中国の経済低迷、稼ぎにくいのは一体誰のせいでしょうか?アメリカのシンクタンクの調査でも、ボイス・オブ・アメリカのインタビューでも、以前と比べると今の答えが著しく変わっているのは明らかです。

 習近平氏が政権を握り始めた頃、人々はもっと自分自身を責めていました。私の能力が不足しているのでしょうか?私の努力が足りないのでしょうか?私の性格が悪いのでしょうか?という具合です。

 ボイス・オブ・アメリカの報道によると、習近平氏の3期目が始まり、中国経済が苦境に立たされ、政治的抑圧が強まるにつれて、ますます多くの中国人は自分自身を責めなくなったといいます。多くのインタビュー対象者は、「政策の問題だ」「体制の問題だ」「習近平の問題だ」と回答します。

 10数年前と比べても、中国人はもはや簡単に騙されなくなっています。しかし、ある哥老会(かろうかい)の子孫がボイス・オブ・アメリカに対し、「中国人は自殺を選ぶ勇気はあっても、中国共産党に反抗する気骨はない」と述べました。

 哥老会は、清代18世紀に四川省で生まれた中国の反体制秘密結社の一つです。農民の互助自衛組織として発展し、湖南省・湖北省を中心に長江上流域に広がり、反清復明(はんしんふくみん)を掲げて活動しました。

哥老会の子孫の遭遇

 金儲けが難しいことについては、すでに中国人の共通認識です。なぜ金儲けが難しいのか、家庭によって見解が異なります。同じ家庭内でも意見が分かれることがあります。

 中国西部の省出身で建設業に従事している強さん(男性)は、ボイス・オブ・アメリカの取材に自身の経験を語りました。強さんは「曾祖父が哥老会のリーダーだった。そのため、家族はずっと不平等な扱いを受けてきた。祖父も父も、そして私も、中国共産党を気にくわない」と語ります。

 強さんは「父であれ、母であれ、いとこであれ、みんな私の個人的な能力が足りないとか、性格が悪いからだと言う。しかし、私の目には、あまり稼げないのは全体の環境と(中国)国内の政権体制によるものだと映っている」と述べました。

 強さんはかつて富の自由を夢見ていましたが、中国当局が導入した新しい政策の下で、彼の希望が打ち砕かれました。「2012年、父がダンプカーを買って建設現場で土砂を運んでいた。当時、雇い主が車のガソリン代を支給し、車に問題があれば修理代も出してくれた。当時は月に1.2万元(約25万円)稼げていた。商売が順調だったので、家族は私のためにもう一台ダンプカーを買う計画を立てていた。しかし、2017年に政府が環境保護に取り組始め、一連の政策を打ち出したため、約1年後に父は車を売り、私は働きに出なければならなくなった」

 強さんによると、中国当局は環境汚染に関する規制を強化しているため、彼の故郷の都市だけで、2万以上の中小企業が倒産したといいます。「環境保護は確かに国や国民に有益であるが、政策の実施があまりにも急すぎた。実施の過程で不正な利益の勘定がたくさんあり、私の目には、国民の負担を増やし、ただ庶民を苦しめるものであった。隣人の若者が経営するレストランも、環境保護部門から指定の業者から20万元(約400万円)もする空気浄化装置を買うように求められた。実際、一般の商店なら2、3万元(約20~60万円)で買える」

 中国国内での就職機会がないため、強さんは出国して金儲けのチャンスを探そうと思い、労働エージェントを通じて2度国外に出稼ぎに行きました。「低賃金の仕事で1日に300〜400元(約6100~8200円)稼げ、高賃金の仕事では1日に500〜600元(約10000~12000円)稼げる。大変な仕事だが、中国国内よりはマシだった」と述べ、現在は中国にいる強さんは、次の国外での働き口を待っています。

習近平氏の統治に対する批判

 アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の最新報告書によると、2023年に実施された調査で、貧困や生活困難の原因について、個人の要因が重要ではないと考える中国人が増えていることが明らかになりました。この報告書によれば、「機会の不平等」と「経済制度の不公平」がそれぞれ1位と3位に挙げられています。2014年、2009年、2004年に実施された同様の調査では、「機会の不平等」はそれぞれ4位、5位、6位、「経済制度の不公平」はそれぞれ9位、10位、8位でした。また、過去20年間、貧困の原因として能力不足や努力不足が常に上位3位に挙げられていましたが、2023年の調査では、中国人の認識が変わり、能力不足は6位、努力不足は5位に位置づけられました。性格の悪さは2004年の4位から2023年には7位にまで落ちていました。

 自分を責めないことは共鳴を呼んでいるようです。北京や広東などで活躍するある短編映画監督は、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、次のように語りました。「中国共産党の統治があまりにも厳しく、私のような無名の者だけでなく、多くの若者も知名度を上げる機会を失っている。TikTok(ティックトック)で短編動画が炎上したとき、彼ら(中国当局)は規制し、短編映画監督が海外映画祭に参加することが多くなり、短編映画市場が盛り上がると、彼らはまたそれを規制する。規制することが彼らの慣用手段だ」

 同監督は、中国国家電影局(SFA)が7月初めに、短編映画が海外映画祭に参加する際には、国内の最初の制作会社や出展法人が国家映画局に提出し備案(担当局に提出して、ファイリングしてもらう事)しなければならないという新たな規定を出したことに触れ、「備案とはいえ、彼らが脚本を審査する可能性が高い」と述べました。

 また、名前を明かしたくない中国のベテランメディア関係者はボイス・オブ・アメリカの取材に対し、こう語りました。「個人の努力は政治的な鉄壁(てっぺき)には勝てない。歴代党首が政権を握っていた時も不満を抱いていたが、彼らに比べれば、習近平は最も厄介で翻弄(ほんろう)する人物であり、彼がその状態をいつまで続けるか分からない。メディア業界は完全に変質し、価値のある深い報道をするのは非常に難しくなっている。私のように何かをしたいと思っている者は意気消沈している」

 個人の苦境は大きな環境によるものであり、個人の問題ではないと考えることが昨年9月に証明されました。中国のトップライブストリーマーで、「口紅王子」の愛称で知られる李佳琦(オースティン・リー)氏が、2023年9月10日に中国産ブランド「花西子(フローラシス)」のアイブローを販売していたところ、79元(約1600円)という価格に視聴者から「高すぎる」とのコメントが寄せられました。李氏は視聴者に対し、「自分の問題を見つけるべきで、何年も給料が上がっていないのなら、十分に仕事を頑張ってきたかどうかを反省すべきだ」と述べました。この発言は庶民の怒りを引き起こし、「給料を上げたくない人がいるのか?でも努力しても望みがかなうとは限らない」との批判が殺到し、李氏は1日で淘宝(タオバオ)ライブと微博(ウェイボー)で合わせて150万人以上のフォロワーを失いました。

(翻訳・藍彧)