下を治め、忠誠心をもって国を治めなくてはならないので、けっして正道に外れた行いをしない。あなたの策略は悪くはありませんが、私には何の役にも立たないし、決して取り入れることはありませんよ」
 意見書を上呈したその人は、自分の行為を心から恥じ入り、急いで宮殿から退出しました。

 このことからわかるように、国を治めるにあたっては、統治者が守るべき信用を臣民に与えるべきであり、決して策略をもくろんで自らの支配を固めてはならないのです。

中国共産党政権の崩壊が遠くない理由

 では、現在の中国共産党(以下、中共)政権を見てみましょう。党が設立された当初、でたらめな言葉で国民を騙し、国家の政権を奪い取りました。その後、暴虐な政治と嘘のプロパガンダを使って支配を維持し続けています。あたかも虎を恐れるかのように一切の真実を恐れ、真実が伝わることを防ぐためには一切の代価も惜しまず、暴力によって真実を封じ込めました。暴力は中共の遺伝子であり、嘘をつくことは中共の本質であり、その支配の下で、いわゆる「公安」の存在は社会全体の安全のためではなく、ただ中共の安全を保つためだけの存在となっています。
 もし国家の統治者が誠実さを失えば、国民はもはや彼を信用しなくなり、その政権は名ばかりでそれに見合う実質はなく、崩壊も遠くはないでしょう。なぜなら、中共は道徳も正義も重んじず、誠実さなどまったくないからです。国内外まで人民の心は離れてしまっているため、この政党はとっくに死んでいると言っても過言ではありません。一旦嘘で覆われた霧が完全に取り除かれれば、この政党は一瞬にして跡形もなく崩壊するでしょう。
 中国の歴史上の各王朝、各時代、世界の他の国々を見ても、中共と似た政権や中共の仲間になった政権は、支配を維持するために暴力を使い、世論を抑圧するために権力を用い、国民を欺くために嘘をついてきました。これらの政権の崩壊と同じように、中共政権の崩壊も遠くはありません。

(文・唐風/翻訳・夜香木)