今年4月から「過剰生産」という言葉が突然、中国の対外貿易におけるホットワードになりました。米国のジャネット・イエレン財務長官が訪中した際、中国の電気自動車、リチウム電池、太陽光発電製品産業の過剰生産がアメリカに損害を与える可能性があると指摘しました。その後、訪中したドイツのオラフ・ショルツ首相も中国の過剰生産について懸念を示しました。昨年10月には、欧州連合が中国の電気自動車に対する政府補助金問題の調査を開始しました。
これに対し、中国側は何度も弁解しています。財務省、商務省の官員、さらには李強首相も世界的に見てこれらの産業には過剰生産が存在せず、たとえ過剰があったとしても、市場経済下の正常な現象であるとしています。
しかし、調査によると、中国政府は消費を刺激する有効な措置を打ち出せず、逆に製造業、特に電気自動車や太陽光発電産業への投資を続けています。この行動の悪影響はすでに顕在化しており、正常な市場の発展を傷つけるだけでなく、消費者の生命の安全も脅かしています。
中国の自動車メーカー「AITO Car(問界)」が販売した「AITO M7 Plus(以下、問界M7)」が2024年4月26日、山西省の高速道路で事故を起こしました。
この事故で家族を失ったという女性が複数のソーシャルメディアに投稿したところによれば、弟が運転していた問界M7が山西省運城市の高速道路で走行中に、追い越し車線で前方の散水車に追突し、火災が発生し、車内の3人が亡くなりました。事故車両は衝突後にエアバッグが展開せず、ドアも開かず、3人が焼死しました。
この事故は、欧米諸国が中国の電気自動車などの製品の過剰生産やダンピングを批判する中で発生し、中国製品の品質についてさらなる疑念を引き起こしました。
米サウスカロライナ大学エイキン校の謝田教授は、ラジオフリーアジアとのインタビューに対して、「中国の電気自動車は見た目が華やかで、様々な機能を持っていますが、基本的な自動車の安全性がクリアされていません」と述べました。
中国の上場企業の4分の1が利益を上げていない
ウォール・ストリート・ジャーナルは21日、中国の上場企業の財務諸表を分析した結果、10年前はわずか7%だった中国の上場企業の約4分の1が利益を上げていないことが分かったと報じました。
中国のソーラーパネルメーカーであるロンジソーラーは9日の夜、2024年上半期の純損失が48億から55億元になると予測する公告を発表しました。同社によると、太陽光端末市場への製品やサービスの投入を拡大し、部品の販売量を前年比で増加させましたが、太陽光業界全体の需要と供給のミスマッチにより、主要製品の市場販売価格が大幅に下落し、損失が発生したとのことです。
同日、鞍山鋼鉄股份有限公司も業績予告を発表し、2024年上半期の利益が26億7900万元の損失になる見込みです。主な原因は、鉄鋼業界の低迷が続いていること、需要の弱さ、鉄鋼価格の不安定です。
江蘇龍蟠科技(Jiangsu Lopal Tech)は、電池に使われるリン酸鉄リチウムを供給しています。経済観察報5月7日の報道によると、龍蟠科技は4月29日に2023年の年報を発表し、会社の純利益は12億3300万元の損失を計上し、直近3年間の利益をほぼ抹消しました。同社は、この損失を中国のリン酸鉄リチウム市場の生産過剰と国内バッテリーメーカーの需要減速に起因するとしています。
生産過剰は中国経済の予測可能な結果
多くの経済学者は、生産過剰は中国経済システムの予見可能な結果であると考えています。北京政府は常に補助金や減税、国有銀行や投資ファンドを通じて、資本を人気のある業界に誘導しています。
ドイツのキール世界経済研究所は4月10日に発表した新たな研究によると、北京当局は電気自動車やその他のクリーン技術の主導権を推進する一環として、中国の自動車メーカー「BYD(ビーヤーディ)」は少なくとも34億ユーロの政府補助金を獲得しました。
この報告書の共著者の一人であるディルク・ドゥーズ(Dirk Dohse)氏は、中国では政府による補助金が非常に一般的で、2022年には上場企業の99%以上が政府から補助金を受けていると指摘しています。
ニューヨーク・タイムズによると、中国には100以上の工場が毎年約4000万台の内燃機関車を生産でき、中国市場の需要の約2倍にあたります。一方、中国の官員は「三中全会」の記者会見で、不動産市場の低迷に対処するために、北京は電気自動車や太陽光発電などの「新興および未来産業」の発展を加速すると述べました。
しかし、ゴールドマン・サックスの2023年の分析によると、中国が優先的に発展させる3つの主要産業(電気自動車、リチウムイオン電池、再生可能エネルギー)は中国のGDPの約3.5%に過ぎず、十分な雇用機会を提供できないとされています。
ミシガン大学の中国専門家メアリー・ギャラガー(Mary Gallagher)氏は最新の研究で、大躍進から中国の不動産ブームまで、生産過剰は中国共産党の広範なガバナンスの一部であり、そのガバナンスモデルは生産過剰と目標を超過達成する傾向にあると述べました。
中国の産業政策は将来の成長を犠牲にしている
米経済調査会社であるロジウムグループの中国市場研究責任者であるローガン・ライト(Logan Wright)氏はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、「投資主導型の成長モデルは限界があり、最終的には需要が必要です」と述べました。
競争力を維持するために、中国企業は世界規模で市場を探し、海外生産に投資したり、高関税国で製品を販売したりしています。これらのやり方は中国企業が国内で新製品に投資したり、賃金を引き上げたり、新しい従業員を雇用する能力を制限しています。
オックスフォード・エコノミクスの中国チーフエコノミストであるルイーズ・ルー(Louise Loo)氏はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、供給量を増やして需給バランスを崩すことで、中国は今日の成長を創り出していますが、明日の成長を犠牲にしていますと述べました。
「現在何を生産しても、将来は生産しなくなるでしょう」と彼は述べました。
(翻訳・吉原木子)