近日、上海や北京、成都などの大都市で、100万元(約2100万円)以上の住宅ローンを組めば、銀行から5グラムの金をプレゼントされるとの情報が中国のネット上で出回っています。金の現物を渡すことから人々の間では「現金支給」とも呼ばれており、中国の住宅ローン市場が低迷していることを示す現象と考えられています。
北京や天津といった一線都市では、住宅価格が最大で70%も下落しており、売り手は大きな損失を被っています。有識者は、中国の住宅価格はすでに2年近く下落し続けており、中国経済は悪循環に陥っていると指摘しています。
不動産市場と「現金支給」の深い関係
中国メディア「毎日経済新聞」によると、中国の銀行の住宅ローン業務における「現金支給」戦略は、金融業界の秘密とされてきました。中国の不動産業界に詳しい関係者によると、中国の銀行では、住宅ローンを組む際にキャッシュバックを行うことは長年行われてきました。
キャッシュバック率は一般的に借入総額の0.5%~1%前後です。不動産市場が不景気になると、銀行のキャッシュバック率は高くなります。以前は銀行が直接仲介業者やディベロッパーにキャッシュバックしていましたが、現在は直接ローンを組む顧客にキャッシュバックしているとのことです。
四川省成都市のある住宅ローン仲介業者は、指定の銀行で住宅ローンを組む場合、キャッシュバック率は最高0.8%に達すると述べています。すなわち、100万元(約2100万円)のローンを組むと、最大で8000元(約17万円)のキャッシュバックをもらえるということです。
ある上海の住宅購入者は、今年6月に100万元以上(約2100万円)の住宅ローンを組みました。ローンを申し込む際、銀行の職員は、直接現金でキャッシュバックすることが許されていないため、金額相当の5グラムの金を支給することになるとの説明を受けたと話しています。
上海に住む林さんは、初めて家を購入する際に仲介業者を通じて上海の銀行から300万元(約6300万円)の住宅ローンを申請しました。ローンの審査が通過すれば、貸付金額の約0.5%から0.6%のキャッシュバックを受け取ることができると言われたそうです。
大都市で相次ぐ住宅価格の急落
ここ最近では、北京や天津、南京などの一線都市や二線都市でも住宅価格の急落が起きています。下落幅は最大70%を記録し、多くの人々が損失を被っています。中には失業で生活が立ち行かなくなり、やむを得ず自宅を売却した人もいます。長年の貯蓄を使い果たし、夢のマイホームまで失った人々の悲痛な叫びが、インターネット上で確認されています。
北京で働くある夫婦はネット上に投稿した動画で、「やっと家が売れた」と話しています。夫婦は当初、1平米22000元(約45万円)の場所で、総額308万元(約6500万円)を支払って140平米の自宅を購入しました。しかしいざ売却すると、1平米7800元(約17万円)にしかならず、売値は110万元(約2300万円)でした。住宅価格だけで198万元(約4200万円)の損失を被っただけではなく、住宅ローンや内装工事費も含めると、「損失は268万元(約5700万円)に達する」とのことです。
さらに、住宅ローンの残債が180万元(約3800万円)残っているため、家を売っても差額の70万元(約1500万円)を返済しなければならないのです。現在、夫婦はともに失業していますが、二人の子どもを養う必要があります。夫婦の両親は高齢のため、金銭的な支援ができない状況です。
一方、天津市武清区の不動産開発プロジェクト「天津首創新北京半島プロジェクト」では、住宅価格が160万元(約3400万円)から39万元(約830万円)に暴落し、話題のニュースとなりました。中国の不動産業界紙の報道によると、この不動産開発プロジェクトでは2016年から2017年初頭にかけて、1平米あたり2万元(約40万円)という高い売値がつけられていました。そのため、83平米の住宅が160万元(約3400万円)で売られていたのです。しかし現在では新築価格で1平米あたり7000元(約15万円)にまで落ち込んでいます。69平米の2LDKの住宅であれば49万元(約1000万円)ほどで購入可能とのことです。中古住宅の価格はさらに下がり、39万元(約830万円)で売りに出されることもあります。
中国の不動産情報サイトによると、2021年から2024年にかけて、天津市武清区では中古住宅の価格は下落傾向が続いています。今年5月の成約件数は1,032件で、17.73%の減少となっています。
さらに、中国の一線都市だけではなく、二線都市や三線都市でも住宅価格の急落が報告されています。
中国のあるセルフメディアによると、江蘇省南京市周辺の住宅価格はかつて1平米あたり13000元(約27万円)だったが、現在では1平米あたり3000元(約6.4万円)にまで下落しています。
「王さん」と名乗る河南省鄭州市のセルフメディアは6月28日に動画を投稿し、鄭州市南西部の住宅価格が1平米あたり11000元(約23万円)から3000元(約6.4万円)にまで下落したと伝えました。
借金を抱え、江西省南昌市の家を売却せざるを得なかったというネットユーザーも住宅価格の暴落を嘆いていました。100万元(約2100万円)で購入した自宅がいざ売却すると30万元(約640万円)でしか売れなかったそうです。
中国国家統計局が6月17日に発表したデータによると、70の大都市と中規模都市において、新築住宅および中古住宅の販売価格はいずれも下落したとのことです。
専門家「元凶は経済政策の誤り」
専門家たちは、中国の住宅価格が急落した主な原因は、中国当局の間違った経済政策に起因すると考えています。
台湾の中華経済研究院のアナリスト・王国臣氏は、中国の不動産市場が不況に陥った原因は2つあると指摘しています。一つ目は、人々に金銭的余裕がないこと、二つ目は、人々が新築住宅を購入することを躊躇していることです。そのため、中国当局が民衆に経済的な補助を行わない限り、住宅価格は今後も下落し続けるだろうと述べています。
一方、アメリカの経済学者である黄大衛氏は、現在の(中国)住宅市場は供給過剰の状態にあり、商業不動産や工業不動産の状況はさらに深刻だと分析しています。黄氏は、人気区画を除けば、住宅価格は以前の3分の1にまで下落しており、今後さらに落ち込むだろうと分析しています。しかし、価格が下落しても買い手がいないため、短期間ではさらに暴落する恐れがあるとしています。
王国臣氏は、中国の住宅価格がすでに約2年間にわたって下落し続けていることから、様々な付随する問題を引き起こす可能性があると考えています。問題が拡大すれば、不動産業界や金融業界、さらには中国経済全体に悪影響を与えるだろうと述べています。
王氏は「住宅市場が不況に陥ると、経済全体が空回りするだろう」と分析しています。経済全体が空回りする状況では、政府の財源がますます不足し、不動産市場の問題を解決するのもますます難しくなります。そのため、「中国はすでに悪循環に陥っている」と王氏は警鐘を鳴らしています。
(翻訳・唐木 衛)