現在、世界各国は製造業に多額の資金を投入し、クリーンエネルギー、チップ、及びその他の未来技術の主導権を争っています。しかし、中国共産党による重点産業への支援の規模は、他国を圧倒しています。

 ウォール・ストリート・ジャーナル5日の報道によると、中国政府が製造業に提供する補助金は、米国、欧州連合、さらには他のアジアの輸出強国を遥かに超えています。推定によると、中国当局は毎年国民所得の約5%を産業に投入しており、この割合は2位の韓国の6倍に相当します。

 一部の研究者によると、中国の特異性は、工業支援の規模が大きいだけでなく、支援の対象産業が非常に広範であることにもあります。ドイツのシンクタンクであるキール研究所(Kiel Institute)のデータによると、中国の上場企業の99%が何らかの形で補助金を受けていると報告しています。

 中国は2020年に上場企業に対して、2136億元の補助金を提供し、前年から14%増加し、史上最高を記録しました。半導体および軍需企業への補助金が顕著に増加しました。半導体分野では、上場企業の数は限られているものの、113社の関連企業に対する補助金の総額は106億元に達し、10年前の12倍に急増しました。

 半導体受託製造企業である中芯国際(SMIC)は、約25億元の補助金を受けただけでなく、複数の政府基金が中芯国際の子会社に対して22.5億ドルの出資を行っています。北方華創科技集団および中微半導体設備などの半導体メーカーも補助金を増加しています。

 戦闘機事業を手がける中航沈飛、そして中国版のグローバル・ポジショニング・システム(GPS)事業を展開する北京北斗星導航技術などの軍需関連企業も補助金を急増させています。

 中国の金融ソフトウェアサービス企業である万得(Wind)によると、巨額の補助金を受けている上場企業には、石油・ガスの大手企業、通信供給業者、物流会社、消費電子機器製造業者などが含まれます。中国のバッテリーメーカーである寧徳時代(CATL)は、2023年に最大の補助金を受け、その総額は57億元(約7.9億ドル)に達しました。

 政府からの補助金に加え、中国企業は強力な国家政策の支援も受けています。西側諸国や競合企業は、この支援が中国企業を世界市場で有利にしていると主張しています。

 中国企業は、中国国有銀行から低金利の融資を受けることができるだけでなく、多額の税制優遇も享受しています。また、地方政府からは工場建設用の廉価な土地を提供され、国有の製鉄所からは廉価な鋼材を得、国有の公共事業会社からは廉価なエネルギーを得ています。

 政府背景の投資ファンドは、資金を必要とする企業に対して数十億ドル規模の株式融資を行っています。
研究機関である龍洲経訊(Gavekal Dragonomics)の中国専門アナリストであるトーマス・ガトリー(Thomas Gatley)氏は、「中国はこの点において本気であり、他国は太刀打ちできない」と述べています。

 ワシントンのシンクタンクである戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)の報告によると、2019年、中国の産業政策への支出は約17.5兆元(GDPの約1.7%)に達し、この割合は2位の韓国の2倍で、米国の0.4%、日本の0.5%、フランスの0.6%を大きく上回っています。

 中国による工業への大規模な支援は、海外でますます広範な不満と抵抗を引き起こしています。欧州連合は、中国から輸入される電動自動車に関税を課すことを発表し、欧州の生産者を不公平な競争から守ることを目指しています。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長は、中国政府が関連産業に巨額の補助金を提供しているため、電気自動車の価格が引き下げられ、大量に各国市場に流入し、欧州の市場秩序を歪めていると述べました。

 中国の輸出業者は、英国、インド、ブラジルなどの国々から反ダンピング調査に直面しており、これらの国々の生産者は、補助金を受けた中国の製品(建設機械、鉄鋼、セラミックなど)との競争が難しいと主張しています。

 サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、中国欧州商会の会長であるイェンス・エスケルンド(Jens Eskelund)氏は最近、「中国は経済成長を促進するために供給を増やすことに専念しており、これはヨーロッパと他の国に挑戦をもたらしている。このようなモデルを変える必要がある。欧州諸国は、価格の問題で欧州の産業基盤を構成する重要な戦略産業が市場から排除されることを受け入れられない」と述べました。

 また、企業の財務報告書を通じて、補助金の規模を確認することもできます。万得によると、2023年に深センと上海に上場している企業が申告した政府補助金の総額は330億ドルに達しました。

 上海汽車集団は昨年、5.6億ドルの補助金を申告しました。その他に多額の補助金を受けている企業には、中国移動(China Mobile)、比亜迪(BYD)、消費電子機器の大手であるTCL科技(TCL Technology)などが含まれます。

 補助金を受けているのはハイテク業界だけではありません。鉄道設備製造業者である中国中車(CRRC)の年次報告書によると、同社は昨年、2.14億ドルの補助金を受けました。国有石油・ガス大手である中国石油(PetroChina)の年次報告書では、同社が3.43億ドルの補助金を受けたことが示されています。

 中国政府が工業を支援するもう一つの重要な手段は、企業に低金利の融資を提供することです。中国政府が不動産融資から、経済推進に極めて重要なハイテクとみなされる「新質生産力」への融資に徐々に移行するにつれて、製造業者への融資が急激に増加しています。

 研究者によれば、中国の国有銀行が提供する低金利融資は国家補助金をも超えています。龍洲経訊と経済協力開発機構(OECD)の研究によると、中国では国有企業が民間企業よりも低金利の融資を受けることが多いです。

 例えば、中国のチップ大手企業である中芯国際(SMIC)は、2023年に支払った平均金利が2.10%であると述べています。これに対し、昨年末の中国中央銀行の5年期ローンの基準金利は4.2%でした。

 CSISのデータによると、中国の産業税制優遇に対する支出は国民所得比で他のどの国よりも高いです。2020年から、より小型でより高度なチップを製造するメーカーは10年間、そうでないチップを製造するメーカーは最初の5年間は所得税が免除され、次の5年間は50%の減税が受けられます。コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によると、ソフトウェア、農業、インフラなどの分野の企業も税制優遇を享受しています。

(翻訳・吉原木子)