図書館にこもる失業者たち

 中国の失業率が上昇し続けており、就職問題が若者に大きなプレッシャーを与えています。多くの失業者は家族に知られて心配されることを恐れ、毎日まだ働いているふりをしています。このような人々は通常、各地の図書館に通い、そこを待機期間の避難場所としています。

 中国のウェブメディア「澎湃新聞」の報道によると、多くの解雇された人々が毎日図書館に隠れて、まだ働いているふりをしています。記者はそのうちの何人かにインタビューし、彼らの心境を語ってもらいました。

莫莉(モリー)さんのケース

 40歳女性の莫莉さんは、多くの会社が人員削減を行ったため、何度も仕事を変えざるを得ず、現在も安定していないと明かしました。彼女は、毎週3、4日は図書館にこもり、有名人の伝記を読み、本の中の物語で自分を癒やし、生活を続ける勇気を得ていると述べました。

 彼女は以前、有名な外資系企業で数年働いていましたが、まさかリストラされるとは思っていなかったといいます。その後、何度も転職を繰り返しましたが、結果として何度も解雇されました。現在、仕事探しの月給希望を6000元(約13万円)に下げても面接の機会を得ることができません。

 莫莉さんは、自分が失業中であることを知っているのは夫だけで、他の家族は誰も知らないと述べました。「両親が失業していると知ったら、心配をかけるだけで、知らない方がいい。だから毎日早く出かけて、仕事に行く時間に合わせて図書館に行き、夕方5時か6時に帰る」

易浩(イー・ハオ)さんのケース

 易浩さん(男性)は、かつてIT業界の大企業でプロダクトマネージャーを務めていましたが、無情なリストラから逃れられませんでした。彼も現在、毎日図書館にこもり、失業後の仕事探し期間中の避難所として利用しています。彼は数え切れないほどの履歴書を送り出し、何度も面接を受ける中で、中国の職場の不確実性を深く実感しています。

唐婷(タン・ティン)さんのケース

 唐婷さん(女性)は、一線の大都市で職を失ってから故郷の貴州省に戻りました。その後、毎日図書館で公務員試験の準備に明け暮れ、公務員に受かることで仕事を安定させたいと願っています。

 図書館にこもる失業者の中には、成功例も少数存在します。かつて国有企業で働いていた張漾(ジャン・ヤン)さん(男性)は、福利厚生など条件の良い国有企業を離れ、図書館で専門知識の勉強に励み、最終的にはビジネス講師となり、自らの価値を再構築しました。

鄭敏(ジョン・ミン)さんのケース

 35歳女性の鄭敏(ジョン・ミン)さん(仮名)は財務関係の管理職として勤務していましたが、昨年末にコンサルティングサービス会社から解雇され、以来失業状態です。福建省漳州市(しょうしゅうし)出身の彼女は、過去半年間にアモイ市で、新たな職を求めて履歴書を100通以上書いたが、返信がなかったり、会社が提示する条件が彼女の要求に合わなかったりして、まだ新しい職に就けていません。

 彼女によると、「10年以上財務の仕事をしてきた。かつての月給は2万5000元(約54万円)程度だった。今では同等の職でも多くの企業は8000―1万2000元(約17万-26万円)程度しか出そうとしない。しかも勤務時間が長いなどの悪条件もある」と述べました。

 求職が実らなかった彼女は、今年5月にかつて離れた深セン市に戻り、一線都市で理想的な仕事を見つけようとしています。「3年前に深セン市を離れてアモイ市で働いたのは、故郷に近いからだった。しかし、現在の賃金水準では生活費を維持するのに不十分で、深セン市に戻らざるを得ない」

 鄭敏さんは、2018年初めに深セン市に来た時と比べて、現在の雇用市場は明らかに変わり、選べるポジションが減り、競争が激しくなっていると嘆きました。

 「今の市場は雇用主が従業員を選ぶのであって、従業員が雇用主を選ぶのではない。企業は従業員を選ぶ際、職歴の空白期間に対して非常に敏感で拒否反応を示している。女性は求職中に職場の差別、特に婚姻状況や出産計画なども問題にされ、さらに不利な状況に直面している」

深セン市のリストラの波は主にテクノロジー業界に集中

 シンガポールの中国語新聞「聯合早報」の記者が深セン市の竜華区内の図書館を訪れたところ、平日だったがほぼ満席状態でした。多くは若者で、パソコンで履歴書を書いたり、動画を見ていたり、机に突っ伏して眠っている人もいました。

 深セン市当局が発表したデータによると、今年第1四半期(1-3月)の新規失業者登録数は前年同期比で40.1%増加し、前期比で15%増加しています。この数字には、登録していない人や以前に登録した失業者、失業後も自分で社会保険基金を支払っている人は含まれていません。実際の失業者総数の一部しか公開されていませんが、このデータは深セン市当局の公式ウェブサイトから削除されました。深セン市は2022年から、失業率そのものは公開しなくなりました。

 ただし、中央政府国家統計局の発表では、今年第1四半期の全国都市部の調査失業率は平均5.2%で、前年同期より0.3ポイント下落しました。失業率の高い若年層も、今年4月の失業率は14.7%で、前月の15.3%を下回りました。この数字が現実離れしていると考える人は多いです。

 ソーシャルメディア上では、深セン市在住の多くの失業者が、家族に心配させないために、失業したことを隠して図書館やカフェなどに「仕事に行くふり」していると投稿しました。

 記者の取材や調査によると、深セン市の多くの産業、特に金融とテクノロジー業界は、中国国内の経済環境が不安定な中、不確実性に対処するため、従業員を解雇したり、雇用を減らしたりしているといいます。

 世界各地で人材あっせん業を展開するロバート・ウォルターズの中国法人である華徳士中国の王瑩副総監は、「深セン市の今年の第1四半期の人員削減は主に科学技術業界に集中しています。この業界では昨年以来、人員削減の流れが続いている」と説明しました。王副総監は、科学技術業界の状況について、「科学技術企業は過去数年間、経済情勢が好調だった時期にあまりに急速に拡大しました。しかし、今は経済の落ち込み、国際貿易環境の悪化、新たな政策や法規による制限、技術が高度になり研究開発に困難が生じたことなどで、企業の経営と発展は打撃を受ける可能性があります」と分析しました。

 王副総監によると、同じ科学技術業界でも分野によって状況は異なります。人工知能(AI)、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの新興技術に注力する一部の企業は依然として成長の勢いを維持していますが、従来型のハードウェアメーカーやソフトウェア開発会社はより厳しい状況に直面しているとのことです。

 広東省体制改革研究会の彭澎執行会長は、深セン市が産業構造の変化に直面しているとの見方に基づいて「現在の深センの失業率の上昇は、労働力市場が産業構造の変化に適応するにあたり一定の困難が存在していることを反映している」との考えを示した。

(翻訳・藍彧)