中国当局は長年にわたり、オリンピックに巨額の資金を投入し、西側諸国に勝つことで、いわゆる共産主義体制の優越性を示そうとしてきました。今年のパリオリンピックも例外ではありません。しかし、3年間のパンデミックによる厳しい「ゼロ・コロナ」政策と経済の低迷を経て、一部の中国民衆は、「なぜ中国共産党(以下、中共)はオリンピックの金メダルを追求するために巨額の資金を費やしながら、経済的に苦境に立つ国民を救済するための資金を惜しむのでしょうか?」という疑問を呈しています。

 中国が1979年にオリンピックに復帰する際、中共はオリンピックを「重要かつ緊急の政治任務」と位置づけ、5枚の金メダルを目標に掲げました。2001年に北京がオリンピック開催地として選ばれた後、中国政府は「2001~2010年オリンピック栄光計画綱要」を発表し、2008年のオリンピックでメダルランキングのトップ3に入ることを目指しました。2011年には、再び「2011~2020年オリンピック栄光計画綱要」を発表し、金メダルとメダル数の優位性を維持することを目標にしました。

 中共は長年にわたり、「国家が全面的に関与し、政府部門が分担し、財政が一括して供給する」という「挙国一致」体制を構築し、オリンピックで金メダルを獲得することを中心としたスポーツシステムを形成しました。この体制は、共産党の「先進性」を示すためのものです。

 元中国国家バスケットボールチームの選手であり、スポーツコーチである陳凱氏は、大紀元とのインタビューで、中共は自分たちが独裁政権であり、合法性に疑念があることを認識しているため、宇宙開発や金メダル獲得、大規模なインフラプロジェクトを通じて、政権の合法性を証明しようとしていると述べました。

 「彼らは、国民のスポーツとは全く関係のない競技に投資します。例えば、ホッケーです。中国でホッケーをする人はほとんどいませんが、なぜホッケーを選ぶのでしょうか?それはマイナーな競技であるため、金メダルを取りやすいからです。」

 2008年の研究論文によると、中国国家体育総局副局長の崔大林氏は、体育総局長が政府と契約を結び、オリンピックの金メダル目標を達成することが求められると述べました。目標を達成できなかった場合、最善の場合は体育総局の党組織から厳しい批判を受け、最悪の場合は職を失うことになります。

 共産主義の「金メダル獲得機器」の一部として、政府は全国の省や都市に数千の体育学校を設立し、4歳、5歳の子供たちから将来のオリンピックチャンピオンを選び出しています。中国のオリンピック選手の95%はこれらの学校から輩出されています。

 しかし、これらの子供たちの大多数は、正規の学校教育を受ける機会を逃しています。『中国体育報』によると、過度なトレーニングの結果、約80%の中国退役スポーツ選手が失業、貧困、または慢性の健康問題に悩まされています。

 元中国国家バスケットボールチームの選手であり、現在カナダでバスケットボールのコーチを務める鞠浜氏は、大紀元とのインタビューで、中国ではスポーツが一つの道具に過ぎず、完全に共産党の統治を支えるために使われていると述べました。「共産党は非常に狡猾で、スポーツを使って中国人を洗脳し、国民生活とは無関係な競技に投資して、ある種の幻想的な合法性を手に入れ、彼らの違法性や悪行を忘れさせています。」

 世界各国がオリンピックに資金を投入しているのは事実ですが、中共のように国家主導で行っている例は極めて稀です。比較すると、オリンピックでいい成績を収めているオーストラリアでは、昨年のオリンピック予算の約4分の1が政府によって支出されました。アメリカの選手は政府からの資金援助を受けず、主に民間のスポンサー、チャリティー、放送収入、エンドースメントに依存しています。

 中共がオリンピックに向けて投入した資金の額は、公式にはほとんど明かされていませんが、2004年のアテネオリンピック前後に一部報道がありました。『グローバル財経観察』2004年第8号によると、アテネオリンピック前の2001~2004年の間、国家から約57億元が投入され、その結果、中国は32枚の金メダルを獲得しました。1枚の金メダルの平均コストは1.78億元でした。

 スポーツ総局テニス管理センター党委員会書記の張小寧氏は2004年、中国中央テレビとのインタビューで、1人のテニス選手にかかる年間の費用は100万元を超えると述べ、オリンピックのない年でも総額700万~800万元の投入が必要で、オリンピックやアジア大会の年には1000万元を超えると述べました。

 同年、劉翔氏がアテネオリンピックで110メートルハードルの金メダルを獲得した後、当時の体育社会科学研究センター主任であった鮑明曉氏は、劉翔の過去1年間の訓練や競技費用は300万元を超えると明かしました。

 国家体操チームのコーチである錢奎氏は、2001年から2003年にかけて、国家体操チームの年間費用は2000万元であり、これは体操チームの訓練費用に限定され、競技場の建設費用は含まれていないと述べています。

 2001年に北京がオリンピック開催地に選ばれた後、スポーツ予算は急増しました。中共は「オリンピックでの金メダル獲得プロジェクト」として、「119工程」を提唱し、数百万ドルを費やして新しい訓練施設を建設し、世界トップクラスの外国人コーチを雇うために数十万ドルを投じました。

 2024年には、中国国家体育総局のスポーツ予算が78億元に増加し、各省の体育予算はさらに膨大になっています。

 2022年の研究論文によると、2018年の全国の体育財政支出は471.2億元で、そのうち省級支出は429.5億元であり、全体の91.1%を占めています。2019年には、全国の体育財政支出は462.9億元で、そのうち省級支出は458.1億元で、全体の98.9%を占めています。

 巨額の資金が投入されているため、中国のスポーツ選手は超国民待遇を享受しています。スポーツ関係者は「私たちの費用は年々増加しており、その支出は確保されています」と述べています。アメリカの女子ボートコーチは、中国のスポーツ選手を「必要なすべてのリソースを持っているロボット」と表現しています。

 これまでのオリンピックで、中国は金メダルの獲得数でアメリカに次いでいるが、これらの金メダルは中共にそれほどの名声をもたらしませんでした。3年間の厳しい封鎖と経済の停滞を経て、中国の若者の失業率は上昇し、中産階級や中小企業は破産の危機に瀕し、ホワイトカラーは減給し、住宅ローンに苦しむ不動産所有者が増えています。一方で、中共は莫大な税金を金メダル獲得に費やしており、経済が不況の時には国民を救済しようとせず、国民の怒りを買っています。

 ネットユーザーの中には、「金メダルを取ったところで、私たち庶民には何の関係もない」、「どれだけ金メダルを取っても、医療費は高いままで、住宅ローンや車のローンの支払い金額も変わらない」、「経済がこれだけ悪化しているのに、食品の安全すら確保できない、誰がオリンピックなんか気にするの?」「たとえ100枚の金メダルを取ったとしても、遺体売買事件が国民に与えた衝撃には到底及ばない!」といった声が上がっています。

(翻訳・吉原木子)