(イメージ / Pixabay CC0 1.0)

一、相次いで起きた殺傷事件

 今の中国は、ナショナリズムが高まり、社会全体が不穏な空気に包まれています。

 2024年の6月24日午後、中国江蘇省蘇州市で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った50代の中国人男性に襲われ、日本人の親子が負傷する事件が起きました。その際、乗務員として勤務していた中国人女性・胡友平さんが犯行を止めようとしましたが、男に刺され、26日に病院で死亡しました。

 2024年4月には、蘇州でも日本人駐在員が中国人とみられる男に切り付けられる事件が起きています。両事件に関連性があるかどうかは不明ですが、いずれも日本人を狙った襲撃事件だと見られています。

 2024年5月13日午後3時頃、東京都葛飾区在住の徐謙(中国籍)は、SNSに中国語で日本の幼稚園児を殺害するとほのめかす投稿をしました。5月21日、警視庁小松川署は徐容疑者を威力業務妨害の疑いで逮捕しました。

 2024年5月31日の夜中、東京靖国神社の石柱に、中国人ユーチューバーが「放尿」した後、「toilet」とスプレーで落書きをした事件がありました。男はその日の飛行機で日本を出国し、自分が撮影した動画をSNSでアップしましたが、中国では、彼のことは英雄視されています。 

 さらに、2022年8月10日、中国で日本の浴衣を着ていた若い中国人女性が、蘇州の淮海街という日本情緒街で写真を撮った際に、秩序を乱す「騒動挑発」という容疑で、警察官に強制連行される事件がありました。

 攻撃のターゲットは日本だけではありません。2024年4月10日、中国吉林省の公園で米国人の大学教員四人が中国人男性に刺される事件も起きています。

 中国人の外国人に対する敵意が高まり、憎悪が蓄積しているように見受けられますが、実は今の中国社会では、中国人同士の傷害致死事件も相次いで起きています。事件や事故の現場の生々しい映像がSNSに投稿され、拡散され、人々に衝撃を与えています。

 中国で一体何が起こっているのでしょうか。  

二、中共政府によるヘイト教育

 これらの事件の背後には、中共政府が行ってきたヘイト教育が作り出した極端な反日、反米感情が潜んでいること、そして歪んだ価値観を持つ中国人が少なからず存在することを認識しておかなければなりません。

 ヘイト教育とは、歪曲された歴史や、誤った歴史観を教え込むことによって、「憎悪」という感情を人々の心に注ぎ込むことです。ヘイト教育は、学校教育を通して行うだけではなく、マスコミや文学作品、テレビドラマや映画など、ありとあらゆる分野から、「憎悪」という物質を人々の頭や体に浸透させるのです。

 中共は政権を奪い取ってからの75年間、中国の人々に対して、徹底的なヘイト教育を行ってきました。

 なぜ「これほどヘイト教育を行わなければならないのか」という疑問について、『共産主義の究極の目的』の第六章(上)、「『憎悪』を国家の支柱とする」の一節には、次のように書かれています。

 「共産党は『憎悪』をもって立国し国を治める。その大げさに宣伝している『愛国主義』は、実をいうと、『憎悪主義』である。『党』の辞書の中での『愛国』とは、米国を恨む、西側を恨む、日本を恨む、台湾を恨む、チベットを恨む、自由社会を恨む、普遍的価値観を恨む、『真・善・忍』を修める善良な人を恨む、中国共産党のいわゆる『敵』を恨むことを意味する。」

 今の中国の人々は、「温、 良、 恭、 倹、 譲(おだやかで、すなおで、うやうやしく、つつましく、人にゆずる態度)」と言った中国の伝統的な価値観を知らず、礼節をもって神を敬い、謙虚をもって人をもてなすことこそが真の「不変の真理」であることを知らないのです。

 「今日の人は、闘争や恨みを『高尚』と見なす。さらにその上古代以来の中国人はずっと『天と戦い、地と戦い』と思い込んでいる。……日本へ旅する多くの中国人は、日本人の礼節と謙虚な態度に驚きを隠せない理由はここにある。これこそが中国で中国共産党により破壊され日本で保存された中華の伝統的価値観である。」

と『共産主義の究極の目的』には書かれています。

三、忘れられた伝統的美徳

 「憎悪主義」と正反対なのは、中国の5000年の歴史の中で、世代を超えて受け継がれてきた「寛容と忍耐」という高尚な徳行です。

伝説では、老子は周を去る際、水牛に乗っていたという(Laozi, Public domain, via Wikimedia Commons)

 中国には、「恨みに報ゆるに徳を以てす」という古い諺があります。それは老子の『道徳経』の63章に出てきた「報怨以徳」という言葉から由来しています。それは、恨んでいる相手に対しても、恨みを晴らそうとするのではなく、徳を施すべきだ、という意味です。

 「恨みに報ゆるに徳を以てす」といえば、昭和二十年、日本が中国に敗れた時、時の中華民国国民政府主席、故蔣介石氏が行った演説が有名です。

 1945年8月15日の中国時間の正午、蒋介石氏は重慶で行ったラジオの演説の中で、

 「わが中国の同胞は、『旧悪を念(おも)わず』と『人に善を為す』ということがわが民族伝統の高く貴い徳性であることを知らなければなりません。われわれは一貫して、日本人民を敵とせず、ただ日本の横暴非道な武力をもちいる軍閥のみを敵と考えると明言してきました。

 但し、われわれは報復してはならず、まして無辜の人民に汚辱を加えてはなりません。(中略)われわれは、慈愛をもって接するのみであります。もし、かっての敵が行なった暴行に対して暴行をもって答え、これまでの彼らの優越感に対して奴隷的屈辱をもって答えるなら、仇討ちは、仇討ちを呼び、永遠に終ることはありません。これはわれわれの仁義の戦いの目的とするところでは、けっしてありません。」

 と、中国国民に対して、日本人には危害を加えないよう訴えました。そのため終戦時には、二百数十万人の中国にいた日本人は、国家的、集団的な危害を加えられることなく日本に帰国することができたのです。

 中華民国国民政府による日本への寛大な措置は、まさしく「報怨以徳」という老子の教えの実践でした。

 残念ながら、今の中国では、このような道徳と信仰の基盤は完全に破壊されてしまいました。

 長年のヘイト教育に加え、コロナ禍の中、極端な町封鎖の政策に引き起こされたストレスや、経済不況による生活苦も相まって、ますます多くの中国人が憂鬱を感じ、イライラし、心に敵意が満ち溢れ、些細なことで喧嘩をし、暴力やナイフで訴えることが増えています。中共政権は中国の人々にとっても、災難であり、脅威でもあリます。

 近い将来、中国共産党は必ず崩壊するでしょう。

 中国には「真実、善良、寛容」と言った普遍的な価値観が必ず回帰し、中共によって植え付けられた憎悪感情は必ず一掃され、中国においては、天を敬い、道徳を重んじる古来の伝統が再び現れることを信じています。

参考文献:『九評』編集部新刊 『共産主義の最終目的』

(文・一心)